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美しき異形達

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第四十八話 薊の師その六

「意気軒昂じゃ」
「それは何よりだぜ」
「ではこれからかのう」
「いや、稽古はさ」
 それはとだ、薊は老人にも笑って返した。
「いいよ」
「左様か」
「それよりも自己紹介してくれるかい?」 
 薊は老人ににこにこと笑ってこうも言った。
「これから」
「わしのか」
「折角皆連れて来たんだからさ」
 神戸から横須賀までだ、だからこそというのだ。
「そうしてくれるかい?」
「うむ、可愛い娘さん達ばかりじゃしな」
 老人は裕香達に顔を向けて笑って言った。
「それではのう」
「散髪屋さんですよね、薊ちゃんから聞きました」
 裕香は老人にこのことから話した。
「そうですよね」
「その隠居じゃ」
「薊ちゃんの拳法のお師匠さんで」
「そうじゃ、元々ご先祖は福建省から来てのう」 
 老人は自分からそのルーツに言及した。
「それで横浜の中華街からこっちに来たのじゃ」
「散髪屋さんをされて」
「道場も開いては」
「今はご隠居さんですね」
「名前は王至福という」
 その名前も自分から名乗った。
「王さんと呼ばれておる」
「っていっても横浜ファンなんだよ」 
 薊は老人、王の贔屓のチームのことも皆に笑って話した。
「何でも二リーグ制になった洋松ロビンスの頃からな」
「大体その頃からじゃな」
 王も薊にそうだと話した。
「野球はそこじゃ」
「神奈川県民だからって言ってな」
「川崎球場にもよく行ったわ」
「川崎球場?」
 この球場の名前を聞くとだ、殆どの者が首を傾げさせた。薊はそうではなかったが他の面々はそうではなかった。
「川崎にも球場があったんですか」
「昔はのう」
「そうだったんですか」
「最初は大洋ホエールズの本拠地で後でロッテオリオンズの本拠地になったのじゃ」
「千葉ロッテマリンズのですか」
「そうじゃ、あのチームも昔川崎におった」
 そこから千葉に本拠地を移転させたのだ、そしてマリンズサポーターという心強い味方を手に入れたのである。
「そして大洋もじゃ」
「昔は川崎だったんですか」
「そうなのじゃよ」
「ううん、そうだったんですね」
「まあのう、横浜は弱いのう」
 王はここで薊と同じ様なことを苦笑いで言った。
「今度は何時優勝するのじゃろう」
「それ薊ちゃんも言ってますよ」
 裕香は王のその言葉に苦笑いで返した。
「横浜は何で弱いんだって」
「それはその」
「全く、あの阪神が強くなったのにのう」
「あの、ですか」
「かつては極めつけに弱かったというのに」
 とにかく打てずに負けてばかりだった、ピッチャーが二点や三点に抑えても一点位しか取れず完封負けも常ではどうにもならない。
「横浜は相変わらずじゃ」
「それはその」
「ほっほっほ、もう生きておるうちに優勝は見ぬわ」
 達観した言葉だった。
「二回見られただけでもよいわ」
「二回で、ですか」
「うむ、まあとにかく折角来てくれたのじゃ」
 野球の話からだ、王は少女達にあらためて言った。 
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