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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epico18-Aミッドベルカ相搏つ

 
前書き
ミッドベルカ相搏つ/意:ミッドチルダ式魔法の使い手チームと、ベルカ式魔法の使い手チームが、勝利を目指してゲームするというたとえ。 

 
†††Sideなのは†††

7月上旬。私たちチーム海鳴メンバーは今から夏祭りに出掛ける予定。土曜日の今日、スケジュールを合わせてみんな一緒に休みにして、午前中はドクターたち第零技術部――スカラボのみんなの協力で、本局のトレーニングルームを2時間コースで借りて、チーム海鳴で模擬戦。

「にゃはは(やっぱり強かったなぁ~、ルシル君)」

つい思い出し笑い。でもようやくルシル君にひと泡吹かすことが出来た。ミッド式とベルカ式を混同してのチーム分けで、私とすずかちゃんとフェイトちゃんとアルフとはやてちゃんとリインとシグナムさんのチーム、アリサちゃんとシャルちゃんとルシル君とヴィータちゃんとシャマル先生とザフィーラのチームだ。

(ジャンケンで決めたチーム分けだったけど、それでもルシル君ひとりにガッツリ負けそうになったよね)

でもシグナムさんとアルフの2人でアリサちゃん達を食い止めて、すずかちゃんと、リインとユニゾンしたはやてちゃんでルシル君を足止め、私とフェイトちゃんのコンビネーション・ブラストカミリティで纏めて撃墜しようとした時、ルシル君がチームメイトを庇うように前に躍り出た。

(ルシル君は強い。自分を護って、他の誰かを護れる強さを、そして自分より誰かを優先する優しさも持ってる)

だからこういう事態も起きる。ブラストカラミティをほぼ1人で防いだルシル君は戦闘不能。余波に巻き込まれたシャルちゃんも崩れ始めて、私の砲撃やフェイトちゃんの速度に物を言わせたフィールドかく乱、はやてちゃんの広域攻撃で、私たちは勝利。同じチームで2戦目をやって、ルシル君とシャルちゃんのコンビ―ネーションに完膚なきまでのズタボロにされた。いやぁ~、強かった。

「――良し。浴衣の着付けも無事に終了♪」

鏡の前でくるっと1回転。お母さんに何度も教わったからもう1人でも出来る。浴衣も帯も着崩れ無し。箱付き巾着を手に部屋を出て真っ直ぐに玄関へ。そこで下駄を履いて、「いってきまーす!」家には誰も居ないけど一応、挨拶。お父さん達はみんな翠屋でお仕事中だから。玄関の鍵を閉めていると、「なのは!」私の名前を呼ぶ声が後ろからした。

「シャルちゃん、フェイトちゃん、アリシアちゃん、アルフ!」

浴衣姿のフェイトちゃん達(アルフだけはいつもの私服姿だけど)が迎えに来てくれた。シャルちゃんとアリシアちゃんが「待ち遠しくて来ちゃった♪」その場で1回転して浴衣姿を見せてくれたから「2人とも、それにフェイトちゃんも可愛いよ♪」拍手。

「なのはも可愛い❤」

「結論、みんな可愛い~❤」

「う、うん。可愛い」

みんなでハイタッチ。とりあえず携帯電話で写真を撮ろうってことになって、3分ほど写真を撮り合った。みんなと合流したらまた撮ろう。大体満足したところで時間確認する。時刻は2時ちょっと前。約束してる時間は3時。集合場所は夏祭りの会場、海鳴臨海公園。現地集合っていうことで、「早めに着いておこうか」私を迎えに来てくれたシャルちゃん達と一緒に向かう。

「そうだね。ギリギリで着いて待ち合わせに遅れるのもどうかと思うし」

「アリサもすずかも、はやてもきっと同じ考えに至ってるだろうしね~」

「あんまし早く着いたら、先に何か買ってようよ!」

「肉あるかなぁ~、肉♪」

「ダメだよ、アリシア、アルフ。屋台巡りはみんな揃ってから」

「は~い」「へ~い」

フェイトちゃんに注意されたアリシアちゃんとアルフは肩を落としたけど、表情や放ってる空気は明るい。ちょっとやそっとで崩れるようなテンションじゃないんだよね、やっぱり。私もお祭りに行こうって約束をしてからずっとテンション上がりっぱなしだよ。

