遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~
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ターン25 邪魔蠍団と正義の誓い
前書き
なんかもう、隠す気がまるで感じられないタイトル。前回のラーを書ききるのに脳みそ使い切ったんだと思ってあったかく見守ってやってください。
「ねーねー、そろそろこのままじゃまずいと思うんだよね」
僕が十代にそう言ったのは、ラーを倒したその日の夜だ。レッド寮の貧乏っぷりをよく知っている隼人がオーストラリア名物というカンガルー肉をわざわざ手土産に買ってきてくれたので、その僕にとっても未知の味をどう調理しようかと試行錯誤しながらのことである。
「おう、どうしたんだよ急に」
「いやさ、光の結社の話なんだけど。あ、ちょっと塩とって塩。そこの棚にこないだ詰め替えたのが放り込んであるから」
「おう、これか?それで、なんでまた光の結社が?」
「センキュ……うわ、十代これ砂糖!これじゃなくてその隣の瓶取ってくれる?ほい、ありがと。それで、さっきの話だけどね?今日の昼、久しぶりに葵ちゃんが店まで来たんだよ」
「ふーん。それで?」
「別に用事自体は大したことなくてさ、今朝僕が見つけた鮫島校長について詳しく聞かせてくれ、ってやつ。で、それは別にいいんだけど。なんか後で思い出してみてふと気づいたんだけど、僕ったらフツーに葵ちゃん相手に喋ってたんだよね。ほら、翔から聞いてない?僕が一時期光の結社相手にやたらめったらデュエル売りまくってたバーサーカーソウル状態だったって話」
十代も覚えてるでしょ?と言いそうになったが、あの時期の十代はエドに負けたショックで海のどこかをさまよった末に木星だか土星だかでネオスペーシアン一同と出会うというなんだかよくわからない体験をしていた時期だったことを思い出す。下手に追及してまた自分の負け試合のことを思い出させるのは忍びないのであの時期のことは僕の方からはあまり聞かないでいたけれど、十代なら翔や剣山辺りから僕のことを聞いていてもおかしくはない。
案の定ある程度のことは聞いていたらしく、ああ、と頷く十代にそのまま語りかける。
「あの時はちょっといろいろあったとはいえ、あんなに憎んでたのにいつの間にかそれに慣れてきちゃってるんだなぁ、って思ってさ。僕が一番怖いのは、このままなんとなくの流れでずるずる毎日やってくうちに光の結社そのものに完全に慣れきっちゃって、あんなもんがあるのがおかしいって考えがうすーくなることなんだよね」
「ふーん。なるほどなあ、お前らしい悩み事だな」
「褒めてるの、それ?」
どっちともつかなかったので聞いてみたが、どうも本人は特に何も考えず思ったことをそのまま口に出しただけらしい。まあ、そこも十代らしいっちゃ十代らしい。
「んー、あと5分ぐらい煮込んだらごはんね。それで、どうしたらいいかな?十代はなんかアイデアある?」
「お、ようやくメシか!……でもさ、清明。そうやって考えるより前に、俺たちは全員デュエリストなんだ。だったら、デュエルをすればきっと分かり合える。そうだろ?」
ああ、まったく。十代は実にいつも通りだ。でも、今回ばかりはその方が正しいのかもしれない。いつまでも部屋で考え込んでたって、どうせ途中で昼寝して終わるだけなんだ。だったら、デュエルで解決するのが一番だろう。だけど、もうあんな無差別に襲いかかるような真似はしない。あれは実際、僕の中でもかなりの黒歴史だ。
なら、どうするか。やっぱり頭の部分……斎王を直接叩けるのが理想なんだけど、あいにくあの周りには常に警護がいるから手出しがしづらい。それを無効にするには光の結社の中でもいわゆる幹部クラス、葵ちゃんや三沢、鎧田に万丈目や明日香を狙ってみよう。
「ありがと、十代。なんか色々吹っ切れたわ。じゃ、とりあえずシンプルにステーキにしてみたから、このカンガルー肉とやらを食べてみようか」
「おう!」
カンガルー、美味しかったです。隼人にはあとでお礼を言っておこう。
「ふー……」
その後洗い物も終わらせ、ふと窓から見える夜の海を見る。ここ数日慌ただしかったし、久しぶりに散歩するのもいいかもしれない。十代は今日もまだネオスペーシアンのコンタクト融合とこれまでのHEROの共存に悩んでいるらしいし、誘うのも悪いだろう。いっぺんどこまで進んだか聞いてみたのだが、メインデッキは割と完成してきたのにエクストラの15枚制限のせいで本気で頭がパンクしそうになっているらしい。今のところは妥協案として常に全種融合体を持ち歩き、デュエルのたびにフェイバリットカードのフレイム・ウィングマン以外をランダムに入れ替えてるとのこと。大変そうだなー、融合って。
「どれ、ちょっと外の空気吸ってくるよー」
自分の部屋にいる十代に声をかけ、靴だけはいてふらりと外に出る。特に誰とも会わずに歩いていると、いつの間にか海岸まで来ていた。静かに波の音でも聞こうかと耳を澄ませると、まったく別の騒がしい声にせっかくの音が全部かき消される。
『助けてー……アニキ~………』
「ええい、うるさい!お前らは邪魔になると何度言ったらわかるのだ!」
『そんなつれないこと言わないでよ、オイラ達とアニキの仲じゃないか~』
「貴様らみたいな不細工、俺は知らんといったはずだ!」
『そ、そんな~!』
相手によっては張り倒そうかと近づいてみると、そこには段ボール箱を抱えた万丈目……あー、ホワイトサンダーとおジャマトリオがいた。どうも万丈目が段ボールを海に捨てようとしてるのを、トリオが懸命に引き留めようとしているらしい。
『頼むよ、アニキー!』
「知らん知らん知らーん!」
「何やってんのさ、こんな夜遅くに」
ますます両者ともにヒートアップして声が大きくなってくるので、さすがに耐えかねて話に割り込む。するとおジャマトリオがよっしゃあ、と言わんばかりの顔でこちらのほうに飛んでくる。
