魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epico19-B子供の自然を得るがごとし
†††Sideアリシア†††
すずかの家の別荘に1泊2日の旅行にやってきたわたし達チーム海鳴。ルシルが内緒で作ってくれたシーフード料理をいただいて、今はみんなでお片付け。料理を1人で作ったルシルは、みんな(特にはやて)に言われて片付けの手伝いをさせてもらえずソファに座って新聞を読んでる。おっさんか!
「ねぇねぇ、この後どうする?」
「怖い話でもする? 夏だし、夜だし」
「お化けです!? リインはちょっと苦手ですぅ」
わたしやヴィータと一緒にお皿を食器棚にしまう係のリインがビクつく。聞けばちょっと前にやってたホラームービーを観てからリインはそういう幽霊とかオバケとかがダメになっちゃったみたい。リインに続いて「にゃはは。私もちょっと遠慮したいかも」なのはもやんわり拒否った。
「なによ、なのは。あんた、まだ怖がりが治ってないわけ?」
「だって~」
「なのはちゃんも幽霊とかダメだもんね~」
チラッと聞いたことはあったけど、本当だったんだぁ。あんな冗談みたいな強さを持った魔導師なのに。そういうわけだから夏の風物詩怪談は却下ということになった。じゃあ、どうするか。お喋りだけでも良いんだけど、やっぱり夏らしいこともやりたいし・・・。みんなで「う~ん」って考えていると・・・
「だったら天体観測なんてどうだ~?」
「マスター? 痛くはないけどちょっとやめてほしいかな~」
新聞を丸めて棒状にしたルシルが、片付けをサボってるフェンリルの頭をソレでポコポコ叩きながらそう提案した。そしてひとり「今夜は快晴。空気も澄んでいるから星空が良く見えるぞ」テラスに出て空を見上げたルシル。
「我が手に携えしは確かなる幻想。・・・こんなこともあろうかと天体望遠鏡も持ってきたしな」
蒼い魔力光と一緒にルシルの側に現れたのは天体望遠鏡2つ。そこまで準備が出来てるんなら「天体観測に決まり!」だね。食器類の片付けを終えて、わたし達は早速天体観測を始める。
「天の川がメッチャ綺麗や~!」
望遠鏡を覗くまでもなくハッキリと見える天の川にはやてや、「わぁ♪」わたし達は感嘆の声を漏らした。それから順番に望遠鏡を覗いてく。わたしの番になって望遠鏡を覗くんだけど、どれがどれだか全く以って判らない。小首を傾げてると、「アレが北斗七星、そしてアレが夏の大三角形やよ」って、はやてが隣に並んでくれて夜空を指差して教えてくれた。
「はやてちゃん、詳しいんだね」
「受け売りやよ、ルシル君の♪ わたしだけやのうてシグナム達も教わった・・・よな?」
「ええ、まぁ。・・・ですが――」
「あんまし憶えてないっていうか・・・」
「忘れちゃいました。あ、でも彦星と織姫の物語は憶えています♪」
「まぁ、あまり必要性の無い知識だしな。忘れてしまってもしょうがないよ」
ルシルから教わったっていう星座の話を忘れたって言うシグナム達に対して苦笑い。はやてが「そうや。あの時と同じ教え方してもらってもええか?」ルシルにそうお願いした。すると、「構わないけど・・・。みんなはどうだ? 星座が判り易くなるようにするだけだが」ってルシルが確認してきた。
「私はお願いしたいかも」
「本とか見ないと難しいから、私もお願いしたいかな」
なのはとフェイトが小さく挙手。わたしとしてはなんとなーくででも良いんだけど、さらにアリサとすずかもお願いしたから「じゃ、わたしもぉ~」それに乗っかる。ルシルは1回だけ頷いて、夜空に左人差し指を向けた。
「えー、まずは星座を見るための目印となる、有名な北斗七星がコレだ」
