ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
ファンディスク:神話と勇者と断章と
白い王城のある日の一幕
前書き
突発的《白亜宮》短編。SAO要素は『0』です。
レギオン。
ラテン語で『軍勢』『軍団』『集団』と言った意味を表す言葉。
転じて、聖堂協会の宗教、その聖典に姿を表す、『群れの悪魔』を表すこともある。
なのだが、今この場においては少々ことなる意味を持つ。
世界の真理──否、『神理』に辿り着いたモノ……いわば《神》が保有するセカイと、そこに住まう無数の魂たち。その通称である。
その規模において、レギオン《白亜宮》は、その強度と合わせて全レギオン内でもトップクラスを誇る。
まず、直接のメンバーのなかに《神》が多すぎるのだ。主神と、その恩恵をうけて誕生した疑似神格を除いても、現状発覚しているなかで二十柱。
この時点で既に規模は異常といえる。普通のレギオンには、神格は多くて六柱前後だ。それの三倍以上を有して、さらになおまだ包括している可能性を含んでいるという。
次に、その神々が保有するレギオン内に、また神格が大量に所属している。レギオンの規模はその下部レギオンの規模も含めて考えるため、レギオンを持つメンバーが多ければ多いほど、巨大になっていく。
さらには彼らの一柱一柱がもつ能力が非常に高い。特に主神である純白の少年神、通称を《主》は、異常ともとれる神威を保有している。
では、その力をもってして、《主》は……《白亜宮》はなにをするつもりなのか。宇宙を滅ぼすのか。神を殺すのか。
その答えは実に簡単である──
「うーん、やっぱりリンゴジュースだね」
「なにを言うんだい、紅茶だろう」
「ふん。やはりそこはこの九千年もののワインだろう」
「バビロン産かい? 君の世界のことじゃなくてガチの」
「飲め、れば、な、んでもいい。一つ、の、ものごと、に、固執する、な」
『『お前が言うなよ』』
──お茶会紛いである。
プラスチックにも大理石にも見える奇妙な素材でできた真っ白な部屋。まるで地球で言うところの、中世欧州の王城、その一室の様なその場所で、複数人の…正確には複数『柱』の…存在達が、背の高い丸いテーブルを囲んで座っていた。
あるものは優雅に。あるものは余裕ぶって。あるものは痙攣しつつ。
一柱目。魔導師のローブめいた白装束に、先に行くほど紅蓮くなる奇妙な色のマフラーを巻いた癖毛の少年。この場の主、レギオン《白亜宮》主柱、《主》。その祈りだけで全てを支配し、神へとのしあがった異常者。
二柱目。白い癖毛気味の長めの髪に、引きちぎったようなコートを纏い、腕と首を包帯でぐるぐる巻きにした、犬歯の青年。特殊種族《マレイド》当主にして最後の一人。偽りを本物に、本物を偽りに変える、虚実の裁者、アルヴァート・ルーク・マレイド──アルマ。
三柱目。宇宙の重圧を纏う、ライトアーマーの鎧。傲岸不遜な態度で、ゴブレット片手に足を組む男。その存在自体が一つの『場』に相当する、英雄伝の化身。《略奪王》ユキ。
四柱目。どこか機械めいた冷たさと、理知的な魂を内包させた人間。骨と皮ばりの体を、白いローブで包んでいる。良く良く見れば、その雰囲気や体つき…三つとなりの世界からけし粒が吹き飛ぶのを察するくらいにわかりづらいが…から、女性であることがわかる。《感情王》ユキ。
五柱目。哀しそうに歪んだ顔。奇怪な白いフーデッドコートを纏った少年。鋼色の装甲が彼の体を隠している。既に声すら失ったのか。放つ言葉は掠れている。空間を反転させてその場にいる、《悲哀の英雄》ユキこと"i"。
まぁつまりは、並みの神格ではどいつもこいつも相手にならないどころかそもそも相対すら出来ない化け物ども。そんな存在達が、なぜかこの場所に集って一様に好みの飲み物を飲んでいる。
この状況を超ざっくり説明すれば、『カヲス』の一言につきる。何がしたいのか。何を考えているのか。さっぱり理解できない奇怪な集い。まさか単純に茶を飲みに来たわけではあるまい。
「まぁ、議論はその辺にしとこう。僕らが持論を持ち出すと文字通り世界が揺れる」
くふふ、と笑いながら《主》が口を開く。それに対して、略奪王が眉尻をあげて言い放つこと曰く、
「勝ち逃げのつもりだな? 我のワインに恐れをなしたか」
しかし少年神は余裕を崩さず…何に対する余裕なのかはさっぱりわからないが…答えた。