「そう言えばアリシアちゃん。デバイスの方はどうだったの?」

臨海公園への道中、私はアリシアちゃんにそう訊いてみた。アネアの遺跡探検からもう1週間弱。採って来た鉱石は第零技術部――通称スカラボに預けて、アリシアちゃん専用のデバイス制作をドクターにシスターズ、そしてすずかちゃんにお願いしたって話なんだけど・・・。

「う~ん、それがさ、なかなかデザインが決まらなくって。しかもフェイトには連没くらうし」

アリシアちゃんが溜息を吐いてフェイトちゃんをチラッと横目で見ると、フェイトちゃんは「アリシアが欲張りすぎなんだよ」って呆れた。どういうことか訊いてみると、アリシアちゃんは自分のデバイスが持てるってはしゃいで、いろんな機能を次々と取り入れたいって無理難題を言い始めたそう。

「だって~。正直、諦めてたわたしだけのデバイスが出来るっていうんだもん! 鉱石のおかげで時間制限付きだけどAA+ランクの魔力も手に入れることも出来たし! そう簡単に決められないよ!」

アネアの遺跡で採取した鉱石は、初めて触れた人の魔力を記憶するっていう特殊な能力を持ってる。その鉱石に持ち主が魔力を流すと、鉱石は魔力を何倍にして返還してくれる。普通に考えて負担がありそうな能力。一応、セレネちゃんやエオスちゃんは負担があるかどうか判らないって言ってた。
だけど、アリシアちゃんの身体やリンカーコアには負担が掛かるみたい。やっぱり魔導師としての経験差が大きいらしい。でもアリシアちゃんはそれ以上に戦える力を手に入れた嬉しさ・喜びで、その苦痛もどうってことないって笑ってた。

(シャマル先生が言うには、アリシアちゃんもリンカーコアを使う機会を増やせばいつかは慣れるって言ってたし・・・)

「だからって剣や槍や杖や鞭や双銃を詰め込むなんて欲張り過ぎるよ、アリシア。それだけならまだしもマイクにハリセンとかって意味不明」

「にゃはは・・・。確かにマイクもハリセンもあんまり必要性ないよね・・・?」

この分だとアリシアちゃんのデバイスが完成するのは当分先みたいだね。そんな話をしていると、「お、なのはちゃん達や。おーい!」どこからかはやてちゃんの声が。臨海公園に近づくにつれて人の数が増えてきたから、子供な身長だと見つけるのは難しんだけど・・・

「うわぁ、メッチャ目立ってる・・・」

「行きかう人の視線が集中してる・・・」

はやてちゃんたち八神家は美人さん揃いだからとんでもなく目立つ。はやてちゃんもヴィータちゃんもシグナムさんもシャマル先生もアインスさんも、人型形態になってるザフィーラも浴衣姿。それにリインもヴィータちゃん程の身長になってて、これまた浴衣姿。前から練習してるっていうアウトフレームだね。

「で、ルシルも大人形態ってわけかい。にしても随分と胸元を開けてるじゃないか」

ルシル君は大人の姿をした状態で浴衣姿なんだけど、いつもは衣服の乱れなんて良しとしないでビシッとしているのに今回は着崩してる。なんていうかルシル君らしくない着こなしだ。

「あんなチャラ男なルシルも良い❤・・っていうか・・・」

シャルちゃんがうっとり。でもすぐに不機嫌そうになる。それは私やフェイトちゃん達も疑問に思ってることに関係してると思う。それははやてちゃん達の輪の中に混じってる女の人のこと。艶やかな黒髪は地面に届くくらいに長い。その人もまた浴衣姿で、ルシル君の腕にべったりとくっついてた。まるで恋人。

「誰あれ? なんか見憶えのあるようなないような・・・? とにかくルシルにベッタリし過ぎ! はやてもはやてだよ! なんであんなにこやかに喋ってるわけ!?」

大変です。シャルちゃんがかなりキてます。はやてちゃん達がこちらに向かって来るんだけど、その最中にも女の人は「うっとおしい、離れろ、馬鹿犬」ってルシル君に怒られながらも「ヤです~❤」って頬擦りを止めない。終いには「チュー❤」ルシル君の頬にキスした。

「っ!?・・・テメェの血は何色だぁぁぁぁーーーーっ!!」

「シャルちゃん!?」「「シャル!?」」

シャルちゃんがそんなこと(また漫画の影響かなぁ?)を叫んで、ルシル君に「いい加減にしろ!」って怒鳴られても笑顔のままな女の人に向かって駆け出した。止める間もなく突撃していったシャルちゃんは、ルシル君と女の人の間に割って入ろうとするんだけど・・・

