シャンタウゼー
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1部分:第一章
第一章
シャンタウゼー
アメリカのとある街。そこに子供達が集まっていた。
「おい、聞いたか?」
「何をだよ」
如何にもアメリカといった感じの洒落て、それでいて何処か汚く喧騒の味がする路を歩きながら話をしている。誰も彼も帽子や服をわざとだらしなく身に着けて足や首を微妙に動かしている。歳は皆ハイスクールといったところか。背こそ大きいが顔つきはまだ幼さが残っている。
「駅前に出店ができただろ」
「駅前?」
黒人の少年の言葉を聞いて金髪の白人の少年が声をあげた。何かに気付いたかのように。
「あれか?ポップコーン屋の」
「そう、あの店だよ」
黒人の少年は金髪の少年の言葉に応えて頷く。その通りだと言わんばかりに。
「あのアジア系の爺さんのやってる店だけれどな」
「おい、あれは違うみたいだぜ」
黒人の少年の言葉に茶髪で顔中にソバカスのある白人の少年が言った。やはり彼もだらしなく見える格好に動きをしている。それがどうもまだかじったばかりのラッパーのように見える。無論彼等は本当にラッパーのつもりなのだが残念ながらまだそこまでは達していないのだ。
「違うって?」
「あれネイティブだぜ」
少し浅黒い肌のもう一人の少年が言う。見たところヒスパニックのようだ。その肌の色とラテンチックな顔がそれを教えている。どうにもアメリカらしい顔触れの少年達である。その格好も今いる場所もそうだった。その彼等が今本来からいたアメリカの住人の話をはじめたのだった。
「ネイティブ?この街に来たのかよ」
黒人の少年はそれを聞いて声をあげる。同時に顔を少し顰めさせた。
「西部からわざわざ出て来て」
「そりゃこのデトロイトにも来るだろうな」
茶髪の少年が言葉を返した。
「移動は自由なんだからな」
「いや、それでも」
それでも黒人の少年は言う。
「かなり遠いぜ。それでもよ」
「まあその爺さんにも何か事情があるんだろ」
茶髪の少年はまた言った。
「色々とな」
「それでその店のポップコーンは美味いのかよ」
ヒスパニックの少年の言葉は実に素直なものだった。
「美味いんだったらいいけれどな」
「さあな」
それを知っている者はいなかった。随分あやふやな状況と言えた。
「それもどうだか」
「俺も食べたことないしな」
「何だ、そうなのか」
ヒスパニックの少年はそれを聞いてどうにも落胆を感じた。それでは行っていいのかどうかもわかりかねたからだ。これは仕方がなかった。
「まあそれでもいいな。まずは食べてから」
「そうだな」
「じゃあ行くか」
他の三人も彼の言葉に頷いた。そうしてそのポップコーン屋に向かうのだった。
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