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砂金

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第一章

                        砂金
 最初は何もなかった。
だからだ、アメリカ合衆国政府もこう思っていた。
「西部はどうでもいいな」
「ああ、そうだな」
「あちらはな」
「どうでもいい」
「西部については」
 全く、という感じだった。
「別にな」
「あの場所は特にいいだろう」
「重要なのは東部だ、やはり」
「独立以来の中心地だ」 
 この地域を重視していた、政府にしても。
 人も東部に多かった、確かに西に西にと進んでいたが。
 アメリカの中心はやはり東海岸だった、この話が出るまでは。
 西部に向かった数少ない開拓者のうちの一人がだ、仲間達に驚いて言ったのだ。
「おい、さっき川に水を取りに行ったらな」
「何だ?コヨーテでも出たのか?」
「それとも熊か?」
「オオヤマネコか?」
「何が出て来たんだ?」
「いや、獣じゃない」
 彼はそれを否定した。
「そんなタチの悪いものじゃないんだよ、これが」
「じゃあ何だ?」
「美味い魚か?」
「それとも別嬪さんでもいたか?」
「何がいたんだよ」
「あったんだよ」
 いたのではなく、というのだ。
「凄いのがな」
「何だよ、凄いのって」
「さっきから勿体ぶってるけれどな」
「早く言え、早く」
「気になるだろ」
「金だよ」
 ここで遂に行った、何かを。
「砂金があったんだよ、川に」
「おい、それ本当か!?」
「砂金があったのか!?」
「金が」
「ああ、それもかなりの量がな」
 こう仲間達に話すのだった。
「だからな、早く川に来い」
「それを早く言えよ」
「砂金なんて凄いだろ」
「それがあったらな」
「俺達億万長者だぞ」
「開拓地で畑耕すよりずっといい」
「それよりずっとな」
 これまでの開拓とは違い、というのだ。
「だからな」
「早く案内しろ」
「すぐにな」
 仲間達は彼に色めきだって言った、これが全てのはじまりだった。
 金の話は瞬く間にアメリカ中に広まりそれまで特にどうも思われていなかった西部への移住が大規模に進んだ、合衆国政府もそれを受けて。
「よし、それならな」
「西部に進出だ」
「そしてあの場所も開拓してだ」
「開発を進めて発展させよう」
「あの地域もな」
「合衆国の軸に出来たらするぞ」
 この状況をチャンスにしてというのだ、そして実際に。
 西部は砂金を求めた開拓民達が殺到して瞬く間に発展した、それでこれまで静かだった西部は一変した、それを見て。
 東部のある村にいた老人ロバート=プランジットが孫になるチャード=ホズバーンにこんなことを言った。娘が同じ村の幼馴染みに嫁いで生まれた孫だ。
 その孫にだ、こう言ったのだ。 
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