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ソードアートオンライン VIRUS

作者:暗黒少年
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命の危険と人殺し

 時はしばらく経ち、三十九層の迷宮をマッピングしていたゲツガは疲れてきたので、安全エリアで休んでいた。

「ふー、今回は中々広範囲をマッピングできたな。偉いぞ俺」

 一人で自分の仕事の効率がよいと褒める。しかし、自分が自分を褒めているのはなんかおかしいし、むなしく感じる。なんだか俺って一人だけ張り切りすぎてないか、とか思ったがこれも立派な仕事の内と自分に言い聞かせ、再びマッピングをするためにダンジョンの奥へと進んでいった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 十階までのマッピングが終わり、時間も日が沈んで相当経ってることに気付いたゲツガは、今日は切り上げることにした。転移結晶を使うのがもったいないため、歩いて帰る。しかし、それがゲツガの運命を大きく変えることも知らずに……

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 暗い夜道、遠く見える街の明かりを目指してとぼとぼと歩いていた。モンスターは出ず、楽に帰れると思っていたがその考えが甘かった。いきなり後ろに、ドスッという何かが刺さった感覚の後、体が急に言うことを聞かなくなり、その場に倒れこんでしまう。
「な……なんだ……よ、こ……れ……」

 素早くHPのバーを確認すると、緑色に点滅している。麻痺毒になっている。

「よーし、今回は上物だぜ」

 何処からとも無く、声が聞こえた。首だけで見渡すと後ろに十もの数の人影が見えた。

「おいおい、こいつはホワイトバレットさんじゃねえか。いいねー、殺しがいがあるよ」

 そう言って出てきたのは、緑色のアイコンではなくオレンジのアイコンをした、犯罪者プレイヤー。そして一番先頭に立っていたリーダーらしき男が目の前まで近づき、しゃがんで言った。

「初めまして、オレンジギルドの《ペインフレイム》って言うもんだ」

「オレンジ……ギルドが……俺に……何……のようだ……」

 麻痺でうまく口が動かないが頑張って声を出す。それを聞いたペインフレイムのメンバーは腹を抱えて笑い出す。

「こいつ、なに言ってんだ」

「アホじゃねえのか」

「ははははは、はっ、はー、はー、はー。……お前自分がどんな状況かわかってんのか?」

 リーダーがそう言う。今は麻痺になってまだ解けない、解毒ポーションを使おうとすると、ポーチに伸ばした手を踏まれる。

「ガッ!!」

「お前この後、どうなるか俺が優しく教えてやろうか?」

 リーダーの男がニヤニヤしながら言ってくる。そして言った。
 
「お前は麻痺が解ける前にいたぶられて死ぬんだよ。そのときにお前が死ぬ間際にどんな顔を想像しただけでもゾクゾクしてくる」

 下衆が、と思うがまだ麻痺が解けるのに三十秒もある。こいつらは、攻略組には及ばないが中々の強さだと思う。一人ならまだしも、十人にもなるといくらレベルが違えど死ぬ可能性がある。

「ボス、早く殺しちまおうぜ!麻痺が解けたら厄介だし、早くこいつが死ぬ姿みてぇよ!」

「そうだな。お前ら!!武器装備したか!」

「ぜんぜんオッケーだぜ!」

 ペインフレイムのプレイヤー各々が武器を装備して雄叫び上げていた。しかもその顔は、遠足に行くときの子供のような顔で。まさに狂人だ。

「やれ、お前ら!ぶっ殺せ!!」

「「「おぉぉぉおおおぉおおぉおおお!!」」」

 その掛け声とともに一斉に襲い掛かってくる。斧、剣、槍。様々な武器がゲツガの体に叩き込まれ、斬られた場所、刺された場所が赤く染まる。痛みは無いが、衝撃がくる。その衝撃はペインアブソーバによってほとんど緩和されるが、何度も食らうとさすがに不快になる。

「おらおら!!泣き叫べ!!許してくださいとか言ってみろ、えぇ!!」

 オレンジプレイヤーは、罵倒しながら攻撃する手を止めない。見る見る内にHPが削られていく。そして赤ゲージに達した。

「クソ野朗どもが……!!いい加減にしねえとぶっ殺すぞ!!」

「はっ!殺されかけてる奴がなに言ってやがる?お前が死ねよ!」

 そう言って、武器を振り下ろす。ここで終わるのかと思ったがあの時のように時間が止まった。

「おいおい、また死にかけてんのかよ。どんだけ運の無い野朗だよ」

 あのときの声が頭に響く。

「まだ体借りてねえし。借りるからな」

 そう言ってゲツガは意識を失った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ホワイトバレッドの野朗がいきなり黙り込んだ。泣き叫びも怯えたりもに気を失った。つまらない、そう思って最後のHPをなくすためにソードスキルを使う。しかし、変なことが起きた。奴が、ホワイトバレットが動き出した。まだ、麻痺から解けるには三十秒ほどある。だが奴は、何事も無かったように飛び去った。ソードスキルが地面にぶつかり大きな音を立てた後、しばらくの静寂が生まれる。

