根上碧海さんは魔王になりたい!
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根上碧海さんは魔王になりたい!
前書き
今回も面倒なので全ての章をぶち込みます。本当は縦書きで原稿っぽく出来れば嬉しいんですけどねえ・・・(´・ω・`)
第全章「TRPG」
可愛い女の子との出会いや、その他諸々の無駄な期待をしていた下らない春という罪な季節があっという間に通り過ぎ、夏というただ単に「馬鹿」みたいな、暑いだけで何も意味を持たない糞っ食らえの季節もなんとか終わり、ようやく心落ち着く秋という、食べ物も、スポーツも、普段は薄い本ですら目も通さない人間も、児童書とはいえ、総計二百八十ページの分厚い本もあっさり読めてしまい、普段は全く意味が分からない、幼稚園児の落書きみたいな絵を芸術だと感じる素晴らしい季節、秋に入った頃の話、いつも喧しいくらいの教室が妙に静かだったあの日の放課後、一緒に宿題を終わらしてから返しましょうだなんて言ってきた、これから家に帰ってゲームまっしぐらの自分にとっては、色々な意味で可愛くない幼馴染が隣の座席でぽつりと呟いた。
「――TRPG」
「TRPG?」
その人は短く、肩にかかるくらいの、僅かに茶がかかったダークブラウンの髪をいじりながら、現代の女子高生ならぬ言葉を再度呟く。
「そう、TRPG」
「はあ」
適当に相槌を打って、宿題に戻る。
「TRPG!」
知りません、お一人でお調べになったらどうですか?なんて言えれば、どんなに楽だろうか。普通の高校生、萩島夕摩こと、自分、萩島は内心でその事を嘆きながら、
「叫ぶんじゃあない、うるさいじゃないか」
とつっけんどんに返した、宿題に今いち理解できない問題があって、歯に何か物が挟まったみたいな気分だったのだ。そんな萩島の態度に、隣の座席で頭につけたオシャマな白いリボンをいじくりながら、彼女は、
「――くびり殺すわよ?」
だそうで、萩島は焦った。何せ彼女は幼い頃より古武術を習っていて、そりゃもう、相当に強かったからだ。その為、男で幼馴染と言う立場に居た萩島は身を以って彼女の暴力を知っていた。
「やめてくださいよぉ~、また骨の二・三本いっちゃうじゃないですかあ~」
と、間抜け口調で返すと、
「――本気でやられたいの、相手がアンタだし、手加減は一切無いわよ?」
という、ありがたいお言葉が帰って来たので、萩島は途端に真剣な口調になる。
「冗談だよ、冗談、大体、TRPGってどんなゲームか知ってるのか?」
TRPGとは1974年、アメリカのゲイリーガイギャックスという人によって製作された「D&D(通称Dungeons&Dragons)」から始まった由緒正しいボードゲームのようなものだ。プレイヤーはゲームを進行する人を含め、四人以上が好ましいらしい。漫画を読んで気になり、インターネットでたどり着いた、ウィキペディア受け売りの事しか知らない萩島には詳しい事は分からないが、とにかく、そういうゲームらしい。
「――知らない、かな?とりあえず、進行方法は分かってるわ」
「ほほう、それじゃあ話は早いな、とりあえず俺は参加しないから。人数は自力で探すこった」
萩島さんは最早放っておいたってついてくる捨て犬のような存在であるどうでもいい幼馴染の下らない思い付きよりも、家に帰って早くゲームがやりたいのだ。そういう態度をとれば、彼女の機嫌がどうなるかくらいは長年の付き合いである彼には分かっていた筈なのだが、このとき、萩島はゲーム事と宿題の曲者問題の事で頭が一杯で、つい彼女を邪険に扱ってしまったのだった。
「――ああそう、アンタは酷い人ね、よぅく分かったわよ、もういい、二度とアンタには頼まないから」
彼女こと、根上蒼海は泣きそうな声で言った。気丈で格闘が強く、萩島にだけ我侭で傍若無人で唯我独尊な態度をとるくせに、萩島に冷たくされるとすぐに凹む。萩島からすれば、実に迷惑である彼女。しかし、さすがに今回は可哀想に感じる萩島であった。
「ごめん、ごめん、今ゲームと宿題の曲者の事で頭が一杯だったから、何だよ?TRPGが遊びたいのか?」
萩島は自分の声帯から出せる、精一杯の優しい声で根上に詫びた。まるで教会で毎日神様に自らの罪を告白し続ける信徒に対して話しかける神父のように暖かい声だった。萩島の声色を聞いた途端、根上はいきなり態度を豹変させた。
