パンデミック
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第六十七話「違和感の正体」
前書き
専門学校にバイト……あぁ、忙しい。
かなり投稿が遅れがちですが、頑張ります。
―――【レッドゾーン“エリア27” 中央広場】
タガート隊とアクエリアスとの戦闘は30分経っても決着がつかない状況だった。
タガートと兵士4人でアクエリアスに猛攻を仕掛けるも、すべて避けられて終わる。
アクエリアスも手刀で対抗するが、ベテランの部類に入るタガート達になかなか攻撃を当てられない。
お互いに決定打がない平行線が続く戦い。
しかし、その平行線もすぐに崩れた。
長期戦による疲労のためか、一人の兵士が足をもつれさせ、よろめいた。
「(まずい!)」
タガートは兵士を後退させようとしたが、遅かった。
アクエリアスの手刀が腹部に当たり、そのまま刺し貫かれた。
兵士の背中から、アクエリアスの血濡れの指が見えた。
「ぐふっ……」
腹を刺し貫かれ、大量に吐血しながらも、アクエリアスの腕にサバイバルナイフを突き立てる。
しかし、そんなささやかな抵抗は適合者に通用するはずもない。
戦闘開始時に見せた歪な笑みを浮かべたまま、びくともしない。
「クソッ………タガートさん……ご武運を……」
その言葉と同時に、アクエリアスの腕が勢いよく引きずり出された。
腹からは噴水のごとく血が流れ、兵士は自らの血の海に倒れた。
それだけで満足しなかったのか、アクエリアスは兵士の遺体を思い切り蹴り、タガートのすぐ後ろに
寄越した。兵士の遺体は力なくゴロゴロと転がる。
「……………呆気ないもんだなぁ…」
兵士を刺した手をぼんやりと眺め、ため息を吐く。
「貴様……」
「…………今怒るのか? 怒るにはまだ早いと思うがなぁ」
「グオォォォォォォォォォォオオオオォ!!!」
突然聞こえた感染者の咆哮。
音の発生源は、すぐ後ろ。
「うわあぁあぁぁぁぁ!! よせぇ!!!」
仲間の絶叫。
そのすぐ後の咀嚼音。
振り返ったタガートの視界には……………
先ほど遺体になったはずの兵士が、仲間を貪り喰う姿が鮮明に見えた。
「タガートさん! これは一体…」
「………………」
兵士の呼びかけにタガートは応じない。
ほんのわずかな沈黙の後、タガートは感染者と化した兵士に静かに歩み寄る。
タガートの存在に気付いたのか、口から血と涎を垂らしながら向かってきた。
「グオォォォォォォ!」
タガートは持っていたナイフをしまい、突進してくる兵士に足払いを仕掛ける。
「グウゥゥ!?」
バランスを崩し転倒するも、即座に起き上ろうとする。
その瞬間、タガートは素早く兵士の頭と下顎を掴み、力の限り捻じった。
ゴギンッという音が鳴り響く。兵士の首があり得ない方向に不自然に曲がる。
「安らかに眠れ……」
息絶えた兵士の亡骸に静かに呟く。
「……貴様…俺の部下を冒涜してなにが面白い?」
「…………仕方のないことだ。これが自分の能力だからなぁ」
アクエリアスの適合能力は、他の適合者と比べても面倒なものだった。
”即効性接触感染”
適合者の中ではかなり厄介な部類の適合能力だ。
高濃度のコープスウイルスを身体に纏い、接触した人間をほぼ100%感染させる。
纏ったウイルスの感染有効範囲は、せいぜい皮膚から1.5㎜までだが、適合者の身体能力を
合わせれば、それ程大した弱点にはならない。
高濃度である故か、アクエリアスが放つウイルスに感染した人間は、30秒もしないうちに
感染者に変貌する。
「(接触した時点で即時感染……打撃は控えた方がいいな……)」
アクエリアスの挙動をじっと見ながら、タガートは静かに分析する。
触れた時点で感染するのであれば、直接触れる打撃は使えない。
「全員聞け。ここからは短期決戦だ。これ以上戦闘が長引けばいずれ奴に捕まる。そうなれば、
感染して味方に余計な被害が出る。いいな?」
「「了解」」
タガート隊が一斉にアクエリアスに攻撃を仕掛ける。
「面倒だなぁ……後は任せた」
アクエリアスの小さな呟きは、タガート達の耳には届かなかった。
しかし、何かをしようとしているのは伝わった。
「(奴の能力は一度見ている。距離を保ちながら立ち回れば……)」
ナイフを構え駆けながら思考を巡らせる。
タガートと彼の部下たちの刃が到達する直前……
「「!?」」
その場にいた全員が驚愕した。
消えた。
目の前から、敵が忽然と姿を消した。
「なんだ? 何が起きた? 奴はどこに行った?」
タガート達が慌ただしく視線をあちこちに巡らせると……
「……ここだ」
背後から声。
振り返ってすぐに居場所が分かった。
タガートと兵士たちのすぐ後ろにいた。
いれば確実に気配で気づくであろう位置に、何食わぬ顔で立っていた。
「………はぁ…また戦局が動いていたか……まあいいか」
「…? 何を言って……」
「……さっきも言ったが、自分は戦闘は他人任せだ。とは言え、自分が立ち回ると、大抵
戦闘が終わっていたりするんだが……今回はそうはいかなかったようだ」
意味が分からない言葉をタガートに言い終えると、大きくため息を吐いた。
初めて遭遇したときと同じ、面倒くさそうな表情を浮かべて。
これだけの時間をかけても分析が出来ない敵は初めてだ。
殺気どころか敵意すら感じさせないと思いきや、平然と兵士を感染者に変貌させた。
かと思えば、今度はまた殺意を引っ込めた。
「(……いや、まさかな…そんな馬鹿な適合者がいるものか……)」
タガートの中で、一つの可能性が出てきたが、それを否定した。
あり得ないと思ったから。
しかし、タガートの”可能性”は当たっていた。
「………今度こそ全員を感染させて…仲間のもとに送ってやる……」
再び歪な笑みを浮かべて駈け出した。
手刀を素早くタガート目掛けて突き出す。
「くっ!」
間一髪で手刀をかわし、ナイフを振って牽制する。
「(まさかとは思ったが……こいつ、本当に……)」
一定でない敵意と殺気。感染能力と瞬間移動のような能力。先程の不可解な言動。
タガートはようやく理解した。
今まで感じていた、違和感の正体に。
「タガートさん? どうしましたか?」
「…聞け……敵はおそらく…二重人格者だ」
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