ソードアート・オンライン 蒼藍の剣閃 The Original Stories
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ALO編 Running through to take her back in Alfheim
Chapter-15 紡ぐ未来のその先へ
Story15-4 限界のその先へ
シャオンside
あの世界で、勇者になったつもりだった。
俺の足ならどこにでも行けると思ってた。何でも出来ると思ってた。武器だけでなんでもできると思っていた。
でも間違いだった。HPが無くなったら死ぬ、という特殊な条件がついただけで、あの世界はただのゲーム、市場に基づいて製作者がプレイしやすいようにと考えて作られた仮想世界でしかない。
もう、俺には何も出来ない。そう思った瞬間俺は思考を放棄しようとした。
『逃げ出すのかよ、お前』
突然、そんな声が響いた。
違う……現実を認識するんだ。俺には何も出来ないんだ。
『お前は……絆を捨てるのか? 紡いだ絆を自ら捨てるのか?』
俺はプレイヤーで、アイツはゲームマスターなんだ。どう抗えばいいんだ。
『お前、本当に《俺》なのか?』
顔を上げると、目の前に蒼藍の剣閃がいた。
何だよ……それ。俺は俺だ。
『違うな。俺はもっと諦め悪かったぞ。そう簡単に諦めていいのか?』
しょうがないだろ……俺には力がないんだ。
『なら、お前を信じたフローラはどうなる? あのままでいいのか』
そんなわけないだろ…………っ!
『なら、剣をとれ。お前の足で未来をつかみとれ』
…………そうだな。俺は走るだけだ。
『力を呼び覚ませ。お前の足はすべてを追い越せる』
行ってやる……すべてを越えてどこまでも!
『行け……明日への道標を…………』
見つけるための今を切り開け!
その声は俺の意識を完全に取り戻させて覚醒させた。
「うおおっ…………」
何とか踏ん張って立ち上がる。こんな攻撃で俺が負けるわけにはいかない。フローラのために、俺のために!
「テメェの相手は……俺だ…………!! フローラに手ェ出してんじゃねぇよ!!」
気迫を込めて須郷を睨む。その様子をみた須郷は一瞬ぽかんとした顔で俺を見たが、すぐ眉を寄せてフローラから離れて大げさに体をすくめる。
「やれやれ……オブジェクトの座標を固定したはずなのに、妙なバグが残っているなぁ。運営チームの無能どもときたら…………」
須郷が呟きながら振り上げた腕を掴み、唱えた。
「システムログイン。ID《ヒースクリフ》パスワード…………」
頭の中に響く言葉を繰り返す。
背中に装備したエターナリィアクセルが空中に浮き、文字列が浮かびあがる。
「ログイン。ID《shaon》パスワード……」
そのIDが終わると共に、俺の体が光に包まれた。
次の瞬間には、俺の姿は蒼藍の剣閃へと変貌していた。
空中に浮かんだエターナリィアクセルを掴む。
次いで、飛び去った須郷よりも早く音声コマンドを放った。
「システムコマンド、スーパーバイザ権限変更。ID《イクシオン》をレベル1に」
須郷のウィンドウは一瞬出たが、一瞬で消滅する。
「俺より……高位のIDだと…………? 有り得ねぇ……有り得ねぇぞ……俺は支配者……創造者だぞ…………この世界の神…………」
「テメェが神か。笑わせるな、テメェに導かれる世界なんて住みたくないね。俺がぶっ壊す」
「ぶっ壊す……だと!? ふざけるな……俺の世界を!!」
「どっちがふざけてるんだ! 何もかも思い通りになる世界? そんなもん面白くねぇな!」
「テメェに何が分かる!? 思い通りにならない世界の方が面白くないだろ!?」
「思い通りになる? そんなもん明日のことも明後日のことも見えてるのと同じだ!
明日が見える世界? 明日が見えないから……未来が分からないから……俺たちは今を生きてるんだろ!」
「ふざけるな……ふざけるなよ! 茅場と競わされるのがどれだけ辛いか……それがどういうことか分かるのか!?」
「………過去しか見えてないやつに、望む明日なんて一生来ないし、自分で絶望してるやつに希望なんて見えない。
後ろ向いて戻っても、そこに立ち止まっても!! 明日なんて来ないから!
俺は前向いて走り続ける! いつまでも!
思い描いた明日を作るために…………俺自身が希望となり続ける! 俺自身と、俺を必要としてくれる人たちのためにな!」
「知ったようなことを!! システムコマンド!!オブジェクトID《神剣シルファリオン》をジェネレート!!」
もう、須郷の命令は聞かない。
「システムコマンド。オブジェクトID《神剣シルファリオン》をジェネレート」
俺の目の前に出てきた剣を須郷に放り投げる。
「さぁ……決着をつけようか。ソードユニゾン、そしてSEED Mode-Destiny。
さらにペイン・アブソーバをレベル0に」
「何だと……!?」
剣を携えたこの世界の神様が痛みを無制限に引き上げるコマンドを聞いて、同様を顔に浮かべて一歩、二歩と後ずさる。そのたびに俺も一歩、二歩と近づく。
「さぁ……ひとっ走り…………付き合えよ!! 須郷……明宏!!」
「こ……このくそ野郎がぁぁぁぁ!!」
突進してくる須郷に向けて、剣を構える。
あの世界で放った……連二刀流、SEED、神速剣スキル融合96連撃技。
「奏でるは聖なる剣音……響くは希望の旋律……光を越えて輝け四剣!!