「うん!遊びたいっ!だからアンタ、人数集めて!私がとりあえず出来る限りの準備をしておくから!」
無駄な期待をするだけしたあの春が戻ってきたような、もうぎんぎらぎんに灼熱する太陽から吹いてくる風のような声で根上は元気一杯に言った。あまりの豹変振りに、萩島はすかさず突っ込みを入れ、
「お前っ!狙ってやがったな!どこの天使様だよっ!綺麗な声出しやがって!畜生っ!やられたよ、人数を集めてくれば良いんだなっ!」
半ばやけくそになる、こうなったらもういい、と萩島は内心で叫ぶ、宿題もゲームも家に帰ってからやっつけてやる!無駄に意気込んだ萩島を見て、彼女は呟いた。
「――うわぁ、何そのテンション、ついていけないわ・・・ごめん、やっぱ私が悪かったわ、TRPGはまた今度にしましょう・・・」
「ここまで来たんだからやりましょう根上さん、御願いします、TRPGを俺と遊んで下さい」
萩島は咄嗟にお願いした、無駄に意気込んだからには、やらないと気がすまない、きっとこのまま引き下がって帰ったとしても、もやもやとした気持ちでゲームをやり、きっと思わず隠しアイテムなんかを見逃したりするのだ、そして見逃した隠しアイテムなんかを探しているうちに宿題をすっかり忘れるという、負のスパイラルが起きるのだ、思い立ったら吉日と、昔の人が良く言っていたじゃないか。
萩島の懇願するような両手を、小さく可愛らしい、滅茶苦茶柔らかい左手で掴んで、根上碧海は実に偉そうに言う。
「――あら、そんなにこの私とTRPGを遊びたいの?だったら遊んであげない事もないけど?そうね、もし遊んで欲しかったら私とこれから集まるメンバーにジュースを奢りなさい、いいわね?じゃないとやっぱり遊ぶのやめるから」
彼女に傲慢な態度を突きつけられても、引き下がれなくなった萩島は深々と頭を下げる。
「はい、分かりました、喜んで奢らせて頂きます」
実のところ、ここまで彼女の思惑通りである、彼女は長年一緒に居る幼馴染を知り尽くしている為、彼は彼女に従わざるを得ない。そしてそんな事にも気づかす、お馬鹿な萩島君は言われた通りにメンバーをなんとか集め、そして全員にジュースを奢ることになった。
萩島夕魔には何人かの友人が居た、一人は元野球部の鳥知也氏、元野球部といっても入部して三日も経たないうちに辞めてしまった為に、ちょっとだけスポーツ少年っぽくなった残念な人である。もう一人は、図書委員の槇原幸歩さん、彼女は眼鏡っ子で、そこそこに整った顔立ちをしていてとても心優しい性格をしている一方で、天然キャラと見せかけて実は狙っている、とか、黒い一面が少なからず存在している人だ。萩島は手始めに鳥を尋ねる事にした。いつもは賑やかな廊下だが、今日は何故か面白いくらいに誰も居ない廊下を通って、鳥の教室まで走る。走りながら、ポケットからメモ帳とペンを取り出しながら。教室のドアの前に立った萩島は勢い良くドアを開け放つ。
「――鳥っ!鳥は居るかーっ!?」
「おおっ!萩島!どうした?何か用かー!?」
萩島の叫ぶ声に、教室の隅の方から声が上がった。
「おぉー、居たかーっ、一つ頼みがある!」
萩島は、掃除後でそれなりに整った教室の座席を目でなぞり、鳥が居る場所を見つけると、歩きながら言った。鳥は真剣な表情で返事をし、鞄を肩にひっかけて萩島の近くまで歩いた。
「萩島、頼みごとって何だ?」
真剣な表情の鳥に向かって、萩島は頭を下げた。
「お前の飲みたい物は何だ?」
「はあ?何だよ?奢ってくれるのか?」
「おう、そうだ、その代わりの頼みだ!」
「何だ!言ってみろ!」
「根上のTRPGに付き合ってやってください!」
「TRPG?」
ここまでテンポ良く進んできた会話に黒い雲の陰がよぎった、もしかしてお前、TRPG嫌いだった?と聞き返す萩島に、鳥は眉を吊り上げながら答える。
「――いや、面白そうだとは思うけど、何だって根上の奴、TRPGなんて始めようと思ったんだ?」
それはこっちが聞きたい事だ!と返した萩島に、鳥は笑いかけながら言う。
「――分かったよ、根上の教室に行けば良いのか?どうせ暇だし、付き合っちゃるよ」
「本当か?ありがとう!そう、根上がきっと教室で準備してる筈だから、よろしく!」
おう、了解、と萩島に背を向けた鳥が歩きがてら、
「あ、俺、コーラが良い、缶の奴で良いよ、よろしくなー」
と、言い残し、教室から出て行った。後に残された萩島はメモ張に缶コーラと書いて、自分もその教室を後にした。
