恋姫†袁紹♂伝
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
閑話―公孫賛視点―
「白蓮、私塾の方は充実していたかしら?」
「うん、とても勉強になったよ母さん」
私塾で三年過ごした私は一月里帰りして実家でゆっくりしていた。
「それはよかったわ、ところで未来のお婿さんは出来たのかしら?」
「ブッ!?そ、そんなのいないから!!」
「あら?満更候補が無いわけでもなさそうね……」
「あいつはただの友達だから!!」
「その思い浮かべた人は誰かしら?」
「……」
「……」
気まずい沈黙が流れ――
「プッ、アハハハハハ! 冗談よ白蓮、良い友達が出来たようで良かったわ」
母さんの笑い声によりかき消された
「まったく……からかわれるのはあいつ等との時だけで十分だよ」
「へぇ、何事もそつなくこなす白蓮を私以外でからかう事が出来るなんて、すごい子達ね」
「ああ……、良くも悪くもすごい奴らだよ」
そう言って別々の道を歩み始めているであろう友を想う―――
袁本初、真名を麗覇、私塾で初めて出来た友であり良いことでも悪いことでも自分を引っ張り、又は引き回してくれた存在だ。
髪は美しく長い金髪で三つ編みに縛り後ろに流している。一度曹操の巻き毛を羨ましそうにみながら『我も巻きたい』とか言い出したので、曹操と二人で必死に止めたのは良い(?)思い出だ。
顔は母親似らしく女顔で、一度曹操に女装させられ私塾に突然現れた美女として騒がれた。
本人も悪乗りし『オーッホッホッホッホッ』と高笑いしていたが、何故か様になっていた。
その後の私塾内を静かにさせるために奔走したのも今では良い(思い込み)思い出だ
服装は流麗で高価な物を好み、金の刺繍が入った派手な服が多かった。そういえば一度ふんどし一枚で私塾にやって来た事があり、理由を聞くと『父親の借金の取立てで難儀していた娘を見かけてな、持ち合わせが無かった故に我が服を授けたのだ!何心配することは無い、あの服であらばお釣りもでるであろうからな、フハハハハハ!』
そういう問題じゃないだろ!と食って掛かった私を他所に塾生達は彼の話に感動している様子で、曹操に至っては成り行きを面白そうに眺めていた。
その後、さすがにふんどし一枚の友を放っておくことが出来ず、慌てて男物の服を買いに行き戻ってくると私塾内に着替えがあったようですでに服を着ていた。
『む?白蓮には男装趣味があるのか? 可愛らしいのだから女物のほうが良いぞ!、フハハハハハ!!』
あの時は恥ずかしいやら悔しいやらで手に持った服が破れそうになったけど、それも今では良い(記憶改善)思い出だ。
あれ? 何か容姿だけでも苦労話しが―――いや、気のせいだ
次に彼の性格、これは彼の特徴でもあるが自己中心、唯我独尊を行くようで実は他者を重んじる傾向がある。
『困り果てた民草に手を差し伸べるのも名族としての役目よ!!』と、本心から言えてしまう彼は言葉通り自分に可能な範囲で人の助けになっていた……が、全ての人を助けることはしなかった。
『全ての問題に我が手を差し伸ばし解決してしまえば、いずれその者達の堕落に繋がるだけよ、手を貸さねば立ち上がれぬ者と自力でも立ち上がれる者達を見極める目を持つのも、名族としての義務ぞ!!』
その言葉の通り袁紹は自力で解決可能な問題に関しては助言をするだけで、直接手を貸すことはしなかった。
これには公孫賛、曹操両名が関心した。 これだけ聞けば彼の内面は完璧と言えるかもしれないが、彼はとても慈悲深くそして―――『派手好き』だった。
―――ああ、あの日を昨日の事の様に思い出すなぁ
それは公孫賛が私塾に入って一年経った頃の出来事である。
………
……
…
「白蓮さん!ここにいたんですね!!」
「斗詩?そんなに慌てて―――まさかまた?」
袁紹が何かをやらかす度に事態を収束させていた公孫賛は、彼の側近で常識人な斗詩とはすぐに打ち解け事が起きる度に二人であたっていた。
「そのまさかです。私一人ではどうにも――」
「わかった私も行くよ」
「うう、すみません」
そしてその日も二人並んで走り、袁紹の許へと向かう
(今度は何をやらかしたんだ麗覇!また猪々子と二人で街にある賊の拠点でも潰したか?横暴な役人を叱咤したか?
移動中にいつの間にか後ろについて来た子供達と遊びだしたか?握手を求めた娘を抱きしめて失神させたか?―――
ああ、嫌な予感しかしない!)