そう言いながらルシルが指を動かすと、夜空に輝く星を繋げるように蒼い光のラインが入って、北斗七星がハッキリと判るようになった。これにはわたしも「おお!」って思わず拍手して、フェイト達も「すごーい!」って感嘆した。
ルシルは続けて「アレが北極星で、デネブとベガとアルタイルを結んで夏の大三角」って、次々と星を蒼光のラインで繋げて、星座を視覚化してくれた。それだけじゃなくて、「アレとアレとアレを繋げて盾座だ」繋げた星座の絵まで視覚化してくれた。
「これすごいのはすごいんだけどさ、他の人たちには見えないの?」
「見えちゃってたらかなりの騒ぎになっちゃうけど・・・」
アリサにわたしも同意する。でもそこはやっぱりルシルで「魔力持ちにしか見えてないから問題ないさ」とのことだった。でももし、万が一にもなのはやはやてのような特異体が居たらどうするんだろう。
「――で、次で最後だな。アレとコレと・・・あとはアレとアレ・・・。よし、完成だ。何の星座か判るか?」
ルシルが星を繋げて視覚化した星座が何なのかっていう問題に「白鳥座!」わたしたち子ども組だけが答える。ルシルが「正解だ」って言うと、白鳥の姿が浮かび上がった。気が付けば夜空にはたくさんの半透明な動物やら物が浮かび上がっていて、すごいなぁって思っていたら、「リアルプラネタリウムだね」ってすずかがウットリした。
「さてと。そろそろいい時間だし、また風呂に入り直して今日は就寝だ」
パンパンって手を叩くルシル。時間を確認すればもう9時で、「朝も早いから、そうしようか」すずかが明日に備えるためにルシルに同意した。
「まずは女子組から入ってくれ。俺とザフィーラは後でいい」
そう言って天体望遠鏡をしまうルシルに、星座講座や先にお風呂に入らせてもらえることに対して「ありがとう」わたし達お礼を言って、テラスを後にした。部屋に戻ってパジャマと替えの下着を取って来る。ルームメイトのなのはとヴィータと一緒に部屋を出ると、「あ? お前ら着替えは?」手ぶらで階段を降りようとしてる八神家大人組が居た。
「私とシグナムとシャマル、それにフェンリルは後にするよ」
「一応、みんな一緒に入れるようなお風呂だけど、さっきの砂利落としとは違ってゆったり入りたいでしょ? 私たちのような大人が入ると一気に狭くなっちゃうし」
「我々はそのつもりでな。お前たちとは別々に入ることにしたのだ」
「そういうわけでヴィータ。はやてとリインをよろしくぅ~♪ マ~ス~タ~❤ あ~そ~ぼ~♪」
フェンリルが階段を使わずに、ソファに座ってザフィーラと一緒にテレビを観てるルシルに向かって飛び降りた。と、「げふぅっ!」階下からルシルの苦悶の声が。手摺から身を乗り出してみると、フェンリルの両膝がルシルのお腹を直撃してた。
「何しとんじゃぁぁぁーーーーっっ!!」
「きゃぁぁぁ~~~☆」
ルシルとフェンリルの追いかけっこが始まった。そんな追いかけっこが行われてるリビングにシグナム達が音もなく入ってソファに腰掛けた。八神家大人組+男子がリビングに集合したのを見届けてお風呂場へ向かう。脱衣所にはすでにフェイト達が居て、「待ってたよ~」って、わたし達の到着を待ってくれてた。
「「お待たせ~♪」」
「リイン。はやての入浴はあたしらに懸かってる。やるぞ!」
「はいですっ! はやてちゃん、お洋服を脱ぎましょう!」
木組みの椅子に座ってるはやてが「えっ? ちょっ、服くらい自分で――あああああ!」ヴィータとリインに襲われて――じゃなくて、服を脱がされ始めた。
「アルフ。はやての移動の時はお願い」
「あいよ」
