美しき異形達
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第四十六話 横須賀その八
「それはさ」
「あまり、なのね」
「横須賀を見てもらう意味が少ないって思ってな」
「歩いてるのね」
「そうなんだよ、まあ道はよく知ってるから」
何しろこの街で育ってきたからだ、知らない筈がない。
「道案内は任せてくれよ」
「それじゃあね」
「あとな」
「あと?」
「ここ結構色々な人がいるから注意してくれよ」
「暴走族?」
裕香は薊がよく話す横須賀名物の迷惑な集団のことに言及した。
「あの人達?」
「あと右翼と市民団体な」
この二つもだ、薊は挙げた。
「ああした人達もな」
「神戸よりずっと多いのよね」
「このこと何度か話してるよな」
「ええ、聞いてるわ」
そうだとだ、裕香も答える。
「そうした街だって」
「どの連中も正直な」
薊は彼等については苦い顔で言った。
「迷惑なんだよ」
「暴走族も右翼も市民団体も」
「どの連中も自分のことだけだからな」
「他の人の迷惑考えないから」
「そうだよ、真夜中に走り回ったり駅前で騒いだりな」
「そうしたことばかりするから」
「正直迷惑なんだよ」
こう裕香に言うのだった。
「あたし達にとってはさ」
「そうなのね」
「そんなに勝手なことしたいのならな」
それこそとも言う薊だった。
「ネットでブログでも開いてさ」
「言えばいいのね」
「暴走したいのなら自転車で走ればいいだろ」
「健康的に」
「そうしたらいいのにな」
「迷惑なのね」
「そうしたことしないからさ」
横須賀によくいる連中は、というのだ。
「あたし達にとっては迷惑なんだよ」
「そうなのね」
「ああ、とにかくな」
「とにかく?」
「あたしはどの連中も嫌いだよ」
暴走族、右翼、市民団体のいずれもだというのだ。
「迷惑な連中だよ」
「アメリカ軍はいいのね」
向日葵は薊に彼等のことを聞いた。丁渡さっき入ったベースの彼等である。
「あの人達は」
「あの人達は紳士だからな」
「いいのね」
「自衛隊の人達はもっといいよ」
アメリカ軍以上にというのだ。
「まあ極論言えば自衛隊だけで日本守れればな」
「いいのね」
「昔の帝国海軍みたいにさ」
そして陸軍である、かつての日本は自分の国の軍隊だけで国を守っていたのだ。戦争前はそうしていたのだ。
「出来たらな」
「理想ね」
「ああ、それが出来たらな」
薊は向日葵に自分の国防への考えを話した。
「ベストだって思うけれど」
「けれどそうしたら」
菖蒲はその薊にこう言った。
「ベースがなくなって」
「さっきのバイキングも食えなくなるよ」
「そうなるわね」
「自衛隊にあんな発想はないよ」
安価で豪勢なバイキングを提供する様な発想はというのだ。尚こうした考えは帝国海軍の頃から存在していない。
「絶対にさ」
「これからも」
「ああ、無理無理」
薊は笑って右手を横に振って否定した。
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