「くふっ、僕はお酒飲めないからね。悪いけどワインの味は解らないよ」
「ふん。つまらん奴だ」
興味が失せた、とばかりにそっぽを向く略奪王。この動作一つ一つで多元宇宙の運命が決まると言うのだから笑えない冗談だ。
「まぁ、仕方ない。議論をやめよう……まぁ、どうせ世界の決定なんて僕には関係ないがね」
不適に笑うアルマ。事実彼の力は世界すら欺く。
そんな奇想天外な空間に、更なる奇想天外が飛び込んでくる。
「はぁーい! お料理完成しましたよぉーっ!」
「出たな既知外」
「その漢字あながち間違いじゃないのが怖いね」
登場と同時に略奪・感情の両王から罵倒を受けたのは隻眼、スーツにマフラーと、なんとも釣り合いのとれない格好の少女だ。放つ重圧は三柱の『ユキ』達を凌駕する。
この少女の名をhackという。《悲哀の英雄》を束縛する存在にして、彼による世界の破滅を防ぐ聖女でもある。もっとも、世界破滅を促進させる悪魔でもあるのだが。
「もうっ! ユキさん以外から罵られても嬉しくなんかないんですからぁ」
「そう、言、う、割に、股を濡らしてる、のは、どう言うこと、だ」
「はぁぁぁんっ! ユキさんん゛ん゛ん゛ッ! もっと罵ってぇぇ゛ぇ゛っ!」
「「「黙れ変態」」」
気味悪く身をくねらせるhackを、三柱のユキ達が罵る。それが余計に逆に彼女を発狂させる。
「ユキ君、hackさん、放送規制だよ」
「この世界一応全年齢対象なんでしょ」
《主》とアルマが苦笑しつつメタ発言をする。
さて、hackが料理をユキ達の前に置くのと同時に、何処からともなく一人の少女が入ってくる。
前髪の一房だけが異なる色の、金色にも見える美しい銀髪。全体的な服装は『改造メイド服』と言えなくもない。
彼女は《白亜宮》の管理をするホムンクルス・オートマトンのうち、最高峰の存在──"セラフドールズ"の一人。名前を"ミカエル"という。
《主》の最高側近の一人にして、有事に《白亜宮》のホムンクルス・オートマトンの指揮を執る敏腕指揮官でもある。
器用に複数枚の盆を手にのせて、さらにその上に料理を乗せている。シンプルな家庭料理だ。
「お兄様。サー・アルマ。お料理をお持ちしました」
「うん、ありがとう」
並べられた料理を前に、《主》が破顔する。
hackの料理は『美味すぎる』故、『未完成な美味さ』が好きな《主》の口に合わないのだ。我儘なこの少年神は、それ故に料理修行中の身であるミカエルに作らせたのである。ついでにアルマもそっちにした。理由は不明だ。
「お疲れ、ミカ。もう戻っていいよ」
「はい、お兄様。ありがとうございます」
花の咲くような笑顔を浮かべて、ミカエルは別の部屋へと転移した。
「「「ぐふっ」」」
hackの料理を喰って撃沈する三ユキ。死なないはずなのに昇天を始めている。
「いやぁ、そっち食わなくてよかった。いくら上手くても死んじゃえば意味ないしね」
笑顔で酷いことをいうアルマ。
「あぁ、やっぱりミカは優秀だなぁ、僕が食べられるメニューと量に抑えてくれてるよ」
《主》はすでに自分の世界に埋没して使い物にならない。
なんだこの空間。もしどこぞの神話剣がいたらそんなことを口走ったに違いない。事実、先述の通りにこの場所の法は『カヲス』である。
そんな事をしているうちに食事が終わった。描写は地味すぎたので割愛とする。
「そう言えば、君が真面目に戦っている所を見たことがないね」
食後。アルマがふと、《主》に向かって疑問を呈した。
「そうだねぇ……まぁ、本気を出して戦うことなんてないからね。《白亜宮》の《宮殿》には部外者はそもそも侵入できないし、外身にたどりついても『負けない』レギオンメンバーが追い返す。
故に、いつかのセモン君達みたいに、わざわざ招かない限り僕と相対することは無いわけだ」
「ふぅん……なら────」
その時。アルマを中心に、無数の刀剣類が出現した。
「──ここで見せてくれよ」
一瞬で距離をつめる刃達。それらは《主》の白いローブの表面に突き立──
「あぶないなぁ、もう」
──つ直前で、紅蓮く輝く半透明の障壁に阻まれた。
「なんのつもりだい?」
「君の実力を図ろうかと思ってね」
「ふぅん」
ゆらり、と立ち上がる《主》とアルマ。《主》の瞳が紅蓮色に輝き始める。
「いいよ。食後の運動は嫌いだけど──暇潰しにはなりそうだッ!!!」
バァンッ!!