「おい!!テメー何しやがった!?今出ている麻痺で解けるには、麻痺耐性が結構合っても二分はかかるはずだぞ!!」

 一人が叫ぶとホワイトバレットが言う。

「ふーん、さっきのが最高の毒なの?俺には、どうにも感じなかったけどな?」

 何言ってやがるコイツ?さっきまで麻痺してたじゃねえか、そう思うがさっきと感じががらっと変わっている。しかし、それに気付いてるのは俺だけのようだ。

「なに言ってやがる!!テメェ!さっきまで動けなかったくせによ!!」

 俺以外の奴らがそんなことを叫ぶとホワイトバレットが意味深なことを言う。

「あいつと俺の違いもわからないのか?はー、お前達にはあきれるよ」

「テメー!死に底無いの癖にウルセーんだよ!!」

 そう言って三人飛び出す。攻撃しようとする、しかし剣を振り下ろした瞬間、剣の真ん中辺りから、きれいに折られた。しかも剣でなく素手で折ったのだ。

「雑魚が俺に剣向けて、生きていられると思ってんのか?」

 その言葉で空気が一瞬で氷付いた様に冷たくなる。そしてそれが俺らの最後になった。

「お前ら……死ねよ」

 そういった瞬間、目の前にいた三人は瞬時に奴の両手剣に切り裂かれた。体が真っ二つに切れ、ポリゴン片へと変わる。そして、筋力値にほとんど振ってないはずの奴が俊敏に振りまくった奴ぐらいのスピードで突っ込んでくる。一人の喉もとに手刀を突きつけて一撃で屠る。それを見てようやく自分の身が危険になった俺は素早く転移結晶を取り出す。

「ん?逃がすと思ってんのか?」

 奴はそう言って手から剣が現れる。そしてその剣を蹴る。それは俺の腕を貫通すると同時に腕を切り落とした。

「がああぁあああぁあぁぁあぁああ!!」

 切り落とした腕からまた転移結晶を取り逃げようとするところで、俺の首は胴体からはなれ、二度と現実、この世界に戻れなかった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 気が付くと体は勝手に動き、さっきまで殺そうとしていたオレンジたちを殺している。体を止めようとするが言うことを聞かない。

「何だよこれ……なんでこんな……」

「あれ?もう気が付いたのかー。面白くないな。まだ遊び足りないのに」

 声だけがまた頭に響いている。

「誰だよお前!!俺に何をした!?」

「何をした?何言ってんの?お前が俺と契約したんじゃないか?それなのに、何をした?お前の頭おかしんじゃないの?」

 その声はけらけら笑うように言う。その話をしていると、オレンジが最後の一人になっていた。そいつの首に斬りつけようとしていた。

「やめろ!!」

 しかし、その叫びもむなしくオレンジの頭は胴体と永遠の別れを告げた。

「ふー、楽しかった。やっぱ体を動かすのは最高だね。今度は勝手に借りれないから、お前が承諾してくれよな」

 楽しげに言う。しかし、やはりこいつが許せない。

「お前なんかに二度とかすかよ!人殺しが!!」

 その言葉を愉快そうに言った。

「人殺し?何言ってんだよ、お前だってさっき殺されていく奴らを見て目を輝かせてたくせに?」

「俺はそんな目をした覚えはねぇ!!」

 噛み付くように叫ぶ。だが声は静かにいった。

「何言ってんだ、お前?自分のことなのにわからないのか?」

「わかるかわからないかじゃねぇんだよ!俺はそんな目をした覚えはないってんだ!!」

「違わねぇよ。テメェはさっきのやつらと同じような奴だ。よく、考えてみろ。お前は人が死ぬのを見てきてどう思ってきたんだ?悲しんだのか?それとも自分じゃなくてよかったか?違うだろ、お前が思ったことは」

「俺は、死んだプレイヤーたち泣いてはないがを悲しみはあった!俺はその人たちに敬意を表しているし、その人たちの意思を継いでいってんだ!」

 ゲツガは叫ぶ。しかし、声は言った。

「違う、お前はそう思っているが、奥底のほうで自分がこいつらを殺したかったと思っただろ?お前は人が死ぬのを見て、そう思ってたはずだ」

「そんなこと、思ったことはねぇ!!」

「いいや、思っている。お前は自分の中にある狂気すら自覚できていない。それに、最後のあいついただろ?あいつを殺したのは俺じゃなくてお前だ」

 そう言われた瞬間、背中に嫌な汗が噴出すような感覚に襲われる。

「俺は、最後にお前に体の主導権をちゃんと返したぜ。しかし驚いたぜ。止めろって言いながら自分で殺すのを見たときは傑作だった」

「嘘だ……違う……」

「違わないぜ。俺は最後は何もしていない。それはお前が気付いているはずだろ?斬った感触がまだ腕に残ってるのが」

「違う……俺は何もしてない……」

「あれはお前がやったんだ。自分の中の狂気に逆らえずにそのままプレイヤーを殺したんだ」

 その言葉を聞いて何もいえなくなる。すると声は満足そうに言った。

「分かったならいい。じゃあ、また呼んでくれよな。楽しみにしてるから。あ、あと対価も頂いておくからな。まあ、今回はペインアブソーバにしとくよ」

 そう言って声が聞こえなくなる。そしてようやく体が思うように動かせるようになると、近くの木により、背中を預けるとストン、と体を落とす。俯きしばらくその状態でいる。自分の手を見る。特に変った様子はないが、モンスターや破壊可能オブジェクトなどを斬ったときとは違う感触が腕にはあった。人を初めて殺した感触だ。

「俺……手が汚れちまったよ……」

 その頬には、月の光で輝く水滴があった。

 
 

 
後書き
二話連続投稿。
誤字・指摘お願いします。
麻痺の持続時間を変更しました。 
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