自分の力で
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第二章
「それでなのよ」
「そのことは知ってたけれど」
「それでもよね」
「そう、ちょっとね」
それこそ、というのだった。
「何処まで一途なのか」
「一途でね」
「しかも変に文才あるから」
ジョアンに、というのだ。
「色々書いてね、ブログで」
「劇場にもいつもいてね」
「流石に家のことは出さないけれど」
貴族である彼の家のことはだ。
「それでもね」
「貴女にも何かと?」
「あれはどうか、これはどうかとか」
「いつもそう言って何か出してきて」
「あの子は相変わらずね」
「ええ、困ってるけれど」
「心配性で世話焼きだからね、ジョアン君は」
マリーは彼のことを知っていて言うのだたt。
「昔から」
「悪人じゃないけれど」
「空気が読めないところがあるから」
「それで困ってるの」
「じゃあどうするの?貴女としては」
「どうするかって?」
「だから、ジョアン君をよ」
他ならぬ彼をというのだ。
「どうするの?」
「どうするのって言われると」
ソフィアは難しい顔になって母に答えた。
「ちょっとね」
「別れるとかは?」
「別れるって?」
「だからそのジョアン君とよ」
他ならぬ彼と、というのだ。
「迷惑なら」
「そう言われると」
「嫌味なところはないしね」
「意地悪でもないし公平だし」
二人で彼のそうした長所も挙げていくのだった。
「悪人じゃないから」
「心配性で世話焼きで空気が読めていあにだけなのよね」
「その三つが際立ってるだけで」
ソフィアとしてもなのだ、困ってはいても。
「自分のお家のことは絶対に出さないし」
「そこは弁えてるのよね」
「だから別れるとかは」
「その都度注意するだけなのね」
「ええ、だからコヴェントガーデンでも」
そこで歌う時もというのだ。
「注意するわ」
「本当にその都度で」
「別れるなんて」
そのジョアンとだとだ、ソフィアも言うのだった。
「考えてないわ」
「そういうことなのね」
「そう、このままでね」
いくとだ、こう母であるマリーに話してだった。ソフィアはコヴェントガーデンでの舞台にも出るのだった。しかしその歌劇場に行くとだ。
落ち着いた色彩のスーツを端整に着こなした青年がいた、スーツには丁寧にアイロンがかけられ靴も奇麗に磨かれている。金髪を後ろで束ね青い目は細く切れ長だ。面長の顔で鼻の高さは普通だ。眉は細い。
この彼がジョアン=ケンジントン。その侯爵家の三男でありソフィアの交際相手である。仕事は家がやっている出版社の勤務だ。
その彼がだソフィアが劇場に来ると真剣な顔でこう言って来た。
「ソフィア、遂にここに来たね」
「コヴェントガーデンに?」
「ここは我が国でも屈指の歌劇場だよ」
「それはもう知ってるけれど」
歌うだけにだ、ソフィアも事前に勉強してきた。
「だからもうね」
「いやいや、この劇場にも色々とあってだね」
「色々?」
「うん、魔物がいるとか」
ジョアンは劇場に付きものの話をするのだった。
「だから聖書は持っているかい?」
「聖書?」
「持っていないのなら僕が貸そう」
言いながらだ、ジョアンはついでに十字架も出してきた。その二つをソフィアに差し出してそのうえで言うのだった。
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