とりあえずみんな服を脱いで浴室に入る。時間短縮の為に洗いっこをやる。蛇口は3つだから3人ずつだ。最初ははやてとアルフとリインから。その3人の頭や背中を流すのは、すずかとアリサとヴィータ。で、すずか達を洗うのはわたしとフェイトとなのは。最後は、わたしとフェイトとなのはとシャルの4人で洗いっこ。髪の毛が湯船に浸からないようにタオルを頭に巻いて、「ふはぁ~~」お湯に肩まで浸かる。
「ちょっと沁みるね~」
「うん、日焼け止め塗ったんだけどね」
なのはとフェイトがそんな会話をする。わたしはそんなに痛くないから判んないけど。それはともかく話は明日の予定についてになった。今日は海だったから明日は山に入ろうっていうのは前から決めてるんだけど・・・。
「谷川もあるから、そこで泳ぐのも良いかも。そっちも月村の土地だから好きなように遊べるし。あ、でも川を汚すような事はしちゃダメだけど」
「お昼はバーベキューでいいんじゃない?」
「肉!? 肉か!? 肉なら大歓迎だ!」
バーベキューの一言でアルフが目を爛々と輝かせた。ふと、「ねぇ、はやて。ザフィーラとフェンリルって、やっぱり肉好きなの? ウチのアルフはもうお肉が好き過ぎて大変なんだけど」わたしはそう思ったから訊いてみた。
「ザフィーラは何でも食べてくれるよ。フェンリルさんも・・・何でも食べてくれるなぁ。昔は肉が好きやったって言うてたけど」
「アルフはお肉なら何でも好きだけど、フェンリルも好みとかあるの?」
「何でもってわけじゃないよ、フェイト。あたしは牛肉が好きだ。この前食った高級和牛とか言うのが一番だよ」
アルフが言う高級和牛っていうのは、夏祭りでシグナムが獲ったお肉引換券で交換してもらったお肉だ。ちょっと前にはやての家にお呼ばれして焼き肉パーティをやった。うーん、美味しかったなぁ~。また食べたいよ~。
「う~ん、フェンリルさんの好みのお肉かぁ。・・・わたしはどうか判らんな~」
「アイツ、人肉って言ってなかったか?」
ヴィータがポツリと漏らした。そんなブラックジョークにわたし達は無言の沈黙を貫くことしか出来なかった。ここで「そんじゃ当の本人に聞いてみっか。『なぁ、フェンリル。訊きてぇことがあんだけど』ヴィータがわたしたち入浴組とフェンリルに念話を使った。
『いいよ~。って、あっ、ちょっ、また私とシャマルをカモる気!?』
フェンリルとシャマルに一体なにが起きてるのか判らないけど、リビングで何かゲームでもやってるんだろね。そしてどんくさそうなシャマル先生と、どうしてかフェンリルが標的にされてる、と。
『むぅ・・・。で、質問って何?』
『お前の好きな肉って何さ』
『どうしてそんな話になってるのか判らないけど、そうだなぁ・・・馬肉!』
フェンリルの簡潔な答えにホッとする。本当に人肉が好きって言われたらどうしようかって。ヴィータが『確かお前、以前――』そう続けようとした時、「『ちっくしょぉぉぉーーー!』」念話と現実の声が一緒に聞こえた。声の主は当然、フェンリルのものだった。
「ダメだ、切れちまった。つうか、何やってんだよ。気になるわ~」
『ルシル君。みんなで何やってるん? かなり騒がしいけど・・・』
『ん? あー、ポーカー、そしてついさっきからババ抜きをやっているんだ。フェンリルとシャマルは面白いほどに表情が変わるから、俺やシグナムやアインスにカモられているんだよ』
あー、確かにあの2人は隠し事とか出来なさそう。ポーカーは良く知らないけど、ババ抜きなら学校でも何回かやったことがある。アレって結構熱くなるんだよね。はやてが教えてくれたことについてルシルにお礼を言って念話を切った。それからわたし達はお風呂を上がって、就寝するまでババ抜きで楽しんだ。わたしとなのはとリインはぼろ負けだったけどね。