『清明のダンナー、ちょうどいいところに来てくれたわね!』
『聞いてくれよ、万丈目のアニキが急に俺らのことを海に捨てるって言い出すんだよ!』
『それで俺たち、捨てないでくれって頼んでるのにアニキが全然取り付く島もなくて』
ここぞとばかりにまくしたてる三兄弟をいったん押しとめ、万丈目に向き直る。
「なるほどねぇ。んで?何か言いたいことは?」
「フン、くだらん。俺のカードを俺が捨てて何が悪いというのだ」
「……ねえ三兄弟、何?万丈目って白塗りしてからずっとこんな調子なの?」
「万丈目ホワイトサンダー、だ!」
怒る万丈目を尻目に、しみじみした顔でうんうん、と頷く三兄弟。なんか入学した時を思い出すなあ、この調子。
「ええい、なんだその目は!俺をバカにしているのか!」
「あーいや、こんな調子だと周りが大変だろうなあって……あら失礼」
おっとつい本音が。
「き、貴様……!もう許さん!遊野清明、お前にデュエルを申し込む!時刻は明日の日の出と同時に、場所は校舎の中央入り口前だ!」
「……で、お前たちを預かってきたのか?」
再びここはレッド寮。あの後すぐに帰っていった万丈目が置き忘れていったおジャマ三兄弟を放っておくのも忍びなかったので回収し、ちょうど水を飲みに来ていた十代と鉢合わせたのでわけを話す。ちょっと待ってろ、といって2階に上がった十代が、何やらもう一つ段ボール箱を持って帰ってきた。見ると、そこにもカードがたくさん。
「そいつらも一緒に戦うんだろ?だったら、これも使ってけよ。これが、万丈目があの時井戸から回収してきたカードたちだ。それと、黒蠍団のカード」
「おお、懐かしい」
ちょっと去年のことをを思い出してしみじみしていると、箱の中から眼帯をした半透明の男が起き上がる。
『おお、なんだお前らか。このザルーグに何の用だ?』
「おっひさー。ちょっとね、力を貸してほしいことがあって……」
食卓机にカードを広げる。今の万丈目が四六時中あんな調子なら、友人として一発ガツンとくらわせてでも目を覚まさせてやらねばなるまい。ちょうどいい、最初のターゲットは万丈目にしよう。
ただ悲しいことに僕のデッキはすでにいっぱいいっぱいでせっかくついてきたおジャマ要素を入れるスペースがない。なら、この万丈目のもとに集まっている精霊たちの力を借りてひとつ新しいデッキを作るしかないだろう。勝負は明日の朝、テストプレイをする時間があるかどうかもわからない。そんなデッキで勝とうだなんて、虫のよすぎる話かもしれない。それでも、やる価値は十分にある。光の結社がデュエルで洗脳するというのなら、こっちだって同じことをするまで。さらにこれは本人のカード、目を覚まさせる力もきっと高いだろう。
「よし、やるか!」
『『『おーっ!』』』
「ふん、遅いな。この俺を待たせるとは何事だ!」
「ああ、そりゃどーも……」
日付は飛んで翌日の夜明け前。案の定まるっきり初めてのおジャマデッキにてこずりまくり、ほぼ徹夜に近い状態で勝負を迎えることになってしまった。僕だって好きでこんな時間ギリギリに来たわけじゃない、目覚ましがちゃんとならなかったのが悪いんだ。おまけにデッキ枚数はわざわざ新しく組んだにもかかわらずなぜかまた60枚。この重みが凄いしっくりくるってのは、我ながらもうだめかもわからんね。
「日が登るまであと10分といったところか。どうせギャラリーはいないんだ、少しぐらい早くても構わんだろう」
「万丈目………」
「ホワイトサンダー」
たとえ光の結社に入ってカードに対する心がなくなっても、性格までは変わってなくてちょっと安心。だいたい万丈目はいつもいつもせっかちすぎるんだよね。たとえば醤油こぼした時だって、僕が雑巾持ってくるより前に袖で拭くし。十代もその様子はよく見てたから、今朝も万丈目が元に戻った時のためわざわざあの黒い制服を探していた十代もいちばんきれいな奴が見つかるといいけどな、とか言ってた。多分もうすぐ来るだろうけど、十代もなかなか苦労人だ。
「わかったわかった。十代には悪いけど、それじゃあデュエルと洒落込もうか!」
「「デュエル!」」
そう言った瞬間、背中に光の当たる感覚がした。ちょうど今、日が登ったのだ。
「先攻は俺だ!俺のターン、ライトロード・アサシン ライデンを召喚する」
銀色に光る短剣を持った、褐色の肌の偉丈夫。いつぞやの三沢戦の時にも見た暗殺者が先陣を切った。
ライトロード・アサシン ライデン 攻1700
「ライデンは1ターンに1度、俺のデッキトップから2枚のカードを墓地に送ることができる。そしてその中にライトロードのカードがあれば攻撃力がエンドフェイズまで200ポイントアップするが、今はあまり関係ないな。だが効果は使わせてもらう!………チッ、光の援軍が落ちたか。もう1枚はライトロードのジェイン、よって攻撃力上昇。カードを1枚伏せ、エンドフェイズにライデンの効果でさらにカードを2枚墓地に。ターンを終了する」
「僕のターン、ドロー!あらー……」
まるで積み込みでもしたのかといいたくなるほどきれいな揃いっぷりである。オートシャッフル機能をダメにした覚えはないから、これもまた精霊の力なのだろう。カードの精霊とも1年近い付き合いになるけど、いまだにこの子たちがどこまでデュエルに干渉できるのかはさっぱり見当もつかない。こんなきれいにそろうなんて、ふつうは想像つかないし、ねえ。
「ま、せっかく全員居るんだから有効活用させてもらうよ。首領・ザルーグを召喚!」
『おう、任せておきな!』
首領・ザルーグ 攻1400
「ザルーグだと?確かに効果はまあまあだが、そんな攻撃力ではライデンを倒すことはできんぞ」
「まあ見てなって。黒蠍団、招集!」
『出て来い、野郎どもぉ!』
『『『『おーう!!』』』』
ザルーグが号令をかけると、4人の黒を基調とした服をした男女が手に手に武器を取り駆けつける。身長も体格もばらばらな全員の共通点として、蠍の入れ墨が体のどこかに施されていた。
