戦国異伝
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第二百八話 小田原開城その一
第二百八話 小田原開城
小田原ににもだ、関東の状況は逐一伝わっていた。氏康に対して家臣達が苦々しげな顔で言っていた。
「殿、またです」
「また我等の城が開城しました」
「そして一兵失わずです」
「織田はその城を手に入れました」
「関東の国人達もです」
「どんどん織田家になびいています」
彼等のことも話されるのだった。
「大名はあらかた織田家に入りました」
「佐竹、宇都宮、結城にです」
「里見もです」
そうした者達が次々にというのだ。
「全て織田に降り」
「織田家の家臣となっています」
「この相模にしても」
「最早残っているのは小田原のみ」
「他の城は全て織田に降りました」
「そして海も」
そこもだった。
「織田の水軍が囲んでおります」
「そして海からも城を攻め」
「そのうえで城を陥としていっています」
「最早我等は」
「このままでは」
「そうか、では残っている城は韮山と忍だけか」
氏康は家臣達の言葉を聞いて冷静に述べた。
「あの二つの城だけじゃな」
「はい、そうなっています」
「遂にそこまでになりました」
「最早各国の国人達もです」
「次から次に。雪崩を打つ様にです」
「織田家に降り」
「もうほぼ全ての者が織田家になびきました」
国人達もというのだ。
「最早こうなっては」
「これ以上の戦は」
「わかった、ではな」
ここでも氏康は落ち着いたままだ、そして。
幻庵がだ、氏康にあえて落ち着いた声で問うたのだった。
「殿、では降られますか」
「いや、待つ」
「そうされますか」
「我等からは決してな」
「降らぬのですな」
「あちらから来るわ」
全く動じていない声だった、全てをわかっているかの様な。
「だからな」
「ここはですか」
「落ち着いてですか」
「相手を待ち」
「そうして」
「それからじゃ、御主達は暫くくつろいでおれ」
戦を警戒して、というのではなかった。
「今宵は飲め、そして食え」
「くつろぐ為にですか」
「ここは」
「そうじゃ、たらふく飲んで食うのじゃ」
こう言うのだった。
「兵達にもそう伝えよ」
「今宵はですか」
「そうせよと」
「そうじゃ、まあ今にも来ると言ったが」
己の言葉についてだ、氏康はこうしたことも言った。
「明日じゃな」
「明日ですか」
「文が来るのは」
「うむ、織田信長からそれが来る」
こう言うのだった。
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