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大晦日のスノードロップ

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3部分:第三章


第三章

 森は雪に覆われていたが火の灯りに照らされそれを頼りに先に進むことができた。リーザはその行く先々でこれだという木を見つけてはそこの雪を払って十字の傷をナイフで切り込んでいた。
「何をしてるの?」
「目印つけてるの」
 リーザは姉の問いにそう返した。
「目印」
「うん、道に迷っても無事に帰られるように」
 その為のナイフであったのだ。木に傷をつける為の。
「こうやってればわかるよね」
「そうね、よく考えたわね」
「だってスノードロップ摘んでもそれを持って帰らないといけないから」
 リーザは言った。
「だから。こうしてるのよ」
「そうだったの」
「お姉ちゃん、絶対にスノードロップ見つけようね」
 そのうえで姉にこう言った。
「そして持って帰って」
「ええ、絶対にね」
「それでお母さんを楽にしてあげよう」
 二人はその為に森の中に入ったのだ。雪も夜も獣も恐れずに。全ては母親の為二。その為に森に入ったのであった。
 森の中を少しずつ進んでいく。まだスノードロップは見つからない。
「ないね」
 リーザが下を見下ろしながら言った。雪と闇に隠れているのかそれは見当たらない。
「森の中だったらあると思ったのに」
「まだ諦めるには早いわよ」
 マーシャは弱気になる妹を励ました。
「まだ入ったばかりなのに」
「そうか」
「そうよ、だからまだ探しましょう」
 そしてこう言った。妹に対して言ったが半分は自分に対してだった。
「きっとあるから」
「うん」
 二人は探し続けた。だが見つかりはしない。困り果てていた時にふとリーザがマーシャに声をかけてきた。
「お姉ちゃん」
「見つけたの?」
「御免、違うけど」
 だがリーザは言った。
「考えたんだけれど」
「ええ、何を?」
「私達でスノードロップ作らない?」
「私達でって?」
「ほら、お姉ちゃん刺繍得意だし」
「ええ」
 マーシャは刺繍では誰にも負けはしなかった。これに関しては絶対の自信があった。
「私も。アクセサリーとかなら出来るから」
「けれどそれスノードロップじゃないし」
「いえ、スノードロップよ」
 リーザは言った。
「いつも咲いているスノードロップ。それじゃあ駄目かしら」
「そうね」
 彼女は妹の言葉に考え込んだ。それから言った。
「陛下ってそうしたことに怒られない方だったわよね」
「刺繍とかお好きらしいけれど」
 女性だからであろうか。この時の女王は刺繍やアクセサリーが好きなことで知られていた。
「やってみる?」
「うん、それじゃあ」
 リーザは頷いた。
「まずはおうち帰ろう、そしてね」
「ええ、それで」
 二人は早速リーザがつけた目印を頼りに家に帰った。そして少しずつだが刺繍とアクセサリーを作っていった。それから暫くして。かなりの数のスノードロップの刺繍とアクセサリーが出来上がった。
「これ、陛下にお渡しすればいいのよね」
「ええ」
「やっと出来たこれを」
 もう大晦日前になっていた。何とか間に合った形であった。
「陛下が気に入って頂けたらだけれど」
「大丈夫よ」
 リーザはにこりと笑ってマーシャに言った。
「きっと気に入って頂けるわ」 
 この言葉には何の根拠もなかった。だが彼女は確信していた。これなら、と思ったからだ。マーシャも妹のその言葉に何故か納得するものがあった。そして頷いた。
「そうね」
「ええ、だからね」
 リーザはまた言った。
「お渡ししましょう」
「ええ」
 こうして二人は役人を通してそれを女帝に渡した。この時女帝エカテリーナはツアールスコエ=セローにおいて執務を執っていた。だが民からのスノードロップを贈られたと聞いて顔をそちらに向けた。

 
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