『罠はずしのクリフ!』
最初に名乗りを上げたのは、いかにも神経質そうな眼鏡をかけた青年。片手で眼鏡のつるを押し上げながらもう一方の手で獲物の短刀をちらつかせ、同じ短刀使いのライデンを挑発して見せる。
黒蠍―罠はずしのクリフ 攻1200
『茨のミーネ!』
次いで、メンバー内の紅一点。いかにも痛そうな茨の鞭をピシリと地面に叩き付けるその様子からも、彼女の男勝りな性格は容易に想像がつく。
黒蠍―茨のミーネ 守1800
『強力のゴーグ!』
メンバー内でも1の巨漢。筋肉にぐっと力を込めて極悪な鉄球がついた重そうなハンマーを軽々と頭の上で回すその様子は、ただただ頼もしい。
黒蠍―強力のゴーグ 攻1800
『逃げ足のチック!』
最後に名乗ったのは、ゴーグとはうってかわって小柄な男。どこから来るのかさっぱりわからない自信に満ち溢れた他のメンバーとは違い、若干不安そうな様子を隠しきれないでいる。それでも木製のハンマーを精一杯掲げ、他のメンバーの何かと濃い空気に圧倒されないように頑張っている。
黒蠍―逃げ足のチック 攻1000
そしてその4人がザルーグのいるところに集まり、すっかり慣れきった動きで謎のフォーメーションを取る。
『『『『『我ら、黒蠍盗掘団!』』』』
そう。彼らこそが黒蠍盗掘団。去年セブンスターズの一員として学園に潜り込むも突如名探偵サンダーとなった当時の万丈目にその正体を暴かれ、その後のデュエルにおいて敗北したものの万丈目の人柄に惚れこんでカードとして彼の部屋で居候を続けていたゆかいな5人組だ。
「く、黒蠍団だと!?貴様、いつものデッキはどうした!」
「いい?僕はこの勝負、ただ勝つためだけに来てるんじゃないんだよ。いい加減目ぇ覚ましてこっち帰ってこい万丈目!そしてそのために必要だと僕と十代が判断してデッキを組んだ、それが―――――」
『『『『『それが、黒蠍盗掘団!』』』』』
いよし決まった。急に振ったからどうなるかと思ったけど、そこは空気読んでちゃんとやってくれた。
「ふ、ふざけるな!」
「ふざけるなって?僕にはそっちがやられかかってるようにしか見えないけどね。行くよ、バトルだ!強力のゴーグでライデンに攻撃!」
『むぅん、ごうりきハンマー!』
ゴーグがハンマーを振り上げ、ライデンの頭上に叩き付ける。と、思ったのだが。
「トラップ発動、バトル・ブレイク!相手は手札のトラップを見せることでこのカードを無効にできるが、それができない場合は攻撃モンスターを破壊してバトルフェイズを終了させる!」
「ま、まずい……」
僕の手札は黒蠍団展開のためにもう全部使いきった。見せることができるトラップなんてただの1枚もありゃしない。
「ごめん、ゴーグ!」
『むうぅぅぅ……!』
『ゴーグ!クソッ、清明の旦那は気にすんな。俺たち全員、覚悟の上でこのフィールドに立ってんだからよ』
破壊されるというのに非難の声1つあげることなく、ゴーグの体がフィールドから消え去る。それとザルーグが慰めてくれたおかげで若干罪悪感は薄まったものの、残りの黒蠍メンバーではどうにもこうにも火力不足だ。1700のライデンを倒すこともできない。
「ターン、エンド……」
万丈目 LP4000 手札:3
モンスター:ライトロード・アサシン ライデン(攻)
魔法・罠:なし
清明 LP4000 手札:0
モンスター:首領・ザルーグ(攻)
黒蠍―罠はずしのクリフ(攻)
黒蠍―茨のミーネ(守)
黒蠍―逃げ足のチック(攻)
魔法・罠:なし
「ふん、それで終わりか。俺のターン!別にこの盤面なら凝った動きをするまでもないな。ライトロード・パラディン ジェインを召喚!そしてこのターンもライデンの効果を発動。1枚目は死者蘇生、2枚目はライトロードのライニャン、よってアサシンの攻撃力が上昇する」
光り輝く剣を持った正統派の騎士といった姿の戦士が、ライデンの隣に降り立つ。
ライトロード・パラディン ジェイン 攻1800
ライトロード・アサシン ライデン 攻1700→1900
「バトルだ、ジェインで逃げ足のチックに攻撃!この瞬間にジェインの効果により、攻撃力が300ポイント上昇する」
『ちくしょう、こっちかよ~!?こうなったらヤケクソだ、喰らえ元気槌っ!』
光の剣が煌めき、チックが決死の覚悟で振ったハンマーを手から叩き落とす。そして返しの太刀がうなり、がら空きになったチックの胴体を弾き飛ばした。
ライトロード・パラディン ジェイン 攻2100→黒蠍―逃げ足のチック 攻1000(破壊)
清明 LP4000→2900
「次はライデンの番だな。攻撃するのは……そうだな、罠はずしのクリフに攻撃!」
『フン。せめて一撃は入れてやる、トラップナイフ!』
二人の持つ短剣がそれぞれ複雑な軌道を描く。だがライデンの刃がクリフを切り裂いた時、彼のナイフはほんの少し屈んだライデンの、そのさっきまで首があったあたりの空気を虚しく切り裂くだけだった。
ライトロード・アサシン ライデン 攻1900→黒蠍―罠はずしのクリフ 攻1200(破壊)
清明 LP2900→2200
『チック、クリフ!』
『よくも私の仲間にここまで手ぇ出してくれたわねっ!そこの白いの2人、覚えときな!』
いなくなった仲間を嘆くザルーグに対し、キッと般若の形相でジェインとライデンを睨みつけるミーネ。やっぱ女性って怖い、ということが再確認できた。
「エンドフェイズにライデンの効果で2枚、ジェインの効果でさらに2枚デッキトップを墓地に送りターンエンドだ。どうした?随分と張り合いがないな。なんなら、今からでもデッキの変更を認めてやってもいいんだぞ?」
「誰がやるってのさ、そんなもん。僕のターン、ドローッ!……ほう」
僕が今引いたカード。このデッキは基本万丈目が持っていたカードのみで作ってあるが、そんな中でたった2枚だけ別のところから入れたカードがある。これは、そのうちの1枚。いつか万丈目に渡してくれと頼まれ、一時的に僕が預かっていたカード。
