皇帝の楽しみ
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第二章
「調子がよくない」
「今日は冷えるので」
「余計にですね」
「そうなのですね」
「只でさえパリは寒い」
このことも関係しているというのだ。
「コルシカと比べるとな」
「ですね、確かに」
「今は冬ですし」
「その冬の中でもです」
「今日は特に、ですから」
「この寒さの前にはだ」
それこそともだ、ナポレオンは言った。
「風呂が一番だ」
「お身体を温められる」
「それがですね」
「いいからな」
気分転換も兼ねてだ、それでだった。
ナポレオンはまた風呂に入った、そして仕事を続けるのだった。
とかくナポレオンは毎日風呂に長くそれも何度も入った、その彼を見た若い近衛将校は首を傾げてだ、将軍の一人であるダヴーに尋ねた。
「あの、陛下ですが」
「陛下に何があったのか」
「いえ、何もありませんが」
「では何だ」
「何故陛下は毎日お風呂に入られているのか」
将校が気になっているのはこのことだった。
「そのことがです」
「わからないか」
「それも何度も入らますし長い間」
「そのことならだ」
「将軍は何故なのかご存知ですか」
「知っている」
ダヴーは将校の問いに即座に答えた。
「あれには訳があるのだ」
「その訳は」
「卿も馬に乗るな」
「はい」
すぐにだ、将校はダヴーに答えた。
「その腕を買われて近衛隊に入れてもらいました」
「そうだな、馬はな」
「軍人として当然です」
乗れて、というのだ。
「ですから」
「そうだな、馬に長い間乗るとだ」
ここでだ、ダヴーは言ったのだった。
「尻が痛くなるな」
「そして痔にもなります」
「それだ」
ダヴーは将校に馬に長い間乗っているとなってしまいやすい病気のことを言った、これは乗馬において避けられないことの一つだ。
「陛下は実はだ」
「痔なのですか」
「そしてだ、さらにだ」
「まだあるのですか」
「実は陛下は便秘でもあるのだ」
ダヴーは将校にナポレオンのこの事情も話した。
「あの方はな」
「そうだったのですか」
「だからだ」
「お風呂に入られていますか」
「痔は身体を温めるといい」
「便秘もですか」
こちらも、と言う将校だった。
「身体を温めるとですか」
「いいというからな」
「だから陛下はですか」
「お疲れを癒され気分転換と共にな」
「そうした理由からもですか」
「入浴されているのだ」
そうだというのだ。
「日々な」
「そうだったのですか」
「もっともあの方は元々風呂好きだ」
それも相当な、だ。
「気分転換と清潔さの為にな」
「陛下は奇麗好きな方ですしね」
「だからだ」
ダヴーは将校にさらに話した。
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