†††Sideアリシア⇒アリサ†††
ババ抜き大戦を深夜0時までやった後はゆっくり睡眠。そんで朝を迎えての今は9時ちょっと過ぎで、子供組だけで歌を唄いながら山登り中。目指すは山の中腹にあるっていう谷川。そこの渓流で最後のひと泳ぎとバーベキューをする予定・・・なんだけど、今はその途中にあるひまわり畑に向かってる最中。
「天然モノのひまわり畑で、手入れを何もしていないのにすごく綺麗なんだよ!」
すずかが興奮気味に語ってくれた。で、そこまですずかが興奮したのも「すご・・・」実際に目で見たことで理解できた。目の前に広がる黄色の絨毯。丘一面に咲き乱れてるひまわり。パッと見じゃ何百本って感じで、1本1本がシグナム程の高さ。
「良い香りがする・・・!」
「ひまわりの匂いだね~」
「写真! 写真をみんなで撮ろうよ!」
アリシアがフェイトとアルフの手を引いてひまわり畑に突撃からあたし達も続いて畑の入り口に整列する。そしてミッドチルダ魔法陣を足場とする魔法、フローターフィールドにタイマーをセットしたデジカメを置いて戻ってきたルシルに「早く、早く!」シャルとはやてが急かす。
「そんなに急かさなくても大丈夫だよ」
ルシルがシャルとはやての間に入ったのを確認して、「ほら、全員カメラに向いて」あたしは号令をかける。そんでルシルが「5、4、3、2、はい、チーズ」カウント。それを合図に笑顔を浮かべて、パシャっとシャッターが切られた。ルシルが早速、「どれどれ」確認しに行って、「ぷふっ」吹き出した。
「えっ、なに?」
「どうして吹き出すの?」
「なになに? 映りが悪い子でも居たの?」
「あ、わたし、目が半開きやった?」
「も、もしかしてリインだったです!?」
(ま、まさかあたしじゃないわよね・・・?)
いや、大丈夫だったはずよ。内心ドキドキしながら「見せてみなさいよ」ってルシルに向かって手を伸ばすけど、「やり直しだ、やり直し~。はーい、もう一度並んで~」またタイマーのセットだけして戻ってきた。みんなで「どんなミスだったの?」って訊いても、「ほら、あと4秒。3,2、はい、チーズ」ルシルは誤魔化してばかり。
「・・・おーい、みんな表情硬いぞ~」
またひとり確認しに行ったルシルがそう言う。ちょっと気になったから「今度はあたしがやるわ」列から出てルシルの元へ急ぐ。デジカメははやてん家の物だけど、扱い方は大差ないでしょ。
「さ、カメラを渡して。データは消さないでいいわ」
「・・・笑ってやるなよ」
そう言ってあたしの手にデジカメを置いて列に戻るルシル。ていうか、「最初に笑ったのはあんたでしょ」ってツッコんでから1枚目と2枚目の写真データを観る。2枚目は、確かにみんな表情が硬いような印象を受けるわね。ま、その原因はルシルの所為でしょうけど。1枚目の何がいけなかったのかをハッキリ言ってくれていれば良かったのに。
「(で、1枚目の写真がコレね・・・)ぷはっ」
1枚目を観て何がダメなのかを確認して、それに気付いた瞬間、あたしも思わず吹き出しちゃったわ。慌てて口を手で覆ってももう手遅れで、「アリサちゃんまで! ねぇ、なにが映ってるの!?」なのは達が騒ぎだす。
「な、なんでもないわ! えっと、そう、あたしの目が半開きだったのよ!」
事態を収拾するには誰かをスケープゴートにする必要があった。それならあたししか居ないでしょ。
「あはは、やんなっちゃうわ。ルシルにあたしの間抜けな顔見られて」
そこまで言うと、なのは達は目に見えてホッとした。そして、本当に間抜けな顔をしてた本人もどこか安心したのが判った。くっ、見せてやりたいわ、本当はあんたがあたしとルシルを笑わせた張本人だってね。