残るは一人。
萩島は自身が足になって買ってくる飲み物のリストが書き込まれたメモ張を握り締め、丸太のように太く逞しい(つもりの)自身の足を強く、何も罪が無い廊下の床を踏みつけながら、次に図書室へと向かった。彼はそこに三人目の勇者が居ると最初から理解していた。
「あっ、萩島君、どうしたの?こんなところで・・・何かあった?」
槇原幸歩、女子に果てしなく嫌われている男、萩島夕摩にとって唯一の良心である、彼女は容姿端麗頭脳明晰温厚篤実心はいつも明鏡止水の鉄壁超人、いつもかけている眼鏡の色は赤で伊達、その長い茶髪は気持ち金色よりだが、彼女の素行の良さから教師の間では天使とも言われている程である、目鼻が立っていてくっきりしている、それでいて握りこぶしと同じか、それ以下の小ささを誇る小顔美人、噂によるとお母さんが外国の方らしい凄い人。そう、だが萩島にとって残念な事にもう片方は萩島を体の良い足としてしかみなしていないので、カウント外。
萩島は痩せ細り、今にも光を失ってしまいそうな双眸を図書室のカウンターできょとんと首を傾げている槇原へと向けた。
「――やあ、俺の良心槇原さん、いきなりだけど一つ聞いて良いかなあ?」
なあに?と羽化したてのセキセイインコのように無垢な表情をする槇原。
「・・・普通学校って多くても五階建てくらいだよなあ?」
一方で息も絶え絶えに、気持ちの悪いと普段から女子の間で囁かれている低い声で尋ねる萩島。
「え、うんそうだね、だけど・・・」
だけども糞もあるかよ、とその場で悪態をついた萩島に、槇原は出来るだけ木に障らないよう優しく声をかけた。
「うちの学校、校長の趣味で超高層ビルになってるから仕方ないよ」
槇原の言葉は萩島に大きなショックを与えたようだ。萩島はその場で両腕を頭に載せて、図書室の天井を仰いだ。
「――作者ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ! てめえさっきからどれだけ俺の事を悪く書けば気がすむんだーっ! 疲れるなんてもんじゃねぇぞぉっ! 二次元に来れないからって八つ当たりしてんじゃねぇーっ!」
彼が全力で叫んだ後、彼はどこからともなく現れた黒い服のごつい男達にどこかへと連れ去られてしまった。
後に残された槇原はその様子を楽しそうに見届けた後、独り言を言った。
「――都合により、一ページ飛びマース」
時空間が歪み! 今までの出来事がリセットされていく!
萩島夕摩は自身の名前を悠馬と改められ、物語は進みだす!
こうして、二つの教室を回り、萩島悠馬は自分以外の二人の参加者を集め、勿論彼らが望んだ飲み物を全て両腕に抱え、再び根上碧海が待ち受けている教室へと戻ってきた。
「なんか緊張すんなー、TRPGだろ? 俺やった事ねえもん」
烏が興奮した様子で呟いて、隣で萩島が震えていた。
「ふふ、TRPG、実は私やった事あるの、得意なんだよ?」
槇原は烏に声をかける、萩島は未だに震えている。
教室のドアの前で、三人の勇者はさながら魔王待ち受ける城門に立っているかのようだ。
「へえー、槇原ってTRPGに詳しいのかー、心強いなーもう」
烏が萩島を挟んで向かい側に本を一冊抱えて立っている槇原に腕を伸ばしてちょっかいをかける。放課後で閑散とした廊下に若い男女のフレッシュな笑い声が轟いて、ようやく、震えたまま動かなかった萩島が動いた。
萩島は両腕に缶ジュースを抱えたまま右脚を上げて教室のドアの真ん中に狙いを定める、まるでその動きはまるで獲物を目の前にした豹の如く優雅で、美しい、完璧なフォームで萩島は右脚に力を込める。
「烏君って面白い人なんだね~、あっ! 良かったらメアド教えてよ~」
「えー!? かの美人優等生槇原幸歩が俺とメアド交換~!? やべーちょううれしーんですけどー」
今時の若者らしい会話が二人の口から飛び出た瞬間、萩島悠馬は目の前の木の板を思い切り蹴飛ばした、いや、”蹴破った”のという方が表現としてはしっくりくるだろう、萩島の怒り満載の蹴りは、見事頑丈そうな教室のドアを真っ二つに圧し折り、そのままドアの残骸は教室の奥へと吹き飛んでいって見えなくなった。目を点にして驚く二人を尻目に、萩島は両腕に抱えていた缶ジュースの内二つを選んで背面に投げ、そしてそのまま教室の隅っこ、掃除用具入れの前に仁王立ちしている根上碧海の元へ向かう。
「――遅かったじゃない! 待ちわびたわよ!」