話は変わるが、デュエルアカデミアノース校には、天田という男がいる。デュエルモンスターズ初期に登場したステータスもレベルもパッとしない儀式モンスター、ハングリーバーガーに強力な効果を持つ儀式魔人の効果を全部乗せすることで超強力なモンスターへと変貌させ、それを主軸として戦うテクニカルなデッキの使い手だ。僕は直接デュエルしたことこそないものの、三沢や葵ちゃんといった強豪相手に一歩も引かないだけのタクティクスも持ち合わせており、サンダー四天王としても知られている。
今年はノース校が全員光の結社に堕ちた状態の中たった一人で抵抗し続け、この時すでに構成員だった葵ちゃんたちの策略により自身も光の結社に入ってしまうものの、その直前に万丈目が持ってきた以外のノース校秘蔵のカードを僕にこっそり渡してくれた。そう、今引いたカードこそがまさにそのカードの内の1枚。
「うまい具合に墓地にモンスターが3体、か。天田、万丈目のためにこの力、ひとまず僕が使わせてもらうよ。僕の墓地の闇属性モンスターが3体ぴったりの時、このカードは手札から特殊召喚できる!出でよ、ダーク・アームド・ドラゴン!」
万丈目が普段主力として愛用するレベルモンスター、アームド・ドラゴンが闇の力を得た姿。全体的に元の姿よりとげとげしくなり、凶悪感が増している。
ダーク・アームド・ドラゴン 攻2800
「な、なんだそのモンスターは!アームド・ドラゴンのダーク化だと!?」
「うん。このカードはノース校の天田が、光の結社に入る直前に僕に渡してくれたカード。天田、言ってたよ?このカードはできたらサンダーに渡したかったけど、光の結社に入っているなら今は渡せない、みたいなこと。みんなさ、心配してるんだよ」
「ええい、ハッタリに決まっている!そのカードだっておおかたお前が奪い取ったものだろう!?」
頭をぶんぶんと振り、必死に僕の言葉に抵抗しようとする万丈目。やっぱり口だけじゃ説得できないか。
「なら、ここで一発ぶん殴るさ。ダーク・アームド・ドラゴンは墓地の闇属性を除外することで、相手フィールドのカードを1枚破壊できる。逃げ足のチック、罠はずしのクリフを除外してそれぞれジェイン、ライデンを破壊!ダーク・ジェノサイド・カッター!」
「何!?」
『さっきのお返しだ、今度こそ受けてみろ元気槌!』
『借りは返す、トラップナイフ!』
ダーク・アームドが地面を両手で勢いよく叩くと、その地点から半透明になった黒蠍団の2人が飛び出してきてそれぞれ先ほどの反撃を加えた。
「それじゃあバトル、ダーク・アームド・ドラゴンでダイレクトアタック!受けてみろ万丈目、ダーク・ヴァニッシャー!」
ダーク・アームド・ドラゴン 攻2800→万丈目(直接攻撃)
万丈目 LP4000→1200
「ぐはあっ!」
「次、ザルーグ!」
『倒れるのはまだ早いぜ、万丈目の旦那!あーらよっと、ダブルリボルバー!』
ドラゴンの重いパンチをまともに喰らった万丈目に、追撃の弾丸が2発うなりをつけて飛んでいく。打が持ち直した万丈目は慌てることなく、手札から1枚のカードをモンスターゾーンに叩き付けた。
「甘い!相手の直接攻撃宣言時、手札からBF-熱風のギブリの効果発動!このカードを特殊召喚だ」
「ギ、ギブリ!?そのカードは!」
黒い中に赤のアクセントが入った独特の配色な羽根を持つカラスが必殺の弾丸の前にパッと飛び込み、なんと羽ばたいた風圧で弾丸の軌道を無理やりずらしてのけた。
BF-熱風のギブリ 守1600
ギブリ。あのモンスターには僕も見覚えがある。通常ライトロードデッキには入らないであろうカードだが、あのカードはサンダー四天王最強にして今も光の結社の中ではそこそこの地位を手に入れている男、鎧田の持っていたカードだ。1度万丈目がアカデミアを賭け自分の兄とデュエルするために攻撃力0統一のデッキを組む際わざわざノース校から送ってもらったカード。あの後ノース校に返したはずだけど、わざわざもう1度もらったのだろうか。
「ザルーグの攻撃力じゃ勝てない……墓地のゴーグは温存するからダーク・アームドの効果は使わないでターン終了」
万丈目 LP1200 手札:2
モンスター:BF-熱風のギブリ(守)
魔法・罠:なし
清明 LP2200 手札:0
モンスター:首領・ザルーグ(攻)
黒蠍―茨のミーネ(守)
魔法・罠:なし
「俺のターンだ。ギブリをリリースし、アドバンス召喚!出でよ、ライトロード・ドラゴン グラゴニス!」
純白の姿に金色の装飾を施されたドラゴンが、太陽を背にして天から駆けてくる。
「グラゴニスの攻撃力は、墓地に存在する戦い半ばで散っていったライトロードの正義に対する思いを受け取ることでその種類の300倍アップする。そして今の俺の墓地にはお前に破壊されたジェイン、ライデンの他にもこいつらの効果で墓地に送られたライニャン、エイリンの計4種類6枚のライトロード。よってその攻撃力は1200ポイントアップだ!」
ライトロード・ドラゴン グラゴニス 攻2000→3200
「残念ながらこのままザルーグに攻撃してもお前のライフを0にすることはできないな。ならばダーク・アームド・ドラゴン、貴様を破壊するまでだ!」
「ダーク・アームド!」
漆黒の龍が唸り、自身の全体重を乗せた渾身の右ストレートを放つ。だが光のドラゴンはその一撃を巨体からは想像もつかないような身軽さで上空へ回避し、再び太陽を背にする格好になる。その動きをしっかり目で追いかけるものの、太陽をまともに目にしたダーク・アームドがほんの1瞬だけ硬直する。グラゴニスには、その1瞬だけで十分だった。まばゆい光のブレスが、回避の遅れたダーク・アームドの体を包み込んで消し去っていく。
ライトロード・ドラゴン グラゴニス 攻3200→ダーク・アームド・ドラゴン 攻2800(破壊)
清明 LP2200→1800
