ロード・オブ・白御前
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
もう一つの運命編
第2話 置き去りのココロ
「トモ、ドライバー貸せ」
お気をつけて、と言いそうになって、呑み込んだ。どんな言葉をかけても、初瀬と光実の戦いが修羅となることは変わらない。
ただまなざしに無事の祈りを込めながら、量産型ドライバーとアーモンドのロックシードを渡した。
初瀬は量産型ドライバーを巴から受け取って、装着した。そして、アーモンドの錠前を開錠した。
「変身!」
黒いライドウェアの上から乳黄色の鎧が初瀬を装甲し、黒鹿毛へ変身させた。
『うおりゃあ!』
黒鹿毛は威勢よく薙刀を、亀のオーバーロードに向けて突き出した。対する亀のオーバーロードは、少年に巻きつけたのと同じ蛇を伸ばした。
蛇を捌くために薙刀を揮う黒鹿毛には、亀のオーバーロード本体まで近づけない。見ている巴にも歯がゆい戦いだった。
少年はなおもインカムに向けて呼びかけ続けている。
「戒斗、さ……ゲホッ、ゲホッ!」
「無理をしないでください。傷に響いてしまいます」
すると、少年の必死さに応えたかのように、通信機のスピーカーからノイズが聴こえた。
巴は通信機の本体部分を取り上げ、音量をMAXに設定した。
《……コっ、ペコ! どうした!? 何があった!》
「誰ですか」
《! そこに誰かいるのか。誰だ》
「関口巴です。あなた方が名無しのビートライダーズと呼ぶコンビの片割れです。分かりますか?」
《お前、関口か。どうしてお前がペコの通信機で話している》
この呼び方と口調。相手は駆紋戒斗だと巴は確信した。
「その方です。重傷で商店街に倒れているんです。助けに来てあげてください。分かりますか? 商店街を入ってすぐのコンビニの前です。光実さんに攫われた舞さんを守ろうとして、オーバーロードに襲われて。今は亮…初瀬さん、が、戦って足止めしています。お願い、早く来て!」
初瀬一人ではあのオーバーロードには敵わない。巴一人ではペコの怪我を治せない。交替しても変わらない。
助けを求めるしかできないことに、巴は忸怩たる思いだった。
『…ら…めて…っ』
「! 亮二さん?」
『諦めて、堪るかああああ!!』
道が、開いた。
武道を嗜んだ巴にとってはそうとしか表現できない。
亀のオーバーロードが操る蛇の鞭の動きが、ほんの三つの瞬きの間だけ、黒鹿毛を通すような形になった。
黒鹿毛が突き出した薙刀の渾身の一突きが、亀のオーバーロードを深く穿った。
『グハァァッ!?』
亀のオーバーロードはもんどり打って倒れた。
黒鹿毛はカッティングブレードを3回切った。
《 アーモンドスパーキング 》
黒鹿毛の体が薙刀ごと回転し、甲羅を背にひっくり返ったままの亀のオーバーロードをドリルのように抉った。
必勝の一撃を決めた黒鹿毛が着地すると同時、亀のオーバーロードは爆散した。
「そ、んな。オーバーロードを、ただのアーマードライダーが倒すなんて……! ありえないッ!」
初瀬が変身を解いて立ち上がった。その背中の何と頼もしいことか。
「知らねえよ。俺はなあ、トモの前でだけは、諦めるとこなんて見せられねえんだ。それだけだ」
「――ふたりでなら何でも、ね。あながち根性論じゃないってことか。なら」
光実が戦極ドライバーを装着し、ブドウの錠前を開錠しようと――
「ミッチ! もうやめて!」
「!? 舞さん!?」
舞が光実の、ロックシードを持つほうの腕にしがみついた。
光実は振り解こうとしているが、相手が舞では本気を出せないのか、舞を突き離せないでいる。
そうしていると、商店街に駆け込む足音が3人分、響いた。
巴のすぐ近くにしゃがんだのは、チームバロンの元リーダーの戒斗だ。
戒斗はペコの肩に腕を回し、ペコの上半身を起こした。
「大丈夫です。脈も呼吸もしっかりしてます」
初瀬の隣に並んだのは、葛葉紘汰と角居裕也だ。
「ミッチ! いい加減、目を覚ませ!」
見れば、舞はぐったりとして、光実に横抱きにされている。
おそらくだが巴の意識が逸れていた時に、彼は暴れる舞に焦れ、鳩尾かうなじに衝撃を与えて気絶させたのだろう。
「ミッチ、お前……っ」
裕也が怒気を滲ませて一歩前に出た。
「責めるんですか? あんたが、僕を? 先にユグドラシルに僕と碧沙を置いてったのはあんたのくせに」
裕也は目に見えて傷ついた顔で、拳を握って俯いた。
「行きましょう、舞さん。こんな奴ら、相手にする価値もない」
気絶した舞に光実は優しく語りかけ、踵を返した。
「あ。追いかけようなんて思わないでくださいね。でないと、今タワーにいる人たちがどうなっても知りませんから」
「ミッチ!!」
光実は律の外れた哄笑を上げてアーケードを去って行った。
誰も彼を追うことはできなかった。
ページ上へ戻る