ライトスピード・ホーリーカルテット!!」
突進してきた須郷を跡形もなく消し飛ばす。残ったエンドフレイムはすべて振り払った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
軽く剣を薙いだだけで鎖はちぎれ、俺は崩れ落ちる血まみれのフローラを抱き止めた。
俺の体もエネルギーが尽きたかのように床に膝をついた。腕の中のフローラを見つめる。
「…………ごめん…………」
やるせない感情の奔流が涙に姿を変えて俺の両目から溢れだした。
「ごめん……遅くなった…………!」
「ずっと、信じてる……これまでも、これからも、君は私のヒーロー…………いつでも助けに来てくれるって。
君の足ならどこまでも来て、全部飛び越えて来る……って」
違うんだ……本当は何の力もないんだ…………
でも、俺はそんなことを言えない。フローラを不安にさせなくなかった。
「そうだな……俺はいつでもどこでも君のところへ行くよ」
左手を振ると、複雑なシステムウィンドウが出てきた。直感だけで階層を潜り、転送関連のメニューを表示させると指を止めた。
「現実世界は夜だろうな……でも、すぐに会いに行くよ」
「うん。待ってる。君に会えるのを楽しみにしてるね」
フローラは一度宙に視線を向けたあと、再び俺に向き直る。
「……とうとう終わるんだね……私、帰るんだね……あの世界に」
「そうだよ。この2年で本当に色々変わってたからな」
「ふふ……いっぱい思い出作ろうね」
「ああ。作ろうぜ」
俺は大きく頷くと、フローラを抱きしめたまま右手を動かした。ログアウトボタンに触れ、ターゲット待機状態で青く発光する指先でフローラの頬を撫でた。
その途端、フローラの体を、鮮やかなブルーの光が包み込んだ。少しずつ、確かに水晶のように透き通っていくフローラの体を、ずっと抱き締めていた。
フローラが完全に消え去ったあと、俺は体をどうにか持ち上げて呟いた。
「そこにいるんだろう、ヒースクリフ」
『久しいな、シャオン君。もっとも私にとっては、あの日のこともつい昨日のようだが』
「生きていたのか?」
「私は、茅場晶彦という意識のエコー……残像だ」
「なるほど……電脳みたいな感じか。助けてくれてありがとう」
『形としてはそうなるのかな……? 君が作り上げたプログラムがうまく起動したみたいだな』
「ああ、うまくいったよ。この世界はSAOを元に作ってるからな」
『……一応言っておこう。礼は不要だ。私と君たちには無償の善意が通用するような仲ではないだろう。常に代償は必要だよ』
「何をしろと言うんだ」
『…………とりあえず、私はキリト君を助けに行く。君はキリト君に託すものを一緒に見てほしい』
「なるほど……俺は頑張ってアンタの世界を復活させるから、その時は来てくれよ」
『…………そうか。では、私は行こう。いつか、また会える日を楽しみにしているよ、シャオン君』
「ああ」
気配が消え去り、俺は思い出したように顔を上げた。
「レイ、いるか? 大丈夫か!?」
その瞬間、目の前に光が凝縮し、レイが現れた。
「パパ!!」
レイが俺の胸に飛び込んできた。
「無事だったか……よかった…………」
「突然アドレスをロックされそうになったので、ナーヴギアのローカルメモリに逃げ込んだんです。もう一度接続してみたら、パパもママもいなくなってるので…………心配しました」
「ママは戻ったよ……現実世界に」
「そうですか……よかった……本当に…………!」
レイは目を閉じて俺の胸に頬を擦り付けた。
「フローラに会ったら、またすぐに会いに来るよ。でも……どうなるんだろうな、この世界は…………」
「わたしのコアプログラムはパパのナーヴギアにあります。いつでも一緒です」
「じゃあ……俺はいくよ。ママを迎えに」
「はい。パパ……大好きです」
うっすらと涙をにじませて抱きつくレイの頭を撫でながら、俺の意識は現実世界へと浮上していった。
Story15-4 END
後書き
シャオン「ついに助け出したぜ……フローラを」
キリト「やったな、シャオン。さぁて、俺も頑張るか」
シャオン「頑張れよ」
シャオンがついに助け出しました。ALO編も終盤の終盤。終わりに近づきつつあります。
さぁ、ひとっ走りお付き合いくださいませ。
キリト「次回も、俺たちの冒険に!」
シャオン「ひとっ走り……付き合えよな♪」
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