「まさかお前を相手にしてこんな単純な殴り合いをするだけのデュエルになるとはな。まったくもってつまらん、まるで張りあいがない。まあ、ダーク・アームド・ドラゴンにだけはちょっぴり驚いたことは否定しないが。エンドフェイズにグラゴニスの効果でカードを3枚墓地に送り、その中にライラのカードがあった。よってさらにグラゴニスの攻撃力は上がり、カードを伏せてターンエンドだ」
ライトロード・ドラゴン グラゴニス 攻3200→3500
「好き勝手言ってくれちゃってー。僕のターン、ドロー!」
とはいえ、実際これまで単純な殴り合いに終始していることは紛れもない事実。そして、真正面からの火力勝負ではぶっちゃけこのデッキはライトロードに勝てない。
「お、いいカード。魔法カード、一時休戦を発動。そのまま引いたモンスターをセットして、ターンエンド」
お互いにカードを引き、さらに次の相手ターン終了時までお互いに受けるダメージを0にする便利なカード、一時休戦をこの土壇場で引いた。ここでこのモンスターを引けたってことは、まだまだチャンスはある。
万丈目 LP1200 手札:3
モンスター:BF-熱風のギブリ(守)
魔法・罠:1(伏せ)
清明 LP1800 手札:0
モンスター:首領・ザルーグ(攻)
黒蠍―茨のミーネ(守)
???(セット)
魔法・罠:なし
「それで時間を稼ぐつもりか?ならば、このカードだ。来い、ライトロード・ドルイド オルクス!」
白い髪の、本を片手にした初老の老人。当然のごとくその恰好は白一色だ。
ライトロード・ドルイド オルクス 守1800
「オルクスの効果は知っているな?これで俺もお前もライトロードと名のつくモンスターをカード効果の対象にできない。そして戦闘ダメージは与えられなくとも、今のうちにそのセットモンスターは破壊する!バトルだ、グラゴニス!」
ライトロード・ドラゴン グラゴニス 攻3500→??? 守800(破壊)
「この瞬間、メタモルポットのリバース効果発動!お互いに手札をすべて捨て、カードを5枚ドロー。もっとも、僕に捨てる手札なんてもんないんだけどね」
「フン、くだらん。戦闘を諦めデッキ破壊でもやる気か、お前は?カードを伏せ、エンドフェイズに2体のモンスターの効果で合計5枚のカードを墓地に送り、ターンエンドだ」
「それじゃあ、僕のターン!」
5枚の手札、そして今引いたカードを見て、それから場にいるザルーグとミーネにアイコンタクトを取る。何をしようとしているのか察したらしい2人がコクリ、と同時に頷いた。
「ザルーグとミーネをリリースして、アドバンス召喚!これがアームド・ドラゴン進化系、もう1つの形っ!現れ出でよ、メタファイズ・アームド・ドラゴンっ!」
ダーク・アームドのような姿こそしているものの、先ほどとはまるで違う。2Pカラーといっては失礼だが、まさにそんな感じだ。漆黒のダーク・アームドに対し、ライトロードと同じく純白を基調とした神秘的なカラーリングを持つ幻竜。
メタファイズ・アームド・ドラゴン 攻2800
「また、新たなアームド・ドラゴンだと……!」
「生憎このモンスターには効果はないけどね。だけど、通常モンスターには通常モンスターなりの戦い方ってものがあるってもんさ。さらに魔法カード、魔の試着部屋を発動!800ライフを払うことでカードを4枚めくり、その中からレベル3以下の通常モンスターを出せるだけ展開することができる。1、2、3、4……当たりは2枚か、なかなか悪くないね。出ておいで、グリーン!ブラック!」
『『ようやく出番だー!!』』
清明 LP1800→1000
おジャマ・グリーン 守1000
おジャマ・ブラック 守1000
『もー、ひどいぜ清明の旦那ー!せっかく黒蠍団と一緒に戦うんだから、張り切ってこんなものまで作ったのに!』
『俺たちが出てきたときにはもう、黒蠍団が全員退場してるじゃん!』
見ると、確かにいつもブリーフ1丁の彼らが珍しく革ジャンのようなものを上半身裸の上に羽織っている。背中側にはでっかくプリントされた手書きの蠍らしき生き物の絵と、でかでかと描かれた【邪魔蠍団、推参】の文字。多分それ無許可だろうし、本人たちに見られなくてよかったんじゃないかな。むしろ怒られずに済んだことを感謝してもらいたいぞ僕。
「……まあ、いいや。バトル、メタファイズでオルクスに攻撃!」
「かかったな、馬鹿め!トラップカード、地縛霊の誘いを発動!この効果によりその攻撃は俺のフィールドにいる別のモンスター、すなわちグラゴニスへと誘導される!さらにその移し替えとコンボで、手札からオネストの効果を発動!攻撃力6300となったグラゴニスの1撃を受けて消えるがいい!」
グラゴニスがオルクスを守るかのごとく、メタファイズのパンチの前に割り込んで翼を開く。それを見て万丈目が一瞬勝利を確信した笑みを浮かべるも、すぐにその笑いが凍りついた。なんとグラゴニスの全身を覆う光がみるみるうちに弱くなり、やがては完全に消えていってしまったのだから無理もない。
メタファイズ・アームド・ドラゴン 攻2800→
ライトロード・ドラゴン グラゴニス 攻3500→6300→2000(破壊)
万丈目 LP1200→400
「ダメージ計算時になって急に攻撃力が2000に下がった……そうか、速攻魔法か!」
「ご名算。僕は今の戦闘で速攻魔法、禁じられた聖典を発動していたのさ。このカードの効果によりフィールド上のカードは全部一時的に無効になって、モンスターは元々の攻守を使って戦闘を行う。グラゴニスも強化さえ取っ払えば元の攻撃力は2000、このアームド・ドラゴンの敵じゃないね」
『そうだそうだー!』
『これが俺たちの力だー!』
「ええい、何もしてないお前ら雑魚に言われる筋合いはなーい!」
む。今のツッコミ、ちょっと前の万丈目っぽかった気がする。なにせ万丈目のやつホワイト化してから変なところでちょいちょいシリアスぶってることが多かったから、ああやって大声で叫ぶのを見るのは久しぶりだ。見た目は全く変化なしだけど、もしかして少しづつ僕の友人である万丈目サンダーが戻りつつあるんだろうか。だとしたら、ますますこのデュエルで負けるわけにはいかなくなった。そこで大人しくしてなよ万丈目、今すぐもとに戻したげるから。