「「「「あ」」」」

女の人にベシッとおでこを叩かれて受け流された。それでもシャルちゃんは「こんにゃろぉぉーーーっ!」諦めずに再突撃すると、「まぁ、待て、シャル」ルシル君がシャルちゃんの頭に手を置いて止めたら、「説明プリーズ!」シャルちゃんはそう言って女の人を睨んだ。

「とりあえず。なのは、フェイト、アリシア、アルフ。こんばんは。浴衣、似合っているよ」

「なのは達が可愛いのは解ってるから! 説明!」

私たちの浴衣を褒めてくれたルシル君にお礼を言うより先にシャルちゃんが説明を急かせた。ここで「ルシル君の使い魔なんよ」はやてちゃんがそう教えてくれた。続いて「そういうわけだ。紹介するよ。俺の使い魔、名をフェンリル」ルシル君が紹介してくれた。
フェンリルさん。4月の始業式くらいにルシル君やはやてちゃんから聞いてたのを思い出した。確かアルフやザフィーラと同じ狼素体(だから馬鹿犬呼ばわりなのかなぁ?)の使い魔で、ルシル君が猫派とする原因だったっけ。

「ども~♪ 我が愛おしきマスターの第一の使い魔、フェンリルです❤ よろしく、キラーン☆」

それにしても見た目に反してすごく子供っぽいなぁ。戦闘中でも抱きついて来るって言ってたけど、フェンリルさんを直に見て納得も出来た。あの様子なら確かに場所を選ばずにルシル君に抱きつくと思う。それはともかく私たちも自己紹介すると、「ん。よろしく♪」笑顔をくれた。

「とまぁ、そういうわけだから暴走するな、シャル。せっかく可愛く着飾った浴衣が乱れて台無しになるぞ」

「うん、やめる❤」

ルシル君の褒め言葉1つでシャルちゃんは大人しくなった。ちょろい、ちょろ過ぎるよ、シャルちゃん。まぁ、その方が私たちも変に巻き込まれたりしないで済むから助かるんだけど。それから改めてはやてちゃん達と挨拶を交わして、お喋りしながら臨海公園へと一緒に歩き出す。

「あのさ、ルシル君。その、どうしてそんなに着崩してるの・・・?」

胸元を肌蹴させてることで胸板が結構見えちゃってるから、ちょっと目のやり場に困るというかなんというか。お父さんやお兄ちゃんのものなら気にならないんだけど、ルシル君はなんか色っぽいから気になってしょうがない。

「冬、男物の着物を着ていたのに女に何度か間違えられた。あんな思いはもう嫌だ!」

「えっと、だから・・・?」

「こうして男らしい胸を出しておけば否応なく俺を男と判別できる! 良い方法だろ!」

「あー、そういうこと・・・」

今のルシル君を見て女の人って間違うような人は確かに居ないと思う。でも周りの女の人を見て、ルシル君。すっごい注目されてるよ。さらに彼氏さんが不機嫌そうだよ。あとあんまり露出するとお巡りさんに目を付けられるかも。

「むぅぅ~~~」

「グルル・・・!」

私に力説してくれたルシル君は、サラッと始まったシャルちゃんとフェンリルさんの睨み合いに「いい加減にしろ~、お前ら~」呆れ口調で注意。

「だってコイツが威嚇してくるんだも~ん」

「コイツとは無礼な! マスターは渡さないから!」

「獣がわたしの恋路を邪魔しようっての!? 冬に備えてあんたの毛皮でふかふかコートを作っちゃる!」

「面白いジョークどうもありがとう! 返り討ちにしちゃうから!」

「だからやめいと言うに! フェンリル、大人しくしないと召喚を即解除するぞ」

「はいっ、やめます!」

「シャル。君もやめないと、なに1つとして奢らないぞ」

「はーい、やめまーす!」

「「「ちょろい・・・」」」

私とフェイトちゃんとアリシアちゃんの声がダブった。これが世に言う鶴の一声。でもシャルちゃんとフェンリルさんは隣に並ぶようなことはしないで、ちょっと距離を開けてる。ん~、仲良くしてほしいなぁ。

