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幸せは消えて

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5部分:第五章


第五章

「酷いな、あれは」
「奴隷をああいうふうに扱うなんて」
「私はじめて見ましたよ」
「ここでは奴隷は財産でも何でもないらしいね」
 若者はこのことも感じ取ったのだった。他の国では奴隷はその所有者の財産である。それもかなり高価なものである。だから普通はそれなりに大切に扱うものであり虐待等はまずないのだ。それに金を溜めてそれを支払って自由になることも許されている。
「本当にものとして扱われているね」
「そうみたいですね」
「あれは周辺の国々の人達ですかね」
「捕虜にしたり占領地にした場所の人達を奴隷にする」
 若者はその事情をすぐに理解した。
「そういうことなんだろうね」
「よくある話ですけれどね」
「扱いが違いますか」
「この国は元は狭かったんだろう?」
 若者が烏達に次に聞いたのはこのことだった。
「確か」
「ええ。その詐欺同然に手に入れた土地が最初だったんですけれどね」
「それが非常に狭い場所でして」
 烏達はまたこのことを主に話すのだった。
「そこから戦争に次々に勝ってそれで領土を拡げていったんですよ」
「それでもまだ広いとは言えないですけれどね」
「やっぱりね。そういうことか」
 若者は彼等の話を聞いて無表情で頷いた。
「そうだと思ったよ」
「それで手に入れた奴隷をああしてこき使ってるんですね」
「随分と手荒く」
「アルト族は過去奴隷同然に扱われて長い間散々な目に遭ったらしいけれど」
 若者はこのことも思い出して言うのだった。
「今度は自分達がそうしているのかな」
「そうなりますね。あれを見たら」
「同じに思えますよ」
「自分がやられてきたことを他人にもする」
 若者は顔をふと上にあげていた。
「それはいいことなのかな」
「さて。それはどうでしょうね」
「あの人達が決めることですけれど」
 烏達は今はこう言うだけだった。
「それでも。見ていてあまり気分のいいものじゃないですね」
「本当にね」
「そうだね。まあいいや」
 若者もこれで話を止めることにした。そのうえで周りを見回しだした。
「今日の宿は何処がいいかな」
「ええと。宿屋は」
「何処でしょうかね」
 使い魔達もその宿屋を探しはじめた。だがここで。急に異様な、それでいて変にかん高い音が国中に鳴り響いたのであった。
「!?これは」
「一体!?」
「何なんでしょうか」
 若者も烏達も怪訝な顔になったその時だった。黄色い星の者達が一斉にざわめき立った。
「敵だ!」
「敵が来たぞ!」
「戦え!」
 それまで商売をしていた者も街を歩いていた者も一斉に表情を変えた。そうしてすぐに城壁に殺到していくのだった。
「敵を許すな!」
「国を護れ!」
 こう叫び合いそのうえで身構えている。若者達はそれを見ているだけだった。
「どうやら敵が来たみたいですね」
「その周りの国々から」
「そうみたいだね」
 若者は今回も烏達の言葉に頷いた。その物々しい雰囲気からそのことを悟ったのである。
「攻めてきたみたいだね」
「それにしても皆すぐに城壁に向かいましたね」
「まるで慣れているみたいに」
「慣れているんだろうね」
 若者は空虚な色の言葉になっていると自分でわかっていたがそれでも言った。
「やっぱり」
「それだけいつも戦争をしているってことですか」
「周りの国と仲が悪いんですか」
「こんなことを続けていたら仲が悪くなるのも当然だよ」
 そう言ってまた奴隷達を見るのだった。相変わらず休むことなく働かさせられ続け鞭で打たれ蹴られ怒鳴られている。ここまで酷い虐待は彼も見たことがなかった。
「恨みも買うだろうし」
「そうですか。まあそうですよね」
「相手も人間ですから」
「自分達だけが人間じゃないんだよ」
 若者は今度はこんなことを言った。
「それがわからないとね。やっぱりね」
「ええ。そう思います」
「本当に」
 使い魔達も彼の言葉に頷く。そうしてそのうえで虐待される奴隷達を見ていた。彼等はやせ細り今にも倒れそうだがそれでも働かされ続けていた。
 
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