「これで、僕はターンエンド」
万丈目 LP400 手札:4
モンスター:ライトロード・ドルイド オルクス(守)
魔法・罠:1(伏せ)
清明 LP1800 手札:3
モンスター:メタファイズ・アームド・ドラゴン(攻)
おジャマ・グリーン(守)
おジャマ・ブラック(守)
魔法・罠:なし
「俺のターン、ドロー……ふふふ、ハハハハハ!」
「今度は何!?」
急にカードを見て高笑いしだしたので、その異様な光景に黙っていられなくなり声をかける。
「確かにお前はよくやったさ、だが勝機は俺に訪れたようだ!俺の墓地のライトロードが4種類以上いるとき、このカードは特殊召喚できる!出て来い、裁きの龍!」
グラゴニスをはるかに上回る白い巨体。ライトロードの切り札にして最も警戒していた最終兵器が、ついにその姿を見せた。
裁きの龍 攻3000
「だ、だけど……」
「おっと、皆まで言うな。お前の考えていることはわかるぞ?俺のライフは残りたったの400、そしてコイツの全体除去効果を使うのに必要なライフは1000。このターンは凌げる、そう思っているんだろう?だが、その考えこそが甘い!ロイヤルナイツを通常召喚だ」
ロイヤルナイツ 攻1300
どこか機械めいた姿の、手に剣を持つ天使が羽を広げて地面に降り立つ。だけどその攻撃力は1300と、とてもじゃないが高いとは言えない数値だ。
「バトルだ、ロイヤルナイツでおジャマ……そうだな、どっちでも構わんがここはブラック、貴様に攻撃だ!」
『げーっ!?』
あたふたとモンスターゾーンから逃げようとするも、突き出した腹が邪魔になって結局逃げ遅れたブラックをロイヤルナイツが滑空しながら一閃する。
ロイヤルナイツ 攻1300→おジャマ・ブラック 守1000(破壊)
万丈目 LP400→1400
「そしてこの瞬間、ロイヤルナイツの効果が発動する。戦闘で破壊したモンスターの守備力分、俺のライフを回復だ!このまま裁きの龍での連撃に移りダメージを稼いでもいいが、お前の場に伏せてあるカードが目障りだな……ここはメイン2に移行し、裁きの龍の効果発動だ。ライフを1000支払い、このカード以外の全フィールドを焼け野原にする!」
『結局こうなるのかよーっ!』
万丈目 LP1400→400
メタファイズが、グリーンが、僕の伏せカードが、真っ白い光に飲み込まれていく。何もかもなくなってしまった戦場に、万丈目の声が聞こえた。
「オルクスが消えてしまったのもまあ、必要経費の範囲内だろう。裁きの龍の効果で4枚のカードを墓地に送り、ターンエンドだ。おっと、今のカードの中にウォルフがいたな。カード効果でデッキから墓地に送られたこいつは特殊召喚される」
ライトロード・ビースト ウォルフ 攻2100
あれ。これ、もたもたしてたら本気でデッキデス狙えるんじゃなかろうか。かれこれ落としたカードは30枚以上、さらにメタモルポットの効果も1回受けさせているし。
「でもまあ、それで勝っても意味ないだろうなぁ。ドロー!」
万丈目の場には攻撃力3000の裁きの龍と、攻撃力2100のウォルフ。対してこちらにはわずか3枚の手札のみ。
『ちょっとダンナ、何弱気なこと言ってるのよ!このデュエルには万丈目のアニキがあのダサい服を着続ける羽目になるかどうかがかかってるのよ!?』
「あ、ちょっと、喋ったら何引いたのかばれるでしょーが!?」
反射的につい叫び返してから、ミスに気づき慌てて万丈目の顔色をうかがう。あ、これダメな奴だ。何引いたか丸聞こえだ。
「もー、自分からばらしに行ったんだから責任とってよ?おジャマ・イエローを召喚して、馬の骨の対価を発動。自分フィールドの通常モンスターを墓地に送って、カードを2枚ドロー。よし、来た来た来た!魔法カード、トライワイトゾーンを発動!墓地に存在するレベル2以下の通常モンスター3体を特殊召喚する!甦れ、3兄弟っ!」
『『『おジャマ三兄弟、ふっかーつ!』』』
おジャマ・イエロー 守1000
おジャマ・ブラック 守1000
おジャマ・グリーン 守1000
「そんなモンスター、3体並べたところで何の役に立つというんだ?」
「万丈目……ほんとに覚えてないの?いつも万丈目は、こうやってこのおジャマを揃えて戦ってきてたじゃない」
『そうだぜ、アニキ!』
『俺たちのこと、本当に覚えてないのかよ!』
「お、お前らみたいに不細工な奴のことなんか、この俺が覚えてなぞいるものか……」
そう返すものの、前よりもはるかに万丈目の言葉に勢いがない。畳みかけるなら少しずつ洗脳が解けてきている今が好機と見て、さらに言葉を重ねる。ここは、万丈目の性格を考えると理詰めより情に訴えかけるのが一番効くはずだ。
「これはあとから聞いた話なんだけど、万丈目がそうやって光の結社に入ったのは元々、あの日僕を探しにわざわざ外に来てくれたからなんだって?」
あの日、とは他でもない。僕にとって、光の結社の恐ろしさを最初に味わった日。どこでいつどうやったのか、そういうことはいまだにまるで分らないけれど、しばらく行方不明だったユーノがふらりと帰ってきたと思ったら、すでに光の結社洗脳済みだった彼の不意打ちを受けてしまった日のことだ。それから数日して目覚めたら、僕を心配して探しに来た万丈目があのホワイトサンダー状態になっていて、十代もエドに負けたショックで消息不明になっていた。あんな感覚、もう2度と味わいたくない。思い出しただけで寒気がする。僕は寂しいのが大嫌いなんだ。
「な、何のことだか俺は、俺は……」
「その話聞いてからいつか言おう言おうとは思ってたんだけど、ここで言わせてもらうよ。………万丈目、ありがとう」
「ッ……!」