「ねえねえ、ルシル。シャルにだけ奢るってふこう~へ~! わたしにもなんか奢って~!」

アリシアちゃんがルシル君の袖を引っ張ってお願いすると、「いいよ」って即答。フェイトちゃんが「良かったね」ってアリシアちゃんに微笑みかけると、ルシル君は「フェイト達にも何か奢るよ」って言ってくれた。変に断るのもルシル君に悪いし、「ありがとう」ここはお言葉に甘えて奢ってもらおうっと。

「それにしてもすごい人やなぁ。ヴィータ、リイン、はぐれへんようにな」

「リインちゃんは私がしっかりと手を握っていますから大丈夫ですよ~♪」

「ヴィータ、しっかりと私の手を握っていろよ」

「けっ。あたしはそんなガキじゃねぇのによ~」

シャマル先生はリインと手を繋いで、シグナムさんはヴィータちゃんと手を繋いでる。一応、念話っていう手段もあるからたとえはぐれても大丈夫だと思うけど、はぐれないに越した事はないからそのままでもいいよね。

「あ、なのはちゃん達みんな揃ってる!」

「あたし達が最後になっちゃったわけね」

アリサちゃんとすずかちゃんと無事に合流することが出来た。そんな2人の目が真っ先に向かうのはやっぱりルシル君とフェンリルさん。そんな2人にもルシル君の着崩し姿やフェンリルさんのことを伝えた。フェンリルさんのことは何事もなく受け入れたけど・・・

「ルシル。やっぱ胸を隠しなさい。ただでさえ目立ってんのに、そんな露出狂のような格好は余計目立って素直に楽しめないわよ!」

「目のやり場がちょっと・・・。ルシル君が女性に見られたくないって気持ちも解るけど、ここはごめんなさいだけど・・・」

でもやっぱりアリサちゃんとすずかちゃんもルシル君を見て顔を赤くした。だけど「悪い。だけどもう・・・女性に見間違えられるのは嫌なんだ・・・」ルシル君は拒否。

「あーもう、判ったわよ」

「だ、大丈夫。すぐに慣れると思うから、うん」

ルシル君からの懇願に、アリサちゃんとすずかちゃんが折れた。とにかくこれでチーム海鳴のメンバーは揃った。ということで、「よぉーしっ! 屋台巡りにゴーっ♪」シャルちゃんの言うように夏祭りの醍醐味、屋台巡りに行こう。

†††Sideなのは⇒フェイト†††

海鳴市に移り住んでから初めての夏がやって来て、私たちチーム海鳴は夏にだけ開かれる祭りにやって来た。私たちにとってたくさんの思い出のある場所、海鳴臨海公園全体が会場になっている。浴衣っていう、冬に着た着物の薄手バージョンみたいなこの国特有の衣服を着た私たち。この夏祭りに来てる女の人の大半は浴衣姿だ。

「さて。縁日には無かったゲーム系の屋台も数多い夏祭り! さらに食べ物系の種類もまた然り! 今日1日で全店回れる自信は無い!! どうしてこんなに多いのか! 嬉しいけど!」

私たちの先頭に躍り出たシャルがくるっと半回転して私たちに向き直って、両腕をバッと大きく広げたうえでそう言った。というかシャル。浴衣であんまりそういうことしない方が良いかも。ふとももまで見えちゃってるから。下手すれば下着まで見えちゃうから。

「まぁ、夏は冬とは違くて外で活動しやすいしなぁ。冬は単純な寒さとか寒さ対策での支度が大変な所為であんま外に出たないけど、夏は薄着すればええだけやから活動しやすいんやよ」

「うん。はやてちゃんの言う通りかも。冬はコタツや暖房の誘惑があるから、あんまり外に居たくないもん。もし冬祭りがあってもちょっと長居は遠慮かも」

「あー、うん。コタツは確かにすごい誘惑だよね」

私もアリシアもアルフもコタツには弱い。シャルは「なるほど! そういうわけか! あんま気になんないけど!」なんて満面の笑顔を浮かべる。元気過ぎて四季の暑さ寒さなんてあんまり関係ないかも。

