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戦国異伝

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第二百七話 甲斐姫その六

「その将がいいので」
「強いというのじゃな」
「犬でも狼が率いると狼になります」 
「だからじゃな」
「はい、織田方は強いです」
「あちらには鬼左近がおる」 
 成田はまずは彼の名前を出した。
「西国で知られたいくさ人じゃ」
「そして石田殿、大谷殿も」
「俗に能吏と呼ばれておるがな」
「戦においても」
「勇がある」
 それが確かにというのだ。
「だからな」
「油断せずに」
「堤を壊し」
 そして、というのだ。
「生きて帰って来るのじゃ」
「わかっています、必ず」
「あの三人の中でもな」
 成田はこうも言った。
「特にな」
「特にですか」
「大谷殿じゃ」
 彼のことを言うのだった。
「あの御仁が一番じゃ」
「お強いというのですね」
「うむ」
 それで、というのだ。
「注意せよ」
「確かに。あの方は」
 大谷のことを思い出してだ、甲斐姫も言った。
「かなりの方ですね」
「凄まじい目の力じゃったな」
「これまで見たことがないまでに」
「あの目は本物じゃ」
「力を持っている方の目ですね」
「御主の婿にしたい位じゃ」
 成田は笑ってこうも言った。
「それ程の方じゃからな」
「だからこそ」
「そうじゃ」
「大谷殿に最も注意し」
「行くのじゃ」
「畏まりました」
 甲斐姫は父の言葉に応えた、そうしてだった。
 水から兵を率いて堤に向かった、そのことは。
 島は物見から報を受けた、そのうえで石田と大谷に言った。
「来ました」
「そうか、来たか」 
 石田は島の言葉を聞いて言った。
「やはり」
「どうされますか」
「決まっておる、堤を守る」
 石田はすぐに島に答えた。
「そしてじゃ」
「そのうえで、ですな」
「敵を退け城をな」
「水攻めにしますな」
「そして堤を守れなければ」
「その時はわしに任せよ」
 ここで大谷も出て来た。
「わしが後詰を務めてじゃ」
「そのうえでか」
「敵に後ろから追わせぬ」
「そうしてくれるか」
「そしてじゃ」
「うむ、堤を破られようとも」
「決して堤から降りるな」
 陣にもなっているそこからというのだ。
「よいな、降りればじゃ」
「逆に我等がじゃな」
「水攻めに遭う」
 忍城ではなく他ならぬ彼等がというのだ。 
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