「おう! さっさと始めようや!」
槇原と烏の二人が教室内に入った時、その教室内の空気はまるでスポーツか何かの大会会場のようだったという。
「閑話休題ね」
「ああ、今更ながら思うけど、これ、TRPGの紹介も兼ねてるんだよな」
「そう、私達はその為に作られたといっても過言ジャないわ」
「今ちょいと片言になったな、変換ミスだ」
「仕方ないじゃない、作者の都合よ!」
「そのメタは流石にやっちゃ駄目っ!」
「ふふん、私のキャラがちょっとツンデレなのは涼○ハル○に影響を受けているからってのも都合よ」
「ああっ、もう! だからそれはやめろ」
「うふふふふふふふ」
「んだよ、そのぶきみな笑いは」
「良かったじゃない、アンタさ、このまま行けば私と付き合えるわよ?」
「!?」
「あの~、そろそろ始めませんか?」
良くある学校の教室内、向かい合わせ、四つの椅子と机を組み合わせた四角いテーブルが隅に作られていて、その四つの席に、それぞれ、窓側に二人、根上と萩島が、その反対側、廊下側には烏と槇原が向かい合って座っていた。
「何だい?槇原、俺は今幸せに満ち満ちているから機嫌が良いぞ?よいよい、何でも申してみよ」
「萩島君キャラきもくなってるっ!」
「もっと言ってください御願いします」
「うわあ、ちょっと言ってみたらもっと気持ち悪くなった!」
「むしろ炒ってください御願いします」
「嫌! きもい!」
「もっと炒ってください」
「最低、死ね、消えろ、このゴミ野郎! ゴミ虫!」
「もっともっともっともっともっともっともっともっともっと! 炒ってください」
「皆、TRPGがどんなゲームか知ってる?」
「スルーでございますかそうですか、そうですか・・・それも有りですね、くふふ」
萩島の気持ち悪いキャラを遂に無視して、牧原が他の二人に尋ねた。
烏は、
「――んー、いや、全く知らないんだ、暇つぶし目的だったしな」
「そっか」
根上は、
「知らないっ!」(大文字)
勢い良く言い放った。
瞬間、今まで気持ち悪いキャラに改変されつつあった萩島が復活し、猛烈な速度で突っ込みを入れる。
「おいっ! 言い出しっぺェ!」
萩島の三白眼込みの突っ込みを受けて、根上はだって・・・と言い淀み、手の平を口に当てて、ドラマ内で亭主に打たれた奥様のようなポーズを取る。
「だって、ダイスロール、やってみたかったんだもん・・・」
「遊○王ッ!? やはり貴様、アニメに影響受けてたな!」
萩島が根上の頭に手刀を入れる。
「良いじゃない、別に、やってみたいって気持ちの方が大事でしょ?」
根上は奥様ポーズをやめて、べーと舌を出し、いーと口を開く。
「まあ、そうだけど・・・」
二人の火花が納まったところで、槇原が軽く咳払いをして、優しく解説を始めた。
「――おほんおほん、TRPGっていうのはね――」
TRPGとは、即ちテーブルトークロールプレイングゲーム(テーブルトークRPG、TRPG)とは、サイコロなど専用の道具を用いた対話型の卓上遊戯である。
TRPGRPGとは、それぞれの役割(Role)を演じる(Playng)遊び(Game)である。それをテーブル(table)を囲いながら談話形式で遊ぶのでTRPG(テーブルトークRPG)と呼ばれる。
つまり、RPGとは各々が与えられた役割を演じるゲームである。
本来の「RPG」はこの種のゲームを指す語であり、これをコンピュータ相手に1人でもプレイ可能にした物が、現在主流となっているコンピュータゲームのRPGである。
なおTRPG自体は和製英語であり、海外ではTRPGのことを、そのままRPGと呼んだり、コンピュータRPGと区別するためにtabletop RPGやPen & Paper RPG(P&P RPG)と呼ばれている。複数の人間がテーブルを囲いながらプレイヤー側と進行役(ゲームマスター=通称GM)と呼ばれる人間に役割を分け架空の冒険を会話の中で行う。
プレイヤーは、ゲームマスターの処理に従って自身が操作するPC(プレイヤー・キャラクター)を動かし、仲間のプレイヤーが操るキャラクターと協力して、物語を進めていくことになる。そこでは敵と戦ったり、魔法を使ったりと様々な行動を行うことができる。
