極短編集
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短編60新昔話「瓶の声(かめのこえ)」
あるところに、ひどく貧乏の男がおった。ある日、家の床下から……
「おーい」
と、声が聞こえてきた。
男は、床板をはずして見ると、声は地面から聞こえていた。なので男が、地面を掘ると、土の中から、瓶が出てきたではないか!
「さても不思議な事があるものだ!しかしまあ、中にも土が入っておる」
そのままでは土だらけなので、出てきた瓶を男は、川へもって行き洗った。それから土間で干しておいた。すると……
「おーい」
と、土間から声がした。行ってみると声は瓶の中から。男が驚いていると……
「おーい!何か入れてくれ」
と、瓶は言った。男はとりあえず、土間にあった薪を入れた。するとどうだろうか!?
ジャラジャラーン
と、小銭を吐き出したではないか!?
「ひえ~!」
男が驚いていると……
「もっと!もっと」
と、瓶は言った。なので、男は薪をまた入れた。
ジャラジャラーン
と、小銭を吐き出す瓶。
「もっと!もっと」
と、瓶がまた言うので、男は薪がなくなるまで、瓶の中に放り込んだ。男は、瓶が出した小銭を元に、食べ物や着る物を新しくした。
「もっと!もっと」
ジャラジャラーン
「もっと!もっと」
ジャラジャラーン
そのうち、農具も新しくしたが、瓶の中に薪を入れると、小銭が出てくるので、バカらしくて、畑で食べ物を作るのをやめてしまった。なので、買った鉄の鍬をバラバラにして、瓶の中に入れてしまった。すると……
ジャンジャラジャーン
なんと!小判が出たではないか!?これを見た男は……
『もしかすると、鉄を入れると小判になるのではねえか?』
そう思った男は、今までの小銭で手に入るだけの鉄を買ってきた。男が買ってきたのは、鉄の急須、鋏、小刀などだった。それを瓶に入れると……
ジャンジャラジャーン
と、どんどん小判を吐き出した。それからというもの、男は家を新しくした。それでも有り余るほどの小判が残った。男はさらに、お金を欲しがった。鉄の他に、銀や宝石を手に入れると、瓶に放り込んだ。
ガラガラジャーン
と、今度はなんと!大判が出てきたではないか!?
「わははは!愉快、愉快」
男は笑いが止まらなかった。
「もっとだ!もっと」
と、男は言って、どんどんと大判を出したのだった。
「そうだ!金を入れたらどうなるんだ!?きっと、もっと凄いのが出るのではないか!?」
男は、今度は金を瓶に入れてみる事にした。そして、今までの大判や小判も瓶の中にザクザクと入れた。
「もっと!もっと」
瓶はいまや溢れんばかりの、お金でいっぱいだった。入りきらないほどのお金を瓶に入れている時だった!
パリン、パリパリパリーン!
なんと!瓶が割れてしまった。すると、今まであった大判小判は、錆びた鉄くずになってしまったではないか。そして割れた瓶は、どんどんと粉々になり、最後には砂になってしまった。その時、男は声を張り上げた!
「うわー!」
壊れてなくなった瓶を見て、男は狂ったように大声を上げていた。すると男は、その大きくあけた口から、だんだんと「瓶」に変わっていってしまった。やがて、屋敷のどこからか火の手があがると、家はあっと言う間に炎に包まれ、跡形もなく燃えてしまった。
そして瓶になった男は、火事とともに……
「おーい」
誰かが瓶の声に気付くまで……
埋もれてしまったのだった。
おしまい
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