(シグナム・・・! それとリイン)
シグナムは微笑みを浮かべているんだけど、タイミングが悪すぎたのか目が半開きな状態で映っちゃった。普段の凛々しくて美人なシグナムを知っているからこそ、こういった間抜け面は凶悪な笑いの種と化すわけね。リインも半開きなんだけど、あの子は可愛いし面白いからそんなに酷いレベルじゃない。
「(さてと。このデータは残しておいてもしょうがないわね。デリート、デリートっと)よし。そんじゃ3枚目の撮影に入るわよ。カウントは10秒!」
タイマーをセットしてフローターフィールドに置く。さぁ、今度こそはちゃんと撮るわよ。あたしも列に戻ってなのはとすずかの間に入る。そして「――5、4、3、2、はい、チーズ!」カウント。シャッターが切られる直前に瞬きを終えておく。
「今度こそ、ちゃんと撮れたはず」
確認しに行こうとするルシルを手で制してからあたしがカメラの元へ向かう。カメラを手にして早速データを確認。パッと見じゃ問題ない。全員の顔を確認して、「オッケー。三度目の正直ってやつね。巧く撮れてるわ」みんなの元にカメラを持って戻る。そしてみんなにもデータを確認してもらった後、「そのデータ、ちょうだい。ケータイの待ち受けにする!」アリシアが携帯電話を片手にピョンピョン跳ねる。
「はいはい、また後でね」
とりあえずひまわり畑でちょっと遊んでく。とは言っても、やる事は写真の撮り合いっこだけどね。ま、思い出づくりにはちょうどいいと思うわ。それから20分ほど遊んで、いよいよ本当の目的地――谷川へゴーよ。山道を歩いてると、水の流れる音が聞こえて来た。そして見えて来た1本の谷川。上流には高さが3mくらいの滝があって、下流にも1mくらいの滝がある。
「よーし。各員、水着に着替えて全力で遊ぶのだぁぁぁーーー」
男のルシルやザフィーラが居るって言うのに、シャルがブラウスやスカートを一気脱ぎ。焦ったあたし達だったけど、「水着はすでに着こんでるのでーす! ひゃっほーい♪」シャルは服の下に水着を着ていた。あたし達の焦りをよそにシャルは川の中へと入って行って、「冷たくて気持ち良い~~!」仰向けに浮かんだ。
「ザフィーラ。俺たちは少し外そう」
「うむ」
「ごめんね、ルシル君、ザフィーラ。終わったら念話で呼ぶから」
ルシルとザフィーラが居なくなったのを確認して水着へと着替える。で、ルシル達を呼び戻すと、ルシルもザフィーラもすでに水着に着替え終えていたんだけど・・・。ザフィーラはルシルと同じハーフパンツの水着を履いてるんだけど、それだけじゃなくてアロハシャツとサングラスまで装備。それはまるでヤの付く職業の人みたいだった。
「ルシル君、ザフィーラ! 2人も早うおいで!」
「水が冷たくてとっても気持ち良いですよ~♪」
浮輪を使わずにプカプカと水に浮いてるはやてとリインが2人を呼ぶ。ルシルとザフィーラは頷き返して川へと入ってった。それを見届けたあたしは川の中へと潜る。大自然の川だからか水はとっても澄んでて、川魚があたし達にビックリしちゃってて右往左往してる。
「ぷはっ。・・・ねぇ、なのは、すずか。あそこから飛び降りてみない?」
あたしが指差すのは滝の上。滝と言っても水流はそんなに激しいものじゃないから滝壺に落ちても大丈夫だと思うし、魔導師でもあるからあれくらいどうってことないわ。すずかは「いいよ」って言ったけど、「私は遠慮しまーす」なのはは不参加。ド派手な魔法戦を繰り広げるくせに、こういうのにはてんでダメなんだから。
「シャル、フェイト、アリシア、それにルシルとヴィータはどう?」