「つうか、テンション高ぇなぁ、お前。引くわぁ・・・」

「引かないでよ、ヴィータ! ヴィータだって初めての夏祭りにウキウキ♪ドキドキ☆なんでしょ!?」

「えーい、抱きつくな暑苦しい! それに初めてじゃねぇよ。去年もこの祭りに来たっつうの」

「へぇ、そうなんだ。私も、なのはちゃんやアリサちゃんと去年来たんだよ」

「もしかしたらどっかでニアミスしてたかもね」

「そうかもしれへんな~」

私とアリシアとアルフ、シャルがこの街に戻って来る前の話だ。ちょっと疎外感。シャルはそんなことを気にせずに「脱線カッコ悪い! 去年の話は置いておいて、話を本題へ戻します!」パンッと手を強く叩いたら、「逸らしたのはお前だけどな」ヴィータがボソッとツッコみを入れて、「ヴィータちゃん。しぃー、ですよ」リインがヴィータの袖を引っ張った。

「食べ物関係については縁日にもやったように人数分を買うんじゃなくて、3人で1つを分け合うようにしよう! さてここで屋台巡り初のリイン。何故だか判るかな?」

「えっ? えっと、その・・・ごめんなさいです、シャルさん。リインには判りません」

「ふっふっふ。1人1つの食べ物を買って食べました。次の屋台でも1人1つの食べ物を買って食べました。それを繰り返すとどうなる?」

「・・・すぐお腹がいっぱいになります」

「でもまだまだ食べたい物があります。どうしたらいい?」

「・・・あっ、なるほどです! 分け合うことでお腹が膨れるのを阻止するのですね!」

「Yes, that's right! お腹に空きを作れるからいろいろな食べ物を食べられるのだ!」

「すごいです、素晴らしいです、シャルさん頭良いです!」

すっごい笑顔と若干のよだれを見せるシャルとリインの周囲に花畑が生まれたような幻視が・・・。でもシャルのこの作戦はなかなか良くて、いろんな美味しいものを食べることが出来るから反対意見は1つとして出ない。一通り食べた後は、お気に入りの物をそれぞれ好きに購入して、1人でゆっくり食べるんだ。

「食べ物系はそれで良いとして、ゲーム系はどうするの?」

「「やっぱり勝負でしょっ♪」」

すずかの問いに答えたのはシャルとアリシア。好きだなぁ、勝負事。でも私も嫌いじゃない。こういうゲームとかは楽しいから。だから「私も賛成」って小さく挙手。

「面白いじゃない。日本の祭りのゲームで負けるわけにはいかないわ!」

「個人戦だと大変だからチーム戦で良いんじゃないかな?」

「あ、じゃあいつものミッド式チームvs.ベルカ式チームでやる?」

「それやと慣れてへんメンバーが多く居るわたしらの負け確定やない?」

「シグナム達はどうだ? 俺としてはシグナム達もすぐに上手くなると思うから、ベルカ対ミッドで良い勝負になると思うけど」

八神家のリーダーと副リーダーのはやてとルシルの意見が分かれた。私たちミッド組は口を噤む。シグナムたち騎士は、主のはやての意思を尊重して優先する。でも、「主はやて。我々は大丈夫です」シグナムも、「慣れてないから、って理由で退くわけにはいかないしな」ヴィータも、「ええ。私もベルカの、八神家の一員として頑張ります」アインスも、ルシル側に付いた。

「私は、はやてちゃんと同じチームで頑張りたいです!」

「リインもです! はやてちゃんとルシル君、シグナム達みんなと同じチームで・・・なのはさん達を倒します!」

「倒されちゃうの!?」

「こういう場合は、勝ちます、だな、リインよ」

「はいです、ザフィーラ!」

「そうやな。家族の絆を見せつけような!」

「決まったみたいね。じゃ、チーム海鳴恒例! ミッドチームとベルカチームによるゲーム屋台勝負、夏の陣! In夏祭り! いざ、出陣!」

こういうお祭り騒ぎ(夏祭りだけに)は大抵シャル(時々、+アリシア)が取り仕切ることになってる。もう暗黙の了解みたいになってるから誰も文句は言わないし、そもそも一番の適任だって思ってるから、喜んでお任せするよ。

「というわけで、なのは、アリサ、すずか、フェイト、アリシア、アルフのミッドチームと、はやて、ルシル、シグナム、ヴィータ、シャマル先生、アインス、リイン、ザフィーラ、あー、あとお邪魔虫、そんでわたし・・・」

「ちょっと待ちなさいよ! ベルカチームの人数が多いじゃない! 誰か、こっちに来なさい!」

「お邪魔虫って私のこと? ねぇ、そこの小娘」

「そうだなぁ。じゃあ、わたしがミッドチームに異動するよ♪ 嗚呼、愛し合うわたしとルシルは、人数合わせという悲劇によって敵・味方に分かれて戦い合う運命なのね! なんていう悲恋! でも負けない! 戦いの果てにきっと結ばれるのだから!」