ゲーム進行の際には戦闘やスキルの成否などの臨場感を出し、さらに乱数による変化を取り入れるサイコロ等を用いて判定を行うことが多い。これらの処理を迅速に行うためのルールおよびゲームの舞台となる世界設定を一般にシステムといい数多くのシステムが書籍形式で発売している。TRPGでは、GMとなる人間がシステムの世界設定とルールを元にシステムを作り、PLに役割を与える。そして、PLたちは自らに与えられた役割を演じながらシナリオを進めていくことになる。それらは記述が多くなる性質から、一般の書籍と比較すると高額、大判の商品が多く、中にはゲームに必要なツール(専用カード・フィギュア等)を含めたBOXで販売されているものもある為、一般書店では手に入りづらい場合もある。気になる人は専門店・通販等も調べてみよう。
「――分かった?」
まるでWIKIPEDEAに全てを丸投げしたかのように機械的な説明を終えた後、槇原が満天の笑顔でそう言った。
「うわぁ、作者の奴WIKIに丸投げしやがった・・・」
三人の内、誰かが呟いた。残った二人も首肯する。
「まあ、要は――」
サイコロと筆記用具と本を使って遊ぶRPGゲームの事、家庭機ゲームと違うのは敵役も味方も全部人がやってるって事、槇原が告げた。
「まあ、なるほど、壮大なごっこ遊びみたいなもんか」
烏が呟き、根上が頷く。
「そうね、そういう事なら、私は魔王以外ならないから!」
根上の言葉は槇原によって無かった事にされ、ひとまず槇原が知っていた簡易のシナリオを元にステータスを決め、根上が一応用意していた六×六の三十六面ステージを用いてゲームが始まった。
槇原の語り。
「――ひょんな事から、私達はこの迷宮へと足を踏み入れてしまいました、三人とも理由はバラバラです、一人はマンホールに落ちたと思ったらこの場所へ、そしてもう一人は命を失ったと思ったらこの場所へ、そして私は目が覚めたらこの場所へ、昨日までは暖かいベッドで可愛いペットと共に眠っていた筈なのに、目が覚めるとその状況は一変、まるで地獄です、私達は果たしてこの迷宮から脱出する事が出来るのでしょうか?」
「マキ、現代の女子高生だったが、この迷宮に訪れてから数年で魔術を身につけ、今回の主人公を務める。体力が極端に低いが、魔法攻撃力が魔王と同格かそれ並、かなり高等の悪魔ですら相手にならない、元々の資質が良かった為か数年間でほぼ全ての魔法を習得してしまった。魔法に対する抵抗力も強い・・・容姿端麗頭脳明晰の魔法少女」
「――来た、あの人達だ・・・」
「マキは湿気が充満している苔だらけの迷宮の壁に背中をつけ、左手後方の通路から二人分の足音に耳を済ませていた、一人は背が低いがかなり力がありそうな男、来ている武者鎧を装備しているところを見ると、どうやらマキが居た時代の人間ではないらしい、背中に巨大な刀を背負っている、もう一人はマキと同じような服を着た人間で、貧弱そうでみるからに戦闘慣れしていない、二人はつまらない会話をしながらマキが潜んでいる壁に近づいてくる」
ここで、ナレーションを勤めるGM根上はにやりと口の端を吊り上げて二人の男を見る。
「――なあ、カラス、今天からつまらない会話をしろと無茶振りがあったんだが何かつまらない話は無いか?」
「と気持ち悪い男が言った」
「うん、つまらない話とな?」
「おう、そうそう、言わないときっと後で酷い目に遭いそうな気がするんだ」
「つまらない話をしなかった場合、床が抜け落ちて高確率で死ぬ、いや、確実に死に至るであろうと魔王が申しておる――カラスはなんとかしてつまらない話をしようと思った」
「――爪楊枝の先っぽ、摘む側の頭ってさ、何であんなに簡単にもげるんだろうな・・・」
空気が沈黙に包まれ、密室の筈の現実に冷たい風がどこからともなく吹き込んでくる。
「あ、あまりにもつまらない話だった為、床は抜け落ちなかった、二人は通路を曲がり、マキと遭遇する」
「――止まりなさい、貴方達、ここを行くのなら私も連れて行って!」
「二人は突如現れた魅力最大値の美少女に心を奪われるのと同時に、困惑する。何故なら、今までこの迷宮で彼女以外の人間に出会った事が無かったのだ、当然彼らは魔王の差し金と疑り、闘いの血生臭い空気が狭い通路に蔓延する」
「――お前、ちょっと怪しいぜ、人間にしてはちょっと可愛すぎる」
「まさかと疑いたいな、お主のような美しい娘っこを殺すのは惜しい、良ければここに来た経緯と、自らが人間であるという証拠を教えて欲しい」
「私は――」
「マキは二人の男を手玉に取って人間である事の証明と自らの経緯を話し、二人の仲間に加わる事に成功した――(魅力が最大値だったらダイス振らせても意味ないじゃない!)」