狼形態になって犬かきしてるアルフの背中に乗ってはしゃぐフェイト達や、はやてとリインの泳ぎを見守ってるルシルとヴィータ(シグナム達はやらなさそうだから端から誘わない)にも声を掛ける。
「面白そうじゃん。はやて、ちょっと行ってくるけどいい?」
「ええよ。ルシル君も行ってきてええからな。わたしとリインの側にはシグナム達が居ってくれるし」
「じゃあ、少し行ってくるよ」
ヴィータとルシルは参加。そしてフェイト達は「いいよ~」3人揃って参加決定。さらに「私もやりたい!」フェンリルも自主参加。参加組だけ川から上がって、滝の脇の坂をえっちらおっちらと上る。
「わ、結構高~い!」
「アリシアは大丈夫? 怖かったら観てるだけでいいんだよ?」
「こ、怖くなんてないもん!」
滝下を覗き込んだすずかとアリシア。すずかは平気そうだけど、アリシアがちょっと怖気づいたっぽい。けどフェイトに心配されて強がった。それがまずかったわね。アリシアの背後からヴィータが忍び寄って、「じゃあ、早速行こうぜ、アリシア!」アリシアの手を引っ張って滝に飛び降りた。
「ふえ?・・・っ! ヴィータの・・・ぶわぁかぁぁぁーーーーっっ!」
アリシアの悲鳴というか罵倒というか、それが滝壷へと消えてった。水に飛び込む音、水面に飛び出す音のすぐ後に「馬鹿、馬鹿! 心の準備くらいさせてってば!」アリシアの涙声混じりの怒声と、「わるい、わるい」謝ってはいても悪びれてないヴィータの声が聞こえて来た。
「次行くよー!」
続けてシャルが飛び込む。なんて言うか、らしくない普通な飛び方だったわね。
「おーい、次行くから退いていてくれー」
ルシルがそう言って、滝から距離を取った。助走を付けて飛び込むみたいね。でも「アルフ、頼む」それだけじゃないらしく、アルフを飛び込み地点に立つように指示。アルフはそれだけで判ったみたいで、「あいよ」って腰を少し落として、バレーボールのレシーブの体勢に入った。
「いくぞ!」
「来な!」
ルシルが駆け出して、アルフの手前でジャンプ。アルフは「おら、飛んでけー!」自分の両手の平に乗ったルシルを押し上げて空高く飛ばした。何mって飛んだルシルが空中で前転・後転とか体操選手みたいな技を連続でしながら川に飛び込んだ。あたしや他のみんなも「おお!」って拍手。
「オリンピック選手みたいだったね~」
「地味にすごいわ、アイツ・・・」
ルシルに続いて「よっしゃ。次はあたしだよ!」アルフも助走を付けるために距離を取って、「フローターフィールド!」を階段状に発動して一気に駆け上がった。さっきのルシルより高い地点から川に飛び込んだ。
「さ、さすがにあの高さはちょっと無理だわ・・・」
「だね~」
「私たちは普通に飛び込もう」
すずかやフェイトと話し合ってると、「マスター! 次は私が行きます!」フェンリルが残ってたアルフのフローターフィールドを使って空高くまで上って「やっほぉぉーーー!」若干、使いどころが違う掛け声を上げて飛び込んだ。
「ぷふぅ! ねえ、マスター! 見てくれてた!? 綺麗な飛び込みだったでしょ♪」
「わぁぁーーー! フェンリルさん! 取れてる! 上の水着が取れてる!!」
「ルシル君、ザフィーラ! あっち向いて!」
「フェンリルさんは早く水着を着て!」
「良いよ、見られても♪ 恥ずかしがるほどの初心じゃないし!」
「情操教育に悪いわっ! とっとと着ろ、馬鹿犬!」
下でちょっとトラぶったみたいだけど、「おーい。次、いつでもいいぞー!」解決したのかルシルが呼ぶ。あたし達3人は手を繋いで「せぇーっの!」一緒に飛び降りた。一瞬の浮遊感の後、バッシャーンと川の中へ。繋いでた手を離して「ぷはっ」水面に頭を出す。
