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戦国異伝

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第二百八話 小田原開城その八

「そうなるか」
「はい、このままでは」
「既にかなり苛立っておられます」
「そうした状況ではです」
「もうです」
「動かれるしかありませぬ」
「このままでは」
「そうじゃな。まあここぞという時にな」
 のらりくらりとした調子は変わらない、松永は自分自身は揺らしていないが声はゆっくりとそうさせて話すのだ。
 そしてだ、こうも言ったのだった。
「動くからのう」
「頼みますぞ」
「さもないとです」
「このことはです」
「御前もお怒りですし」
「他の家の方もです」
「不満を述べられていますので」
 こう返す家臣達だった。
「ですからもう」
「動きましょう」
「どう考えても時です」
「時が来ています」
「まあ急いてはいかん」
 松永だけは変わらない、あくまでこう言う。
「ここはな」
「またですか」
「いや、御前も我慢の限界が近付いています」
「このまま織田信長が天下を統一すれば」
「その時は」
「それまでにことを起こせばよい」 
 松永だけは変わらなかった。
「そうではないか」
「天下統一まではですか」
「織田信長のそれまで、ですか」
「それはもう間近ですが」
「それでもまだ仰いますか」
「いやいや、ここで伊達との戦の後はな」 
 それからはというのだ。
「数年、まあ七年は政に専念する」
「検知や刀狩りに」
「そして国を治める仕組みを整えることにですか」
「それに、ですか」
「力を注ぐので」
「そういうことじゃ、だからな」
 それで、というのだ。
「まだよい」
「では七年の間に」
「その間にですか」
「うむ、動くからな」 
 このことは約束する松永だった。
「だからじゃ」
「それで何処で、でしょうか」
「兵を起こしますか」
「今ここではなく」
「何処でしょうか」
「それは考えておる」
 こう答えるがやはりはっきりとは答えない。
「まあ今ではない」
「では伊達との戦の時は」
「まだ、ですか」
「兵を起こさず」
「このままですか」
「そこでは動かぬ」
 伊達との戦の時はとだ、松永は明言した。このことも。
「決してな」
「ですか、このまま」
「北に」
「行こうぞ」
「このまま天下が定まらねばいいですが」
 ここで家臣の一人が言った。
「殿の為にも」
「そう言うか」
「はい、何分長老がお怒りですので」
「しかしのう、わしはこうも思うのじゃ」
「こうもとは」
「永遠のものはないとな」 
 こう言うのだった、松永は今度は。
「何もな」
「それは仏門の言葉ですか」
「そうじゃったな、しかしな」
「永遠のものがないことは」
「わしはその通りとも思う」
 その家臣に確かな声で述べた言葉だ。 
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