「よろしく、マキちゃん、俺弱いけど運だけは強いんだ」
「ええ、私こそ、体力は貧弱だけど魔法には自信があるから、戦闘は任せて!」
「わしはこの迷宮の壁だって引き裂ける程の切れ味を誇る刀とそれを容易く扱える腕力が自慢じゃ、ボスは任せい!」
「マキとカラス、ゴミクズの三人はマキが潜んでいた通路の先を歩いていった、ゴミクズは例外として、他の二人が発する覇気と邪気に恐れおののき雑魚は出てこない、三人は真っ直ぐ、真っ直ぐ通路を歩き、やがて三十メートルはあろうかという大きな鬼の彫像までやってきた」
「随分大きい鬼じゃのう、わぁっはっは、わしの刀でも斬れるかどうか分からんな」
「私が数年間集めた情報によると、この先に迷宮の主が居るようね」
「ああ、迷宮っていうからてっきりミノタウロスなんかが居ると思ってたけど、ここまで来るのに姿を見かけなかった理由が分かったぜ」
「三人は鬼の開いた口から内部へと侵入する、鬼の内部は赤とも藍とも黄とも碧とも橙とも桜とも見て取れる、混濁した薄い霧が渦巻いていて、暗く、湿っていて乳白色の壁だらけの迷宮とはかけ離れていた、カラフルでサイケデリックな鬼の体内を歩み続けていくと、突然混濁した霧が晴れた、三人の目の前に、やや拓けた空間が姿を現す、大きさ、広さ共に現代の学校の教室を三つほど並べたくらい、乳白色の石筍が天井からまばらに生えている、三人の胴回りと同じくらいの幅を持つ石筍が今にも冒険者達を串刺しにしようと空間中央の上空で待ち構えている(にやり)三人はその空間の中央奥に目を向けた」
「――恐らく、あれがこの迷宮の主が居る部屋よ」
「なーんかおっかねえな、神様が何か企んでいやがりそうだ」
「ふむ、見たところこの部屋は迷宮の主を護る為に造られた場所のようだな」
「きっと罠が貼ってあるに違いない、そう考えた三人はこの部屋を抜けて主の部屋にたどり着くための算段を立てる事にした」
「私は全てのトラップを切り抜けられる魔法があるから良いけど、残念。これら全部一人用だから、貴方達まで守り抜けないわ」
「ええ!? それって酷えな、だったら、俺達はカラスさんに罠を全部ズバッと切ってもらって・・・」
「いや、それは無理じゃのう、いくらわしの大錠門とて魔の術を使われたら一環の終わりじゃ、何か別の手を考えんとのう」
「なあ、根上、いや、GMさん」
ファンタジーの壁を引き裂いて、ゴミクズが根上に尋ねた、根上は食事を邪魔された猫のように憮然とした顔を繕う。
「何?」
「いや、あのさ、俺の幸運スキルで何かパッと閃く事って出来ねえのか?槇原の説明的にTRPGってそういうもんだろ?戦闘のスキルが弱いんだったらその分手に入れたスキルを存分に揮いたいんだが」
根上はちょっと考えてすぐに返事を返す、早く続きがしたいんですけど、といった顔は崩さずに。
「いいわ、それじゃあそうね、いきなり何の知識も持っていないのに何か言いアイデアを思いつくのは主人公の特権だと私は思うの、だから、二回六面ダイスを振って四十以上なら成功って事にしてあげる」
「おいおい、ちょっと待て、それじゃあどうやっても四十なんて越えられいだろっ!」
萩島の苦渋に満ちた声で不平。
「ううん、越えられるよ、萩島君、自分の運のスキルを足すんだよ」
対し、隣からそっと萩島の不平を否定する槇原。
「そっか、でも、十一以上じゃなけりゃ駄目なんだろ?」
萩島はすっかり飲み終わった缶ジュースの缶を転がしながら拗ねたような態度をとる。
「うん、でも、不可能じゃない、そうでしょ?」
槇原が萩島の肩を撫でる、そして、それを見ていた烏も口を開いた。
「――そうそう、お前さんが無理でもわしらがおるわい、お前さんは自分を信じてダイスを振れば良いんだ、たったそれだけの事よ」
「二人とも・・・」
萩島は缶を転がす手を止め、前を向いた。
「――どうするの?やる?やらない?私はどっちでも良いけど?」
冷ややかな根上の言葉が萩島の決意を決めた。
「――やるぜっ! さっさとそのサイコロをよこしてくれ、絶対に成功させてやる」
根上から差し出された二つのサイコロをがっちり握り締め、萩島は祈った。
このまま策が何も浮かばなかったら全員ゲームオーバーになってしまうかもしれない、ひょっとしたら思考時間に時間制限があるかもしれないからだ、それはGMが宣言するべき事なのだろうが、宣言しない事だってあるだろう、これからいきなりボスと戦う事になるだろうけど、自分が与えられた物はゴミクズという名前と神が懸かった運の強さだけ、恐らく戦闘では何も役に立てないだろう。
