極短編集
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短編49「北風のテーブルクロス」
その昔、どんな料理でも出してくれるというテーブルクロスが我が家にあった。
「君の誕生日なので我が家の家宝を紹介します!」
それは、僕が10歳の誕生日にパパが紹介してくれた。
「じゃーんっ!」
テーブルの上に、かけられたテーブルクロス。
「ねえねえ、それよりご馳走は?」
パパは、ママと一緒にニコリとした。
「ここから出るのよ!」
ママが、僕に顔を近づけ、ひそひそ声で教えてくれた。
「えっ!もしかして、北風のテーブルクロス!?」
パパは、ニヤリとした。
「パパ、何を頼むの?」
「何でもさ!さあ、好きな物をジャンジャン頼もう」
僕らは、ジャンジャン好きな食べ物を頼んだのだった。お腹がいっぱいになった頃、僕はパパに言った。
「ねえねえ、こんなに美味しいんだから毎日使おうよ!」
「いや、そう思うだろうけど、便利さは楽しさを奪うんだよ」
「だってママだって、ご飯作るの楽だよ」
「確かにそうかもしれない。でも、本当に美味しい食事というのは、そういう事ではないんだよ」
僕は、パパの話を聞いても、意味が分からなかった。
「それに……」
「それに?」
「本当は、ただの便利なテーブルクロスじゃないんだよ。なんていうかなあ……」
パパは、腕組みし始めた。
「まあ、そん時になったら説明するよ!」
そう言って、パパは笑った。
ある日、パパとママが交通事故にあった。パパとママの二人で買い物に出かけている間、僕は留守番をしていた。突然の事だった。電話が鳴り……
パパとママが、この世にはいないのを知らされた。
それからの毎日。
「トーストと目玉焼きと牛乳」
「カレーライスとサラダ」
「ラーメン」
食事は、テーブルクロスで取った。でも、美味しい料理でも……どんな美味しい料理でも、味気ないものだった。一番大切なのは料理ではなく……
パパとママが一緒にいてくれ、楽しく食べられる事だったのを知った。
「パパ、ママ……」
僕は、つぶやいた。
「パパ、ママ……また一緒に食べたいよ」
僕は、テーブルクロスにつっぷして、つぶやいた。
「パパとママと……一緒に食べたい」
涙で、テーブルクロスがにじんだ。
しばらくすると…
テーブルクロスが……
ぼんやりと、光り出した。
やがて、ガシャンガシャンと料理を落としながら、浮き上がっていった。テーブルクロスは、テーブルの上で輝きながら丸くなった。そして……
「うわっ~!」
輝きがさらに増すと、僕は目が開けていられなくなった!腕で光をよけたまま、しばらくが経った。
光がやんだ。
僕の目はくらんで、なかなか元には戻らない。次第に目が見えるようになって来ると、ぼんやりと人の影が見えた。
一人…
二人いた。
段々と見えてくる影……
「えっ!パパ?ママ?」
段々と見えた目には……
パパとママの姿があった。
「……ただいま」
パパが言った。
「会いたかったわ!」
ママが言った。僕は二人の胸に飛び込んだ。気づくと、さっきまで光輝いていたテーブルクロスは、どこにもなくて……
影も形も、無くなっていたのだった。
おしまい
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