さあ、どうだ。これでこっちが今現在出せる対万丈目用手段はほぼすべて使い切った。というとなんだか計算づくみたいだけど、別にそんなことはない。お礼を言いたかった、というのは紛れもない本音だ。このタイミングで利用できるとは思ったけど。
「まだ思い出せないなら、これが最後の一手。いくよ、魔法発動!」
『『『待ってましたー!イエロー!ブラック!グリーン!必殺……おジャマ・デルタハリケーン!!』』』
三兄弟が輪になり、飛び上がってからものすごい勢いで回転を始める。そのままその輪が万丈目のフィールドにあるすべてのカードを取り囲むと、先ほど裁きの龍がぶちかましたような破壊の嵐が吹き荒れる。
「う……うおおおおおっ!」
爆風に万丈目の体が1メートルほど吹き飛ばされ、どさりと地面に倒れこむ。さすがに心配になって駆け寄ろうとする僕を手で制し、よろめきながらも立ち上がる。
「こんな、ことで、俺の斎王様への忠誠心は……」
まだ駄目か。思いのほか洗脳が強いせいでこちらの出せる手はもうほぼない。でもあと何か、もうひと押し欲しいところだ。と、その瞬間に声がする。こんなタイミングのいい男なんて、僕は一人しか知らない。こんな、まさにヒーローみたいなタイミングの良さは。
「お、居た居た。おーい、万丈目!お前の制服だぞ、受け取れ!」
「お前は、十代!?」
待ってました、十代。手にした黒い服を得意げに見せつけてから、それを万丈目めがけて投げつける。きれいな軌道を描いたそれが、万丈目に頭から覆いかぶさった。
「な、なんだこの変なにおいは!?」
「それは醤油だよ。だいたい万丈目いっつもいっつもこぼしては袖で拭き、こぼしては袖で拭くんだもん。おまけに服そのものが黒いせいで汚れも目立たないし。どうせ洗濯しないんならせめて雑巾とか使ってよ」
「そうだそうだ、今まで気づいてなかったのかよ!今日だってその服もってくるとき、ちょっと臭かったんだぞ!」
『うんうん、万丈目のアニキったらいくら言っても聞かないもんだから……』
「お・ま・え・ら・なあ!ええい、人の服をそんな乱暴に扱うんじゃない!」
バサリと白い上着をそこらへんに脱ぎ捨て、久しぶりに見るいつもの格好に戻った万丈目。僕らの方ににやりと笑って見せ、デュエルディスクを構えなおした。
「待たせたな、清明。なぜおまえの場にその雑魚3兄弟がいるのかについては聞かないでおいてやるが、今はデュエルの最中なのだろう?」
その懐かしい偉そうな調子に、思わずこちらも頬が緩む。そうか、ようやく帰ってきてくれたんだ。
「まーね。1枚セットして、ターンエンド!」
万丈目 LP400 手札:2
モンスター:なし
魔法・罠:なし
清明 LP1800 手札:1
モンスター:おジャマ・イエロー(守)
おジャマ・グリーン(守)
おジャマ・ブラック(守)
魔法・罠:1(伏せ)
「俺のターン、ドローだ!……うっ!?」
カードをドローした万丈目が、急に苦しみだす。そういえば引いたカード全体が、ぼんやりと薄く光ってるような……?と、再び黒い服を脱ぎ捨て、ついさっき脱いだばかりの白服を羽織りだす。向き直ったその顔は、再びホワイトサンダーのものになっていた。
「ふん、くだらん手を使いおって。危うく斎王様への忠誠心が揺らいでしまうところだったが、そんな卑怯な手がこの万丈目ホワイトサンダーに通じるものか!!ここまで肥えさせた墓地の使い方を教えてやろう。魔法カード、暴走する魔力を発動!墓地に存在する魔法カード全て、合計9枚を除外することでその枚数の300倍以下の守備力を持つ相手モンスターをすべて破壊する!その雑魚は全員守備力2700以下、これで消えされ!」
文字通り魔法が暴走して、四方八方に緑色の雷が飛び散る。冗談じゃない、ここまで来て負けるだなんてまっぴらごめんだね。
「だったらリバースの速攻魔法、瞬間融合を発動!フィールド上に存在するモンスターを使い、融合召喚を行う!僕が素材にするのはもちろん、三兄弟全員だ!」
『『『おジャマ究極合体!おいでませ、おジャマ・キング!』』』
黄、黒、緑の三兄弟が飛び上がって空中で一つになり、ライトロードのような光の白色とはまた違った白いモンスターになる。そう、例えるならばペンキでも頭からかぶったかのような、そういう感じの白色に。そしてその白いモンスターが、グリーン並みにムキムキな腕の筋肉を生かして雷をはじく。
『おジャーマ・キーング!』
おジャマ・キング 守3000
「なるほど、守備力3000ならばギリギリ暴走する魔力でも潰しきれないか……だが、瞬間融合のデメリットは俺も知っている!墓地からアマリリースの効果を発動。このカードを除外し、このターンアドバンス召喚に必要なモンスターを1体減らすことができる」
かすかに光るカード。なるほど、あれが万丈目を洗脳してるカード、葵ちゃんにおける銀河眼みたいなものか。裏を返せば、あれが万丈目を取り返す時に最後に立ちはだかるラスボスだと。そして、そのカードがモンスターゾーンに置かれた。
「ライトレイ マドールを守備表示で特殊召喚!さあこの壁、越えられるものなら越えてみろ!」
万丈目の目の前に、光り輝く氷の壁が立ちふさがる。3重にもなった分厚い壁の前に、仮面をつけた魔法使いが一人たたずむ。
ライトレイ マドール 守3000
「1つ断っておくが、こいつは1ターンに1度戦闘では破壊されない。そしてこのエンドフェイズには瞬間融合のデメリットによりお前にとって頼みの綱のおジャマ・キングも破壊される!このデュエル長かったが、これで俺の勝ちだ!」
「あれあれ、本気?僕がドローする前からそんなこと言っちゃって、どうなっても知らないよ?」
ホワイト相手に弱気なところを見せたら何言いだすかわかったもんじゃないのであえて自信満々に強がって見たけど、正直状況はかなり苦しい。手札のこれ1枚だけじゃあまだマドールの壁は越えられない、となると……。
「後は、この引き次第、っと!ドロー!」
「たった2枚のカードでマドールを倒すことなど、できるはずが……」
万丈目が、十代が、かたずをのんで見守る中、そっと手札を見る。来た!
