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美しき異形達

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第四十八話 薊の師その十二

「それで横須賀のレコード店にもサインがあるんだよ」
「横浜の選手のがなのね」
「万永さんの現役時代のとかな」
 薊は裕香ににこりと笑って話した。
「そういうのがあるんだよ」
「万永貴司さんね」
「あの小さい人な」
「あの人確かに野球選手としては小さいわね」
「だからベイスターズの漫画だとリトル万永君って言われてたんだよ」 
 ササキ様に願いをという漫画である。
「あたしあの漫画好きでさ」
「横浜ファンだから」
「孤児院に全巻あっていつも読んでたよ」
「そうだったのね」
「こっちでも古本屋で集めようかね」
 今住んでいる神戸でも、というのだ。
「そうしようかね」
「神戸でベイスターズの本ね」
「ちょっと場違いだけれどな」 
 それでもというのだ。
「集めようか」
「それもいいわね」
「ああ、あの時にベイスターズ優勝したんだよ」
 その漫画が連載されていた時にだ。
「佐々木さんがいてな」
「大魔神さんね」
「あの人がストッパーでさ、齋藤隆さんもいたし」
「かなり懐かしい人達ね」
「今となったらな、もうあの時の選手で横浜に現役で残ってる人なんて」
 昔を懐かしんで言う薊だった、目が遠いものを見るものになっている。哀愁さえ漂っている目になっていた。
「番長差んだけか」
「三浦大輔さんね」
「ああ、もうな」
「あの人ももう凄いベテランよな」
「そうなんだよな、二百勝は無理か」
 年齢的にも勝利数のペースでもというのだ。
「あの人も」
「二百勝は誰でも難しいわ」
 菖蒲が薊の望んでいる言葉にこう告げた。
「二百セーブも」
「だよな、二千本安打も難しいけれどな」
「二百勝はその中でもね」
「一番難しいか」
「そう思うわ」
「そういえば最近二百勝いった人マジで少ないな」
 しみじみとして言う薊だった。
「山本昌さんとか工藤監督位か」
「松坂さんいけたらしいわね」
「黒田さんもな」 
 この願いはチームを越えていた。
「いって欲しいよな」
「折角だからね」
「二百勝いってるとな」
「もう違うのよね」
「ああ、一つのしかもでっかい節目だから」
「記録であると共にね」
「だからいって欲しいよ」 
 どんな選手でも、というのだ。
「いけるのならな」
「本当にね」
「ただ阪神はね」
 向日葵が少し残念そうに述べた。
「中々ね、二百勝いった人が」
「あれ、いないのかよ」
「戦前の若林さんがいってるけれど」
 七色の変化球投手と呼ばれていた、その巧みな投球術も有名であった。むしろその投球術が彼に七色の変化球投手という称号を与えていた。
「それに小山さん、村山さん江夏さん」
「四人だと多いんじゃね?」
「多いかしら」
「ああ、結構なものだろ」
「ううん、けれど長い歴史でよ」
 阪神の昭和十一年から続くそれにしてはというのだ。 
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