――――ならば、この運を用いて出来る事をしたい、それがRPG(役割を全うする遊戯)の醍醐味だから。
「ダイス・ロール――――ッ!」
萩島は二つのサイコロを回すように机の表面に転がし落とした。
萩島の視界が白く染まった、サイコロしか最早見えるものは無い、時折見える鶴の頭頂部のとような赤い点だけが他に残っている色素だ、光景が非常に鈍く飛び込んでくる、断続的にサイコロの目が変わり、それが目に飛び込んでくる。
刹那の時間が永遠とも思える時間として流れ、サイコロはゆっくりとその回転速度を落としていく、一、二、三、回転は止まり、サイコロの目がはっきりと萩島の双眸に映る。
目は両方とも・・・。
「――五かけるニィ、ふふん、十たす二十九いこーる三十九、アンタの負けよ」
根上はその後、でも、と続け、
「――惜しかったから、思いつきはしたけど実行する時間が無かった事にしてあげるわ」
と、呟いた、しかし、サイコロを転がした本人は根上の言葉なんてもう聞いてはいなかった、まるで本当にその世界の住人のように萩島は慟哭する。
「糞ッ! みんな、罠は中央の石筍にしか仕掛けられていない! 気をつけろ、きっと何か・・・」
「――ゴミクズがそう言い掛けた時、中央の石筍が低く轟く雷鳴のような地響きと共に天井から落ちてきた、石筍は深く乳白色の地面に突き刺さり、天井からは無数の鍾乳石が降り注ぐ、さあ、冒険者三人、アンタ達はどうする?何か行動を起こすなら聞いてあげる」
「それじゃあそうだな、わしは背中の刀を振り回し、落ちてくる石を砕いて凌ぐ事にしよう」
「――ふふ、私はゴミクズさんの僅かな魔力を借りて二人分のシールドを張るわ」
「ふぅん、そうくるか、二人ともスキル高いし、ダイス判定なんて無駄ね、無条件で成功したとして、三人はなんとか石の雨を凌ぐ事に成功する、しかし、三人を待ち受けていたのは世にも恐ろしい光景だった、自分達の三倍はあろうかという体躯を誇る牛頭、鼻から真っ白い蒸気を火山のように噴出し、先ほどの石筍の何倍も大きく重厚な斧を握ったミノタウルスが部屋の中央には佇んでいた、さ、最初で最期の戦闘開始! 見事こいつを打倒してみなさいっ――やつは鈍重って設定だからあんたらが先に行動していいわよ」
「――まずはわしから行くがよろしいかな?お二人さん」
「ええ」
「ああ」
「ならばわしは先ほど抜いた大錠門を振り上げ、奴の両足を一閃する事にしよう、技名は灰雪斬、灰も雪も一緒くたに切り裂く白き穿孔よ!」
「ロールをどうぞ」
根上から差しだされたサイコロを一度だけ振り、出た目と素質を足し合わせて数値を決める。
「出た目は四、二十九にかけて、百十六、れーてんいちかけて、十一てん六、四捨五入で十一ダメージ、命中はしたって事にするわ、だって、着地したばかりで遅かったんだもの(一撃でミノさんの体力の四分の一ほどを持っていかれたわけだし、当然転倒するわね)ミノタウルスは転倒、続いてゴミクズの番よ」
「俺はもう一度おかしな点が無いか運試しだ、なんとしてでも何か閃いてやる!」
萩島は烏の前に転がっていたサイコロと根上の前にあるサイコロをとって根上の指示を待った、順番を待っている槇原はニコニコと楽しそうに微笑んでいる。
「そうね、もう一度さっきと同じ条件でいいわ、どうぞ(どうせ無駄よ、十二分の二よ?出るわけないじゃない)」
根上はほくそ笑んだ、短い間ではあったが楽しかった、と、また今度やるときはもっとシナリオとか、キャラクターを作り込んで遊ぼうと心の内で呟く。
「行くぜ! ダイスロオオオオオオオオオオオオオオオルッ――運よ、頼む! ダイスよ答えてくれええええええええええええええ」
サイコロはゆっくりと回転し、その目を開いてくれた。
根上と萩島以外の二人が息を呑み、感嘆の吐息を吐いた。
「出た目は十一だぜ、さあ、思いつかせてもらおう――ゴミクズこと俺は悩みに悩んだ、そして、一つの天啓を得、倒れているミノタウロスの首輪に何かがついている事に気がついた、それは”鍵”ッ――その鍵は恐らく奥の部屋のドアの鍵、俺はその事を天才魔法少女ことマキに伝えた! さあ、これが答えだ! 根上碧海、お前はGMという立場を上手く利用して俺達を倒すのではなく、永遠に迷宮に閉じ込めておく事でゲームオーバーにしようと考えたに違いないぜ、TRPGにおいて全てを判断するのはGM、つまりお前はGMこそが魔王っぽいと考えたんだろ、だが、それも終わりだ」
