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物の怪

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2部分:第二章


第二章

「蓑火になったのじゃよ」
「本当にどうなってるってんだ」
「だから見たまでじゃ」
 それだけだというのである。
「わかったのう。これで」
「信じられるか、そんなこと」
 文衛門はここでもむきになっていた。
「何でものが物の怪になるんだよ」
「物の怪になってもわしは蓑じゃよ」
「火まで出してかよ。それでどうして燃えないってんだ」
「そういう火じゃから問題ない」
 こう言うだけであった。
「気にすることはない」
「無茶言うものだな」
「無茶でも事実じゃ」
「事実なのかよ」
「左様、事実じゃ」
 こう言う蓑だった。
「じゃからわかることじゃ」
「認めなくてもなんだな」
「うむ、こうしてわし等は実際にじゃ」
「動いてるじゃない」
 蓑だけでなくから傘も言ってきた。
「わしも蓑火になったしのう」
「僕はから傘にね」
「まさか妖怪が本当にいるなんてな」
 文衛門はいぶかしむ声で言った。
「全くな。世の中わからんものだ」
「ああ、わし等だけではないぞ」
「そうだよ」
 ここで蓑火とから傘がまた言ってきた。
「まだ他にもおるぞ」
「この家のものってどれも古いからね」
「何っ!?」
 今はじめて聞いた話だった。
「それは本当か?」
「そうじゃよ。ほれ」
「そろそろかな」
 彼等がこう言うとだった。すぐだった。
「あ、あんた!」
「おい、どうしたんだ!」
「出た、出たんだよ!」
 お桂がこんなことを言ってきたのである。家の奥からだ。
「お化け、お化けが!」
「何っ、まさか!」
「そう、そのまさかじゃな」
「いや、話が早いね」
 物の怪達だけが能天気であった。
「古いものを使っているとじゃ」
「心とか持つからね」
「それでも。こんなことになるとは」
 唖然とする文衛門だった。こうして彼のごくありきたりな平和な日々は一変した。彼と女房は居間でだ。その物の怪達と話をするのだった。
 二人の前に彼等が集まっている。そのうえで言ってきたのである。
「そろそろ言おうって思ってたんだ」
「丁度いい時だったね」
「そうそう」
「よくはない」
 むっとした顔で彼等に対して返す文衛門だった。
「驚かせるなどとは。どういうつもりだ」
「だってさ。普通の挨拶をしても面白くないじゃない」
「それでなのか」
「そうだよ。まずは面白くね」
「そうしないとね」
 こう話してくる物の怪達だった。その言葉には悪意はない。見れば蓑や傘だけではない。筆も硯も箪笥もいる。湯飲みや茶碗も楽しそうに動いている。
 とにかく家のもののあちこちが二人の前にある。そのうえで二人に話してきているのである。
「だからなんだけれどね」
「まあ旦那さんやおかみさんも喜んでくれたかな」
「どこはどうかな」
「馬鹿言うんじゃないよ」
 お桂がむっとした顔で彼等に返す。
「いきなり筆が動いてそれで喜ぶ奴がいるものかい」
「あれ、そうなんだ」
 その筆がその先をふりふりと動かして床の上を歩きながら応えていた。その筆にしても小さな手足があって顔もある。中々面白い姿である。
 その姿でだ。また言う筆であった。
 
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