炎の王
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1部分:第一章
第一章
炎の王
紅蓮に包まれた巨人だった。髪も髭も炎であり身体は灼熱の色だ。
その巨大な姿を見せてだ。彼はそこにいた。
この世の全てが息絶え燃えようとしている。巨人は今一人の男と対峙していた。
右手に鹿の角の武器を持っているこの男は見事な金髪に青い澄んだ目を持っている。顔は白く目元は涼しく眉の形は細く長く切れている。
口は紅で小さく鼻が高い。見事な美男子である。
男はだ。こう巨人に言うのだった。
「スルトだったか」
「如何にも」
巨人はその通りだと答えたのだった。
「それが我が名だ」
「そしてその剣は」
その巨人スルトが左手に持っている剣を見た。これまた炎の色でありしかも燃え盛っている。男はその剣を見て言うのであった。
「レーヴァテインか」
「全てを知っているな」
「知らない筈がない」
そうだと返すのだった。
「この世の全てを焼き尽くす剣のことはな」
「そうか、ではだ」
「何だ」
「フレイよ」
スルトは男の名前を呼んだ。
「虹と豊穣の神よ。貴様に問う」
「それでここにいるのか」
「私がここにいるのはこの世界を無に返す為」
その為だというのだ。
「貴様を滅ぼす為ではない」
「私に去れと言うのか」
「それは言わない」
違うというのである、それとはだ。
「私は戦うことについてはやぶさかではない」
「それについてはか」
「そうだ、炎の巨人は戦いを拒むことはない」
彼はまた言った。
「だからだ。それはいい」
「そうか」
「しかしだ」
このことを話してからだ。またフレイに対して話すのだった。
「貴様は何故ここに残っている」
「まだそのことを問うのか」
「この世界は貴様が本来いる世界ではない」
スルトはこんなことも言ってきた。
「違うか」
「私はだ」
「うむ」
「ヴァン神族だ」
それだというのである。
「確かにアース神族とは違う。ここを治めていた者達とはな」
「そうだな。では戦う理由はない筈だ」
スルトはそれを理由としてきた。
「ましてや。貴様のあの剣」
「勝利の剣か」
「あれがないのだぞ」
「確かにな」
「あの剣は貴様に確実に勝利をもたらした」
今はないその剣のことも話された。
「例え私であろうともだ」
「誰であろうが勝利を収める」
「その通りだ。貴様にはそれがない」
「つまり私が負ける」
「その鹿の角では私には勝てはしない」
その鹿の角を見てだ。フレイにさらに言った。
「貴様は間違いなく敗れることになる」
「そうかも知れない。だが」
「それでも戦うか」
「その通りだ。私は戦う」
あくまでこう言って下がろうとしない。その目には確かな意志があった。
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