「結構面白いね、これ。アリシア、アルフ。もう1回やろ!」
「ああ! アリシア、い――」
「行かない、行かない、もうやらない! えっと、えっと、あっ、わたしにもやらせてー!」
狼形態のザフィーラとフェンリル(頭のアレはタンコブかしら?)がはやてとリインを乗せて犬かきしてるのを見つけてそっちに泳いでった。ヴィータが「あちゃあ。やっちまったなぁ」反省。それからあたし達は何度か飛び込みを繰り返して、浮輪に座ってのんびり漂ったりして遊んだ。
「さてと。そろそろ昼食の用意だな。ザフィーラ、バーベキューの準備を始めるから手伝ってくれ。我が手に携えしは確かなる幻想」
「承知した」
先に川岸に上がってたルシルが、創世結界ってところにしまわれてたバーベキューセットを取り出して、同じように取り出した脚の長いテーブルに置かれた食材を包丁で切り始めた。
「なんかさ、あれだよね」
近寄って来たなのはがルシルを見て少し沈んだ声を漏らした。フェイトも「うん」って頷いた。そしてあたしも「そうよね」って2人に同意する。シャルやアリシア、はやて達は「???」小首を傾げるばかり。抱く子には抱ける感情。それは、やるせなさ、だ。
あたしとなのはとフェイトは、陸士訓練校での訓練を思い出す。いろいろやったわぁ、ホントに。その中にはサバイバルっぽいのもやった。砂漠・雪原・山岳の行軍とか、もう軍人じゃない?っていうようなやつもやっとわよ。
「ルシル君ひとり居れば、サバイバルなんて単語が一瞬にして要らなくなるよね」
「あの大変だった訓練も楽なものになったと思う」
食材も器材も全て創世結界に放り込んでおけば、いつでも取り出せるっていうルシル。無人島に1人は欲しいわよね。とまぁ、そういうわけで遠い目をするなのはとフェイト。あたしの今の目もそんな感じなんでしょうね。
「でもあんた達は良いわよ。2人でペアを組めて。あたしなんて見知らぬ子といきなり組まされちゃって」
3ヵ月速成コースの入校者はあたし達だけじゃなかった。年上の人ばかり。ま、あたしも「アリサも同い年の子とペアになって楽しそうにしてたよね」フェイトの言うように運良く同い年の入校者とペアを組めた。けどやっぱり知ってるなのはかフェイトと組んでみたかったのよ。
「ねえ、シャル。クラリスって元気してる?」
あたしのペアになった子の名前はクラリス。クラリス・ド・グレーテル・ヴィルシュテッター。フライハイト家に連なる六家の一角のヴィルシュテッター家の令嬢で、古代ベルカ式騎士。シャルやルミナ、ティファレト先生、騎士カリム達のように管理局と聖王教会両方に籍を置いてる。
「クラリス? 元気だよ~。ミッド北部の陸士部隊の捜査官として頑張ってるよ」
「そう。それならいいのよ」
久しぶりに会いたくなったわね。いつかの休暇にでも会いに行ってみようかしら、って予定を考えてると「すごい良い香りしてきた~」シャルが匂いに釣られるように川岸に向かい始めた。ルシルとザフィーラ、手伝いを買って出たシャマル先生の3人が作るバーベキューが完成間近。あたし達は川遊びに勤しんだ。
「よーし、完成ね。みんなー、上がっておいで~」
肉や野菜の焼けた香りがし始めてきた頃、シャマル先生があたし達を呼んだ。アルフはすでに肉串を焼いてるザフィーラの側に居て、「ザフィーラ、ソイツくれ!」お肉を催促してる。あたし達も川から上がって濡れた髪や体をタオルで拭いてから折り畳みチェアに座って、「いただきまーす!」焼き終わったお肉や野菜、ホタテにエビ、ウインナー、いろんな串焼きを食べる。
「ルシル。焼いてばっかで食べれてないでしょ? あーん、してあげる❤」