「シカト!?」

「俺っていつからシャルと愛し合ってたんだろうな」

「そうやなぁ、きっと夢の世界でちゃう? シャルちゃん、ホンマにしゃあないなぁ、あはは」

自覚があるのかないのか判らないけど(あるとは思いたくな~)はやてがサラリとキツいこと言った。シャルは自分の世界に入ってて聞いてなかったから反応はないけど、聞いちゃった私たちはシーンと口を噤んで、努めて聞かなかったことにした。

「え、えっと・・・それでもまだ2人多いよね・・・」

「我が主。我は荷物持ちに徹す故・・・」

「そうか? ザフィーラ、遠慮とかやったら無用やよ?」

「いえ、そういうわけではありませんが。ただ道中に買った物が増えていくとどうしても手荷物が・・・」

「・・・おおきにな、ザフィーラ。頼めるか?」

「お任せを」

ザフィーラが抜けてもまだあと1人、ベルカチームの方が多い。まぁ、1人くらいならどうってことないと思うけど。ルシルが「フェンリル」って、ルシルの数居る使い魔の中でも正式な使い魔っていう女の人、フェンリルの名前を呼んだ。

「えええ!? 私が手荷物番ですか!? そんな御無体なぁ~・・・」

ガーンとショックに歪む表情のフェンリルがルシルにしがみ付いた。ルシルは「違う。最後まで話を聴け。あと暑苦しい、離れろ」ってフェンリルの両肩に置いて離そうとしたけど、「やーだー!」フェンリルはルシルの腰にしがみ付いて離れようとしない。ルシルの表情がイラッときた、というものに変わった。

「フェンリル、お座り!」

「はいっ!」

まるで犬のしつけのような掛け声。フェンリルは地べたに女の子座りした。他の人からの視線が一気に集中したことで、「っ! 立て、今すぐ!」ルシルがハッとして慌ててフェンリルの両脇に手を差し込んで強制的に立たせた。それから「あはは、どうも」愛想笑いを振りまきながらルシル君はフェンリルの手を引いて走り出したから、「待って!」2人を追いかける。

「あーくそ。いつものクセで犬扱いした・・・!」

「マスター? 私は犬じゃなく狼ですよ~?」

追いついた時、ルシルは頭を抱えていて、フェンリルはそんなルシルの背中に覆い被さるような体勢でもたれかかってた。そんな2人に「ルシル君、フェンリルさん!」はやてが声を掛けると、「ごめん、はやて、みんな。迷惑を掛けた」ルシルは深々と私たちに頭を下げた。私たちはそれだけで機嫌を損ねるようなことはないから、気にしないで、と返す。

「ありがとう。・・・それでだ。フェンリル。俺がお前の名前を呼んだのは、お前を荷物番にするためじゃない。男の俺も荷物番になるから、お前が俺の代わりに参加しろ。そう言いたかったんだ。ちなみに敗北は許さん。勝て」

「っ!・・・はい、我が主。神狼フェンリル。・・・絶対に勝って見せまーす! はやて達には勝利を! 小娘となのは達には敗北を!」

「はっ、上等じゃない! あなたとはわたしが決着をつける!」

シャルは見上げるように、フェンリルは見下すようにして、お互いにライバル意識を向けた。なんだろう、2人の間で火花が散ってるような・・・。で、シャルと同じルシルを慕っているはやては、「頑張ろうな、みんな!」そんな2人をスルーして、シグナム達と士気を高め合ってた。

「あたし達も頑張るわよ! 経験の利はこっちにあるんだから!」

アリサが大きく拳を空に向かって振り上げると、「オオー!」私と同じように経験の無いアリシアだけがアリサと同じように拳を振り上げた。と、アリサとアリシアから視線が向けられる。なんであんた達はやんないの?って。私となのはとすずか、それにアルフは顔を見合わせて、「おおー」小さく拳を上げた。

「シャル! いつまでも睨み合ってないで始めましょ!」

「あ、うん! まずはそうだなぁ・・・。あ、アレやろう!」

シャルがフェンリルとの睨み合いを切り上げて指差した屋台へと目を向ける。屋台には「輪投げかぁ~。初心者でも大丈夫だね」ってなのはがにこやかに言う。そういうわけで、初戦は輪投げゲームということになった。


 
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