「魔法カード、未来への思いを発動!このカードは自分の墓地からレベルの異なるモンスターを3体蘇生させることができる!レベル7、メタファイズ・アームド・ドラゴン!レベル6、おジャマ・キング!レベル4、首領・ザルーグ!」
『アニキ~!』
メタファイズ・アームド・ドラゴン 攻2800→0
おジャマ・キング 攻0
首領・ザルーグ 攻1400→0
「だがいくら3体モンスターを揃えたところで、未来への思いのデメリットでその攻撃力は0で効果も無効、とどめにこのターンのエンドフェイズ、お前は4000ポイントのライフを失うことになる!その状態で俺に勝つことなど……」
「悪いね、わざわざ説明してもらって。確かにその通りだけど、このモンスターたちは攻撃することはできる」
「攻撃力0で攻撃するだと?手の込んだ自殺か、それは」
「いいや、このカードを使ってから攻撃するのさ!フィールド魔法、おジャマ・カントリー!このカードはフィールドにおジャマモンスターがいるとき、全モンスターの攻守を逆転させる!」
一瞬にしてアカデミアが、周りにのどかな感じの家が立ち並ぶ地に変わる。そして、未来への思いは攻撃力こそ0にするものの、守備力は一切変化させない魔法カード。僕の3体のモンスターが新たな力を得て気合十分になる中、マドールはその力をみるみるうちに吸い取られてよろめき、自分の作り出した壁に寄り掛かる。
メタファイズ・アームド・ドラゴン 攻0→1000 守1000→0
おジャマ・キング 攻0→3000 守3000→0
首領・ザルーグ 攻0→1600 守1600→0
ライトレイ マドール 守3000→1200 攻1200→3000
「バ、バカな……!」
「これで、最後のバトル。ザルーグでマドールに攻撃!」
『おうともよ。そらよ、こいつは俺からのプレゼントだ!ダブルリボルバー!』
首領・ザルーグ 攻1600→ライトレイ マドール 守1200
2丁拳銃から放たれた銃弾が正確にマドールの仮面のど真ん中に命中し、もう片方が1枚目の氷の壁を撃ちぬく。だが、敵も戦闘で1度は破壊されないモンスター。並大抵のモンスターなら致命傷になる銃撃を受けてなお、立ち上がろうとしてなおも手足を動かす。だがその頭上に、不意に影がかかった。次の瞬間、2枚目の氷の壁ごといつの間にかジャンプしていた白い巨体がマドールを押しつぶしにかかる。
「ほんとはこっちにとどめを任せたかったけど、ここは天田の意思を尊重して、ね。おジャマ・キングでマドールに攻撃!」
『フライング・ボディアターック!』
おジャマ・キング 攻3000→ライトレイ マドール 守1200(破壊)
「そ、そんな、そんなことが……いや、そう、か」
「これで終わりさ、万丈目。今度こそこっちがわに戻っておいで。メタファイズ・アームド・ドラゴンで最後のダイレクトアタック!ミスティック・ヴァニッシャー!」
メタファイズの一撃が、なぜか残っていた最後の氷の壁を打ち砕き、そのまま勢いを消すことなく万丈目へと迫る。だが万丈目はそれを避けようともせず、大人しく目を閉じてそれを受け入れた。
メタファイズ・アームド・ドラゴン 攻1000→万丈目(直接攻撃)
万丈目 LP400→0
「気分はどう?万丈目」
自分のすぐ近くで聞き覚えのある声がして、それで目が覚めた。
「……ひどい気分だ。こんな気分になったのは、あの三兄弟と初めて会った時以来だな」
『ああん、アニキのいけず~』
「そ。減らず口叩けるんならまだ余裕あるね。一応聞くけど、どっちがいい?」
そう言ってそいつは、俺に黒い服を投げ渡す。ついこの間まで好んできていた、俺特注の制服だ。最近は好みが変わって真っ白なものを注文していたが、やはり俺には黒が似合う。このハイセンスなファッションなら、いつか天上院君だって俺のことを振り向いてくれるはずだ。
『アニキは腹黒だからね~』
「なんだと、この!」
なれなれしくすり寄ってきたおジャマ・イエローがなんだかずいぶんと無礼なことを言ってくるので、罰としてデコピンを食らわせる。キャー、と悲鳴を上げて吹き飛び、そのままポン、と消えた。まったく、仕方のない奴だ。そしてその様子を笑って見ていた二人組、俺のライバルである清明と十代を睨みつける。
「お帰り、万丈目」
「お前が戻ってきてよかったぜ!」
お帰り?戻ってきた?まったく、こいつらはなにを言っているんだ。俺は俺、いつだってそれは変わらない。そうだ、久しぶりにあれをやろう。
「おいお前ら、俺の名前を言ってみろ!」
一瞬ぽかんとしたのち、さらに笑顔を深める2人。フン、やはりこいつらには俺が手本となってやらねばな。こいつらも仮にもデュエルキングを目指すというのなら、俺のようにただ実力があるだけではなくエンターテインメント性も必須だ。今一度、その手本を見せてやろう。スッと指を1本立てて上にあげると、2人も同じポーズをとる。そうだ、そう来なくてはな。
「一!」
「十!」
「百!」
「千!」
ここでぐっ、と一度ためを作る。このタイミングを計るのがなかなか難しいのだが、ノース校時代から鍛えてきた俺にそんな隙はない。
「万丈目……サンダー!」
「「サンダー!」」
「俺の名は!」
「「サンダー!」」
「ふふふ、ハハハハハ!」
なんだか妙に嬉しくなり、無性に笑いたくなる。しばらくの間、3人でただただ笑っていた。
後書き
万丈目は別にヒロインじゃないです(TFSP感)。
ちなみにこの直後警備員に見つかり、こんな朝っぱらから何をしてるんだとこっぴどく叱られた模様。
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