少年少女の戦極時代・アフター
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
After18 異星へ
夜は明けた。
咲たちは迎えに来た貴虎と凰蓮の車に分乗して、鎮守の森跡地へ向かった。
車から降りるヘキサはすでに白い祭服姿で、表に出ているのは舞なのだろうと察しがついた。
その小さな舞は、まるで紳士にエスコートされる淑女ように、光実に手を取られて車を降りた。
舞が咲たちを案内したのは、跡地の中心にそびえ立つ大樹の前。
――去年の夏頃、突如として現れた大樹だが、なぜか近隣住民もマスコミも騒ぐことなく、まるで何十年も前からそこにあったかのように、大樹は現在の沢芽の人々に受け入れられた。
舞が大樹に手をかざすと、大きな縦のクラックが開いた。
クラックの向こうには宇宙が広がり、一つの惑星があった。
「蒼い星……地球みたい」
咲は思ったままを口にした。
舞がヘキサの顔で苦笑した。
「メインで暮らしてるのが人類じゃなくてインベスって点を除けば、紘汰とあたしの果実の力で、地球と環境は変わらないとこまで持って来られたわ。あまり身構えないで」
咲たちは肯き合い、見送りに来た貴虎、城乃内、凰蓮、ザック、ペコ、チャッキーをふり返った。
「城乃内。貴虎。俺たちがいない間のことは」
「大丈夫。任されたよ、リーダー。なるべく早く帰って来いよ」
「俺たちのことは気にせず、思うままにやって来い」
「ありがとう、兄さん」
これも昨夜の話し合いで決まった。アーマードライダー全員が地球を離れれば、ロード・デュークはここぞとばかりに地球にオーバーマインドを投入するかもしれない。その想定の下、城乃内と貴虎は地球防衛組として残ることになった。
おのおののドライバーを装着し、ロックシードを開錠した。
「「「変身!!」」」
《 ドラゴンフルーツアームズ Bomb Voyage 》
炎の形をした果実の鎧が咲を覆い、月花へと変える。
《 バナナアームズ Knight of Spear 》
赤いライドウェアの上からバナナの甲冑が戒斗を鎧い、戒斗はバロンとなる。
《 ブドウアームズ 龍・砲・ハッハッハッ 》
ブドウの鎧が展開し、手にブドウ龍砲が現れ、光実を龍玄へと変える。
あらかじめ舞から渡されたダンデライナーを、バロン、龍玄が投げて展開させた。
『咲、後ろに乗れ』
『うん』
「ナビは任せて。行きましょう」
一番に舞がふわりと浮いて、クラックを潜った。バロンと龍玄がダンデライナーを操縦し、浮き上がらせてクラックを超えた。
一人の少女と3人のライダーが、クラックの向こう――宇宙へと突入した。
明るい。
宇宙に出た月花の一番の感想である。
舞が輪郭をなぞるように蒼い惑星を示した。
「これがあたしと紘汰が住むって決めた星。まだ名前は決めてないけど」
『まさに異星、なのね』
月花は最近覚えたばかりの単語を使ってみた。自分で言っておいてどうかと思うが、しっくり来た。
『舞さん。あれ、ひょっとして太陽と月ですか?』
龍玄がオレンジと銀の天体を指差した。
「ええ。ここは宇宙の最果てだけど、とても太陽系に似た星系なの。太陽と月に当たる天体も、あたしたちが創らなくても最初からあったから、環境調整はスムーズに行ったわ。インベスたちが安定して生きられるようになって、後は個々のインベスが自由に生きてってくれればいい。そう、思ってたのに」
『オーバーマインドの出現というわけか』
舞は痛ましげに肯いた。
月花はバロンに掴まったままで、もっと異星をよく見ようと軽く身を乗り出した。
――きら、と。
一瞬だけ、小さく、されどとても凶暴に、それは煌いた。
直後、惑星側から光線が放たれた。射線上にいるのは、舞だ。
舞は光線に対して掌を突き出し、不可視のバリアを張った。
だが、拮抗した時間は短く、光線は無慈悲に舞の盾を砕き、細い体を吹き飛ばした。
「きゃああああ!」
『舞!』
『舞さんッ!』
龍玄がダンデライナーを駆り、吹き飛ばされた舞を受け止めた。月花はほっとした。
『ちっ、はぐれたか……聞こえるか、光実、舞!』
「戒斗っ」
『別々に着陸するぞ! 合流は地上でだ!』
『はい!』
バロンは機首を蒼い惑星に向け、アクセルを全開にした。
月花はバロンにしがみつきながらも、どうにかヒマワリロックシードをバックルにセットした。
《 ヒマワリアームズ Take off 》
アームズを換装した月花は、ヒマワリフェザーを最大限に広げ、ダンデライナーを守るように前方に展開した。これで大気圏突入のダメージは緩和できるはずだ。
龍玄のほうも、黄金の果実の力を持つ舞が一緒なら、バリアなり何なり張れるだろうと踏んだ。
そして心配を振り切って、自身とバロンに来るであろう衝撃に備えた。
『『うおおおおおおっっ!』』
2台のダンデライナーが不可視の壁を突破し、地上へ向けて落ちて行った。
目の前の光景が、テレビでも見慣れた俯瞰図になってきた。
大地に墜落するほど近づいた時、月花はバロンを後ろから抱え、ヒマワリフェザーを駆って二人して空へ舞い上がった。
二人の眼下で、ダンデライナーが地上に衝突して爆炎を上げた。
月花は後ろからバロンを抱え、静かに、どこかの密林に着地した。
バロンが文句をつける前に、月花はすばやくヒマワリの錠前を外し、変身を解いた。
『咲。体調は』
「ばっちぐぅ。それより光実くんと舞さん探さなきゃ」
『――持って行くべきだという光実の意見は正しかったわけだ』
戒斗もまたバナナの錠前を閉じて変身を解き、コートのポケットから無線機を取り出した。
去年、沢芽市民を避難させる際、湊が持って来た物だ。同じ物を咲も光実も舞も持っている。
戒斗は無線機のスイッチを入れた。
「光実。舞。聞こえるか」
ノイズを挟み、スピーカーから声がした。
《聞こえてますよ。そっちは? 二人とも無事ですか》
「問題ない」
《よかった。僕と舞さんも大丈夫です。合流しましょう。そこから“森”の木よりも高い大木が見えますか?》
戒斗はぐるりと首を巡らせ、見つけた。光実の言う“大木”を。
(鎮守の森の神木に似ているな)
「見えた」
《その大木に向かってください。僕たちも向かいます。舞さんによると、その木がキーポイントだそうで。行けそうですか?》
「誰に言ってる」
《そうでしたね。それじゃあ、また後で》
戒斗は通信機のスイッチを切ってポケットに戻した。
「そういうわけだ。咲。あの大樹を目指すぞ」
「半分くらいしか聞こえなかったんだけどなあ。戒斗くんはちゃんとセツメーしてから出発するクセつけたほうがいいと思うの」
苦言を呈しつつも咲は、歩き出した戒斗の後ろを素直に付いて来た。
ページ上へ戻る