空気の破裂する音。半透明の刃がアルマに襲いかかる。もし適当に放ったのであれば、宇宙のひとつでも破壊してしまうだろう。しかし、常軌を逸した速度で迫るそれを、アルマは危なげなく受ける。
神の一撃は、しかしアルマにダメージを与えられない。直撃の瞬間、アルマの力によってその存在が『嘘』に変えられたのだ。
「ちぇー、防ぐか……じゃ、始めようか」
「おいおい、今のは何だったんだい?」
「んー、予備動作?」
「くくっ、宇宙を打ち消す一撃が予備動作? 笑わせる……それなら僕にでもできる」
まぁね、と答えて、《主》はその右掌をアルマに向ける。
そして唱えられる、絶勝の詠唱、その一つ。
「──《惟神》──
《憤怒》 」
神を貫き、世界を終わらせる罪なる一撃。七色に光輝く神気の槍が、アルマを破壊しようと激震する。荘厳でありながら、世界の悲鳴を思わせる轟音。
アルマの『嘘化』の力が、神の槍を弾ききれない。
故に。
「シィぃぃッ!」
アルマは破壊する。純粋に、頂上の存在としてのステータスで。
「ふん、コピーとはいえ《惟神》の一撃をステゴロしちゃうか」
「今度はこっちの番だよ」
アルマの周囲の空間が歪む。無数の偽影の刀剣が、神殺しを誓って飛来した。
「──《惟神》──
《怠惰》 」
しかし減速。神の意思に抱かれた剣達は、自らの役割を忘れて停滞する。《怠惰》の神哭は世界を包み、世界の時間をただひとつと限定し──
「面白そうですねぇっ! 私も混ぜてくださいぃ!」
乱入者に打ち破られた。hackの放つ『確定死』の一撃が、神意を破壊したのである。もっとも、それを消滅に追い込むのは《白亜宮》全体の特性上不可能であるのだが。
「へぇ、来るかい──ならそれ相応の舞台が必要だな」
二対一。しかし白き王座の主は笑うだけ。
その口から漏れでるのは、これまで誰も聞いたことのない言葉。もはや言葉として成り立っているのかすら危うい、奇怪な言語。
「空落チ世界ヲ蝕ミ消エル 邪悪ハコノ場デ勝利ニ咽ブ
41,122,888,888,222───111,114,499,999」
そして。
──堕ちて逝く。
《白亜宮》の地が崩れ、《主》、アルマ、hackの三柱は高速で落下していく。
その先にあるのは常軌の世界ではなく、世界の神理に近き場所。
ある者はそこを、『座』と呼んだ。
「……色が……変わっている?」
アルマが目を細める。その視線の先にあるのは、白き少年神。否、その表現はいささか的を外れているかもしれない。
何故ならば、すでにそのローブは、白ではなく黒に染まっていたからである。
厳密には灰色に近い黒だ。袖などには紅蓮色の装飾が施されている。
彼の両目は今や七色に染まり、プリズムのように色を変えていた。
「かんけーないですよぅっ!」
hackの握った刀が、与えられた重圧に軋む。もっとも、砕けることはない。それは単に、次の一撃の圧倒的な威力を示しているに過ぎないから。
「《必殺招来》!!」
万物の綻びを見つけ、そこを中心に破壊する。それがその一撃。綻びの無い存在など存在しない。hackの与える攻撃は、iのような《不存在存在》にも届く。つまりこの一撃は、あまねく全てを殺せると言うこと──
「……!?」
「あっるぇ――――!?」
しかしそれは、何故か少年神に通用しない。彼の体に確かに命中したのに、彼を殺せないのだ。
「くふふっ」
《主》は笑う。
「ここに──セカイノソコにたどり着いたならば、ソコにある法則はひとつだけだよ。それ以外の法は無いわけだ」
つまり──
「僕を殺したかったら、ここに来る前に殺すことだね。僕の望みを『上書きする』ことは不可能だ。君たちには解るまい──たとえ何れだけの嘘と苦しみに包まれても。何れだけの世界の滅びを見てきたのだとしても。何れだけの解答を持っていようと。何れだけの死を背負っていたとしても。何れだけの死を、与えるのだとしても────」
この想いは、僕だけのモノ。
「ようこそ、座へ。愛を塗りつぶしてみせろ」
後書き
この辺で力尽きた。スマホで5000文字打つの辛すぎワロタ。続きは各自で妄想してください。なお、時系列的には絶炎さんの『ワールド・エゴ』の前です。
ページ上へ戻る