「いや、いいよ。後で一気に食べるし。あと、選択したものがトウモロコシって。・・・これまた食い難いものを選んだなぁ・・・」
シャルがルシルの口元に運んだのは分割されたトウモロコシの1切れ。でも食べにくいってこともあって却下を食らった。シャルはそれならって「じゃ、もう1回、あーん❤」今度はお肉を一切れルシルの口に運んで、ルシルは少し躊躇したけどパクっと食べた。
そんで、シャマル先生にははやてが、あーん、していてお互いが幸せそう。ザフィーラにはなんとアルフがやってた。結構、お似合いなのかもしれないわね。で、同じ狼素体の使い魔なフェンリルは「おっいしぃ~、たっのしぃ~!」ひとりバーベキュー満喫してた。
「――夏祭りと海と山、それに川もクリアしたね~」
「次はプール?」
「フェイトとアインスが獲ったレジャープールの無料券があるし」
「遊びばかりじゃダメだよ。宿題もちゃんとやらないと」
「「えーーー」」
「えー、やないよ。シャルちゃん、アリシアちゃん」
「そうよ。夏休みの宿題は、冬休みの時よりずっと多いんだから。今の内に手を付けてないと後で苦労するわよ」
冬休みの宿題ですら苦労してたアリシア。量的に2倍はある夏休みの宿題は、貰った日くらいから始めておかないと地獄を見る。しかもあたし達には局の仕事もあるし。他の子たち以上に頑張んないといけないわ。
「「間に合わなかったから写させて~」」
そう言って楽な方法を取るとするシャルとアリシア。当然、「却下」あたし達みんながそう下す。ぶーぶー文句を垂れる2人。しゃあなしね。写させる真似はさせてあげられないけど、少しくらいは手伝ってあげようかしら。
昼食を終えた後は一度別荘に戻ってお風呂に入り、帰り支度をする。最初は転移魔法で帰ろうか、なんて案もあったけど、それは旅行の風情をぶち壊すということで却下。やっぱりどれだけ疲れてても来た時と同じように電車とバスを使わないとね。
バスに揺られた後は電車。ローカル線だから人の数も少ない。だからか至る所から寝息が漏れ聞こえてくる。静かな車内、しかもいい具合に揺れるから「ふわぁ・・・」あたしも限界が近いかも・・・。
『アリサ。君も眠ると良い。降りる駅に近づいたら俺たちが起こすから』
ぐっすりと夢の世界に旅立ってるシャルとはやてに挟まれて座ってるルシルがそう念話で言ってきた。起きてるのはあたしとルシル、シグナムとアインスとザフィーラだけ。他のみんなそれぞれにもたれかかって夢の中。
正直、寝顔を見られるのはちょっとなぁ、って思ったけど、「お願いするわ」眠気には勝てそうにないから甘えることにした。あたしの両隣に座って眠ってるなのはとすずかが起きないようにちょっと姿勢を変えて目をつむる。
(楽しかったわね、今年の夏は・・・。来年も・・・こんなに楽しい時間を・・・過ごし・・・て・・・)
あたしもみんなと同じように夢の中へ。こうしてあたし達は1泊2日の旅行を満喫して、明日から再開される仕事への英気を養った。
後書き
ジェン・ドーブリィ。ドーブリ・ヴィエーチェル。
学校生活を主点に置く予定だったエピソードⅢ。しかし気が付けばそんなものなど見当たらない話ばかりが出来上がる。やはり5年生からが本番でしょうか。
さて、日常主点の話ばかりが続いたのでそろそろシリアス編にも入らないといけないですよね。次話の次話から本格的に入っていく予定です。
えー、イラストの件ですが・・・描いたは良いですけどパソコンに取り込めない! サイズ調整が上手くいかない! これから出勤時間まで試してみます。
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