そして現場に到着した彼女の目に映ったのは―――
『お御輿わっしょい!お御輿わっしょい!』
「フハハハハハ、お御輿わっしょい!お御輿わっしょい!」
筋肉隆々の男達が担いだ御輿の上で高笑いしながら往来を移動する友の姿だった。
「何おやってるんだお前はーーー!!」
「おお白蓮ではないか、いやなに御輿を修繕している現場を偶然目にしてかな、我の中で何かがビビッと来たのだ」
「び、びびっと?」
「そうだ!名族とはこうあるべきというか……、事実乗ってから笑いが止まらぬわフハハハハハ!」
『お御輿わっしょい!お御輿わっしょい!』
二人が会話している間も担いだ男達は盛り上がりをみせていた。良く見ると猪々子も混じっている
「ううぅ、白蓮さんどうしましょう?」
「大丈夫だ斗詩、あいつは何だかんだ迷惑になるとわかればキチンと止めれる奴だ、おーいっ麗覇ーー」
すぐに止めさせるための言葉が見つかり袁紹に声をかけた
「どうかしたか白蓮!」
「こんな往来だと通行の邪魔になるだろ?」
「フハハ、周りを見よ!」
「え、周り?―――あっ」
御輿は道の中心にあるため通行人たちの目を引くものの、彼等は横を通り抜けていた。
「で、でもそれは止まっているからであって移動すれば―――」
「心配無用!さぁ、猛々しい益荒男達よ、風のように駆け抜けよ!!」
『 応!!』
袁紹のその言葉に御輿は動き出し――
「あ、ちょっ」
そして人と人の間に出来た空間をジグザグに間を縫うようにして駆け抜けた
「えええぇぇぇっっっ!?何その無駄な機動力!?」
「どうだ白蓮!これなら問題はあるまい!!」
さながら某アイシールドのようであるぞ!フハハハハハ、と意味不明な言葉を残して離れていった。
「……だめでしたね白蓮さん」
「クッ、諦めないぞ!次の一手だ斗詩!!」
「――はい!」
………
……
…
しばらくして二人は、御輿が通る道の先から、道の両端に届きそうなほどに大きな荷馬車を引いてやって来た。
「これなら駆け抜けられず止まらなきゃですね!」
「ああ、人がやっと通れる隙間を抜けられたりは出来ないだろうからな」
『……っしょい!お御輿わっしょい!』
「あっ、来ました!」
「良し!手はず通りに行くぞ!」
遠くから近づいてくる御輿に向かって荷馬車を動かす二人、商人の格好に顔を隠す布を深く被っていた。
「お御輿わっしょい!お御輿―――む?あの横は通れぬな……」
その袁紹の言葉に二人は内心、策の成功を喜ぼうとしたが―――
「致し方あるまい……、者共跳ぶぞ!!」
『 応 !!』
その言葉と共に御輿は速度を上げ、荷馬車の前で跳び上がり―――見事後方に着地した。
跳びながら袁紹が「デビルバッ○ダイブである、フハハハハハ!!」とまたもや意味不明な言葉を発したが、一瞬とはいえ御輿の下にいた二人にはそれを気にする余裕は無かった。
「斗詩、白蓮!商売を始めるのは良いがその荷馬車は往来の邪魔である!もう少し小さくするが良いぞフハハハハハ!」
「~~ってどの口で言ってんだーー!!」
「しかも正体ばれてましたね……あっ」
袁紹が走り去った後、周りをよく見ると荷馬車が邪魔になっていたようで騒然としていた。
「ああ、も、申し訳ない」
「うう…、すみません、すみません」
………
……
…
「今度こそうまくいく」
「もう私、自信が無いですよぉ……」
「諦めるな斗詩!私達が諦めてしまったら麗覇はもう誰にも止められないぞ!!」
「そ、そうでしたすみません白蓮さん」
「うん、で、次の策なんだがな」
「はい」
「あそこに赤子が母親に抱かれながら眠っているだろう?」
「本当ですね、かわいらしいです~……私もいつか」
「あ、ああ、こほん」
「わわっ、すみません、それでどうするのですか?」
「何、別に特別なことはしない、ただ此処を通る麗覇に赤子が眠っているのを教えてやるだけだ」
「な、なるほど!なんだかんだお優しい麗覇様はそれを聞いて―――」
「「騒ぎを止め(ますね)る」」
グッと二人で握手し合い彼を待つ―――そして
『――こしわっしょい!お御輿わっしょい!』
「――来た、行くぞ斗詩」
「はい」
やって来た御輿に近づいていった。
「おーい、麗覇ーー!」
「麗覇様ーー!!」
「おお、斗詩に白蓮、商売は終わったのか?」
「そ、それはもういいよ」
「うう、忘れてください」
先ほどの騒動を思い出し少し落ち込んだ二人であったがすぐに立ち直った。
「実はこの先で赤ちゃんが寝ているんです!」
「そうだ、すごく気持ちよさそうに眠っていたぞ!」
「なにっ!?それはいかぬな……、皆!口を閉じよ!!」
『 応 !!』
「閉じよと言うに」
「いてっ!?」
御輿の前で思わず返事をした猪々子を袁紹が扇子で小突き、彼女は「ひでぇよ麗覇様~」と少し恨めしそうに見つめ返した。
「―――む?赤子は起きているではないか」
「え?あっ!?」
よくみると先ほどまで寝ていた赤子はすでに目を覚まし、楽しそうに笑っていた。
これには斗詩と公孫賛が策の失敗を確信したが―――
「赤子を驚かせるわけにはいかぬ、今日はこれでお開きだな」
その袁紹の言葉に安堵した。
「ご苦労であったな益荒男達よ!今日は我の奢りゆえ、料亭で好きな物を食べよ!!」
『ごちになりやーーーっっス』
そして男達と猪々子をつれて帰っていった。
………
……
…
「ほんと、挙げればきりが無いほど色々あったなぁ」
懐かしみながら公孫賛はどこか寂しそうだった―――
………
……
…
―――数ヵ月後、南皮へ向かう道―――
「まったく、何でお母様は勝手に仕官の話を進めてしまうのよ!?」
高級そうな護衛つきの馬車の中で、猫耳フードを被っている少女が憤慨していた。
「しかも袁紹って男じゃない!これで妊娠したら自決して化けて出てやるんだから!!」
のちに王佐の才と呼ばれるこの天才少女の、悲鳴のような言葉を出し続けながら馬車は南皮へと向かっていった。
ページ上へ戻る