少年少女の戦極時代・アフター
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After5 見過ごしちゃいけない
真正面にずぶずぶとサメインベスが顔を出し、全身を露わにした。
腹から下が土中にあるため、咲は逃げることができない。
『怖い? ねえ怖い?』
「こわくなんかない」
『その強がりがいつまで保つかな? 撮影……スタートっ』
サメインベスは三脚にスマートホンを置いてから、月花の前へ来た。
『じゃあ右と左、どっちから行こうか。目…は、後にとっとくとしてぇ。歯を引っこ抜くのは前にやったし、鼻に針も……あ、そだ! 耳たぶとかいいかも。ちょいとしつれ~』
サメインベスは咲の左耳に右のヒレの手を伸ばし、耳たぶを引っ張り始めた。引き千切る気なのだ。
咲はサメインベスの手に掴みかかって腕を外させようとしたが、サメ肌のせいで、握れば握るほど咲の手のほうが血を流した。
『君はしないの? やめて! とか、許して! とか、いやあ! とか』
「悪いけど修羅場には慣れてるの。このくらい、っ…何てこと…ない…!」
今までにもっと恐ろしい目、死にそうな目には遭ってきた。それでも乗り越えた。――そういう時は決まって紘汰が、戒斗が、仲間がそばにいてくれたから。
『泣いてくれないよ面白くないよ~。ほら』
「い゛、だ…っ」
サメインベスが咲の耳たぶを引っ張る力を強める。
『その子から離れろ!』
黒影が駆けてきて影松をサメインベスに突き出した。だが、サメインベスはもう片方の胸ビレであっさりと影松を止めた。
『僕が痛めつけたコドモにね。まあその子にもアレコレしたんだけどね。キミとは反対に何度も何度も僕に命乞いをした子がいたんだ。そんな涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で命乞いをされてね、僕は……もっともぉっと乱暴したんだッ!!』
月花は怖気と共に直観した。――この男は、危険だ。
月花は腰に下げたもう一つのロックシードを取り、開錠した。ドラゴンフルーツの錠前を外し、戦極ドライバーを引っ張り上げ、バックルにそのロックシードをセットした。
《 ヒマワリアームズ Take off 》
ヒマワリ色の機動翼を装備した鎧が月花の上に落ち、月花を覆った。
『だぁ……りゃあああああ!!』
ヒマワリフェザーを全開にし、羽ばたきを最大にする。
公園に落ちた枯葉が飛び散り、遊具がギコギコ、ガタガタと揺れるほどの出力で、全力で羽ばたく。
月花の体は徐々に土から抜けて行き、ついに下半身全体を外へ出して浮かび上がることに成功した。
『これでもうあんたなんかに捕まらないんだから。捕まえたきゃ、あんたが戦ってあたしを地面に落としてみなさいよ』
『へ~。斬新~。よっしゃ。絶対落として、今度は首まで埋めてイロイロなことしちゃお』
くあっ
サメインベスが口から放った水球を、空飛ぶ月花は危うげなく避けた。
黒影にせよ龍玄にせよ、言われずとも月花の意図は分かった。
彼女は、彼らが必殺の一撃を叩き込むための隙を、サメインベスに作り出そうとしているのだ。
空飛ぶ月花との攻防で、サメインベスの白い腹がこちらに向いた。
『ここだ! 決めるぜ、ミッチ』
『了解。城乃内さん』
黒影が影松を、龍玄がブドウ龍砲を構え、それぞれカッティングブレードを1回切った。
《 マツボックリスカッシュ 》
《 ブドウスカッシュ 》
月花は気づいたようで、高く空に舞い上がった。これで余波で傷つける心配はない。
『『はあぁ!!』』
振り下ろされた影松からのショックウェーブが、トリガーを引かれたブドウ龍砲から放たれた紫のエネルギー弾が、サメインベスに直撃した。
『あ、ああああああ、何だこれ。熱いよ。血が煮えるよ。なんかバチバチいってるし。ねえ僕これからどうな――』
最後まで言い切れることはなかった。
サメインベスはその前に爆散した。
城乃内はロックシードを閉じて変身を解き、サメインベスの焼け跡を見下ろした。
(今まで散々殺してきたくせに、自分が死ぬのはどういうことか分かってなかった。身勝手な奴)
ふり返れば、咲も光実も変身を解いていた。咲が光実に助けてくれた礼を言っている。
「タイミングばっちしだったね。どうして?」
「こっちのほうの表通りの店にちょっと用があって。そしたらドンパチやってるのが聞こえたから、つい。でも来てよかった。二人とも無事で。二人は?」
「あたしんち、こっちの方向だから」
「俺も。で、途中でばったり会ったから、俺が送ってくってことになってさ」
「なるほど。何にせよ全員タイミングがよかったってことですね」
「よかったって言っていいかは……ちょっとな」
悲鳴を上げた時点でまだあの女子は生きていただろう。だが、城乃内たちが駆けつけた時には、女子は事切れていた。
もっと速く公園に着いていれば、命は拾えたかもしれないと思うと、やりきれなかった。
「あの、元気、出して。城乃内くんのせいじゃないよ」
「らしくないのは分かってる。葛葉みたいにインベスが出たら真っ先に自分が駆けつけて人助け、なんて。でも」
城乃内は苦笑し、マツボックリロックシードが嵌ったままの量産型ドライバーを、見下ろした。
「これ着けてるからには、見過ごしちゃだめだと思ったんだ」
「城乃内くん……」
「さて! さすがに警察来たらこの状況、説明できないからな。110番したら一旦ここから離れようぜ」
…………
……
…
――その男は、アーマードライダーたちとサメインベスの戦いを、公園の外から観察していた。
(あれがアーマードライダー)
ふいに男は顔を上げ、余人には聞こえない音を聞くように目を閉じた。
「任務ですか。了解、ロード」
男は黒いロングコートを翻して物陰から去った。
後書き
一難去ってまた一難の予感。
次はちょっとしたインターバルです。
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