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秋葉原総合警備

作者:イトヒー
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都外のアニメフェス No.9

「ほら、危ないことはやめよう。千夏ちゃん。」
 やっと千夏の足が動いたが、踵はソファに当たり、早くも動きが止まってしまった。恐怖しかなくなり、逃げることは頭に無くなっている。この追い詰める状況を楽しんでいるのか、男はゆっくり近づき、さらには不気味な笑みを浮かべている。
「さっさと…出てけよ!!」
 美咲がまた立ち上がり、千夏がやっとぶつけたパイプ椅子を拾っては、隙を突いて振り下ろした。か弱い千夏とは威力が違う。頑丈な男でも、向こうのロッカーまで突っ込んでいった。
「美咲さん!…あ、血が…。」
「大丈夫…。あたし、怪我する任務多いから。千夏さんは先に逃げて。もうすぐ陽一が来るはずだから。」
 恐怖に怯えようとも、命の恩人を見捨てることはできなかった。事務所から出ようとしない。しかし、美咲は振り絞った勇気を受け取る訳にはいかなかった。少々怒鳴りながら、ここを出るように言い渡す。
「仕事だから、気にしないで。」
 当然、それは理不尽だと思う。あまりに危険だと思う。しかし、美咲のその言葉は千夏の表情を変えた。小さく頷き、小走りで事務所のドアを開けて去って行った。美咲も表情は変わる。激しく、静かながらも荒れていた頃の顔になる。男も起き上っていた。
「喧嘩好きなのかな…?悪い子だな。」


「おい、もっと急げねぇのか!」
「ここら全員、フェスティバルの客です…。こんな所で渋滞になるとは…。」
 やっと東京に入ったというのに、思わぬ渋滞。高速道路で捕まれば絶望的だった。タクシーですら捕まっている大通りで陽一はドアを道路に飛び出た。
「親父さん、先に俺が行きます!警察集めといてくれませんか。」
「気ぃ付けていけよ!」
 先ほどから、美咲への電話が繋がらない。千夏も電話に出ない。明らかに何かがあっただろうと慌てた表情が見てわかる。大通りは通らず、頭の地図を頼りに裏路地をすり抜けていった。緊張感が故のざわつきから、一気に喋れないほどの静まりに。
「陽一…、頼むぞ。こう見えて俺は年だ…。美咲は一人娘なんだ…。」


 女も捨てる勢いで始末してやろうと、死に物狂いで男に当たりに行くが、次第に危機に陥っている。
「ほらほらどうした?…そろそろ諦めたらどうなんだい!?」
 男も容赦がない。殴りつけるどころか女子相手に周りの道具にぶつけていく。
「…!!…ああぁ!」
 段々と闘志が折れていき、振り回される一方に。髪を掴まれ無理矢理立たされた。
「はぁ…、はぁ…。げほっ!」
「あんまり、こういうことはしたくなかったよ…。」
 手放し、美咲を仰向けに転がした。美咲の目が虚ろになっている。高い位置から見下ろし、美咲の姿を眺めている。今までで一番の最高の笑みのようだ。存分に楽しんだところで、男は最悪の行動に。
「はぁ、はぁ……っ!!!」
 ついに美咲にも恐怖が昇ってくる。手加減なく、横たわる美咲の腹を加減も無く踏みつけた。高く苦しい叫び声が響く。

『やばい…、負けそう…、てか、死にそう…、吐き気する…、まだ二十歳いってないのに…、いたっ…まだ踏んでくる…、やだよ…、死にたくないよ…、陽一のおかげで…、陽一…?陽一…。』

「ふぅ…、このぐらいにしとこ。千夏はどこだ?…答えられないか。」
 ようやく美咲から離れ、標的を千夏に向けようとした時だった。開いていたドアのラインより外に、息を切らしながらも堂々と立ちふさがる男が一人。
「お前は…確か…!!!」
 パイプ椅子をぶつけたように、再び吹き飛んだ。ケースのガラスが割れ、書類が散らばる。
「美咲、大丈夫か。…てめぇ、殺してやるよ。」


 驚異的な速さで、事務所に辿り着いた陽一。裏路地をすり抜けるだけでは間に合わない。強引な方法、あるいは軽犯罪でショートカットを実現させた。
「おい!秋葉原駅だ、さっさと行け!!」
「よ、陽一さん?!ちょっと…困ります!パトロール中ですよ!?」
「あぁ…?」
「はい。」
 サイレンを無理矢理鳴らし、東京を一気に駆けていき、事務所へ到着した。

「くそっ…お前があの警備員か…、っ!?」
 ゆっくりと起き上りながら、ようやく陽一を確認した途端、陽一の蹴りが飛び、またロッカーにめり込んだ。


 未だに渋滞に捕まっているヤクザの車。こちらも行動しようと準備をしていた。子分の数人が一人見逃さずに通りの歩行者を確認する。
「おい小僧…秀人だったか、近藤千夏ってどいつだ。」
「分からないですよ…、どうするつもりなんですか。」
「俺たちが確保してやるよ。」
「絶対やめた方が…。」 
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