萩島は前方で口をあんぐり開けたまま間抜け顔をしている根上から視線を外し、隣で微笑んでいた槇原にアイコンタクトを謀った。槇原はそのコンタクトを受けて、分かってるよ、とウインクをしてみせ、根上に告げた。
「――GM、私は今持ち合わせるラスボス級の魔力を解き放ってミノタウルスの首輪を残してミノタウルスを消したいんだけど・・・良いですか?」
根上碧海は項垂れて、ひらひらと手を動かして返事を返す。
「いいわ、どうせアンタ最強の魔法使いって設定だし、ダイスロールはなしで成功。ミノタウルスは究極の白魔法、全てを無に帰す光によって消えてしまいました、三人は残されたミノタウルスの首輪から鍵を入手、見事部屋のドアを開けて外に出る事が出来ました、後適当に会話してエンディング迎えちゃってー」
根上による敗北宣言後、三人は嬉しそうに役を演じ始めた。
「これで本当にお別れなんだな」
「そうじゃ、これで終わり、わしとお前さんは時代が違う、いや、それよりもわしは当の昔に死んでおるしのう、わぁはあっはあっはっはー・・・今まで本当に有難うでござった、ゴミクズ殿、そして短い間ではあったがマキ殿、これでわしらの冒険は終了じゃな、楽しかったよ」
「いいえ、私こそ、体よく利用したみたいで悪かったわね、二人とも、でも、これで本当に終わり、さようならね」
「ああ、二人とも、俺も楽しかった! 名前の通りゴミみたいな力しか持ち合わせていなかったけど、最期に役に立てて嬉しかった!」
三人が嬉々として語り終えた後、唐突に槇原がすっかり落ち込み、机に突っ伏していた根上に声をかけた。
「GMさん、ロール良いかな?」
槇原の言葉に顔を曇らせる萩島、
「ん?どうして今ロール?」
にやにやしながら槇原の言動を訝しむ烏、
「いやはやまさか・・・」
二人の外野を無視、そのままの姿勢を保ちつつ、ややふて腐れた口調で根上が答える。
「いいわよ~お好きにどうぞ~」
「そうですか、ありがとうございます、ではっ!」
槇原はGMの言葉に嬉々として二つのサイコロを振った。出た目は二つとも六、クリティカルヒットといったところだろう。
「――やった!」
槇原は未だに不思議そうな顔をしている二人に顔を向けて言い放った。
「二人とも、今まで有難う、実はこの迷宮の脱出装置は一回、しかも一人用なの、それじゃ、ゲームオーバーになってね――黒魔法、裏切りの黒い爆炎、クリティカルだから四捨五入した後に×二、するね」
「「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」」
二人の男の叫び声の中でぽつりと五十ダメージね、という少女の声と、くすくす笑いが混じった。
後書き
あとがきって言っても良いのかも知れない何か
こんにちわ、西宮竹時と名乗り始めてから二作目、『根上碧海さんは魔王になりたい!』でした。
作品と呼ぶにはあまりにもちゃっちい物ですが、書き終えた瞬間のまだ書き続けたい感は半端ないです、元々は嫌々書き始めた今作、コンセプトはギャグとTRPG、詳しいことなんか何一つ書いてありません、ただただ、TRPGやってみませんかい?って言いたいが為に題材にあげました物です。すいません、もっと真面目に書くべきだったと思っておりますし、もっとコンパクトにまとめてTRPGさせてあげればよかったとも思っております。
次は人生初のラブコメ作品に手を出します。
見苦しいと思います、また読んでいて吹き出してしまいそうに、いや、吹き出す事間違いありません(シリアスなのにギャグじゃねーか(笑)的なニュアンスで)
でもまあ。それなりに一生懸命やりますよ。ええ、やらせていただきますよ。作品の構成上達の為に。
何も思い入れの無い作品をここまで読ませておいてすみませんが、次はちょいと重い腰を上げる事になると思うので、まあまあ面白くなるかと。
期待薄ですがね。
書くのに疲れたので、今回は控え目に終わらせたいと思います。
『根上碧海さんは魔王になりたい』でした。
他の作品もよろしくお願いいたします。
ちょっとばかり真面目過ぎたかな?
西宮竹時
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