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3部分:第三章


第三章

 そうしてだ。さらに話すのであった。
「では。そういうことで」
「左様ですか。では」
 そんな話をしてだ。彼はまずは夜を待った。そして辺りが暗くなったその時にだ。部屋を貸していた老人に対して問うのであった。
「さて、それではですが」
「化け物が出て来ます」
 老人は困り果てた顔と声になっていた。
「そのどうしようもないのが」
「ですからどうしようもない相手はいません」
 またこう言うラディゲだった。
「ですから御安心下さい」
「では何を使われるのですか?」
 老人はラディゲに対していぶかしむ顔で問うた。
「それでは」
「はい、これです」
 にこにことした顔で、であった。背中に背負っていたあのハープを持って来てだ。そうしてそのうえでまた老人に対して言ってみせたのだ。
「これを使います」
「ハープをですか」
「これを使います」
「あの」
 それを聞いてであった。老人は顔をいよいよ曇らせた。そうしてであった。
「そんなものでは」
「無理だというのですね」
「死にに行くつもりですか?」
 ラディゲを本気で心配しての言葉だった。
「あの、本当に」
「ですから私は必ず」
「化け物を退治されるのですか」
「そうですね、お酒を用意しておいて下さい」
 にこりと笑ってだ。余裕の笑顔での言葉だった。
「戦いの後で」
「お酒をですか」
「勝利の美酒です」
 それだというのである。
「それをです」
「本当に大丈夫ですか?」
「今から行って来ます」
 これ以上言わずにだ。そうしてであった。
「そういうことで」
「本気ですか」
「はい、本気です」
 また言う彼であった。
「そういうことで」
 こう話してそのうえで老人の家を出る。家を出ればその外は闇であった。夜の闇がそこに広がり全てを覆い尽くしてしまっていた。
 闇の中に見えるものは何もなかった。あるものは静寂だけだ。物音一つしない。他の家々も闇の中に消え何も見えない。ラディゲは今その闇の中にいた。
 その彼は今耳を澄ませていた。そしてハーブに手をやっていた。
 そしてそれを手にしてだった。奏ではじめたのだ。
 そのうえで村の中を静かに歩きはじめる。目が次第に慣れてきて家や小屋が見えてきた。やはりそこは荒廃しており朽ちようとしている村だった。
 そこを歩きながらハーブを奏でていた。するとだ。
 やがて気配がした。左手の広い場所になっているところにそれがいた。無数の目を光らせているそれこそがだ。その化け物だった。
 彼は無言でそのハーブを奏ではじめ歌を歌った。そのうえで少しずつ近寄ってくる化け物に向かっていた。それを受けているとであった。
 化け物の動きが次第に遅くなりだ。遂には動きを止めてしまった。そして静かに凍っていってだ。最後には粉々に砕けてしまったのであった。
 全てはこれで終わった。何とラディゲは歌とハープだけで全てを終わらせたのだ。朝その粉々に砕けて事切れている化け物を見てだ。老人をはじめとして村人達は驚きを隠せなかった。
「まさかと思ったけれど」
「ああ」
「本当に倒すなんて」
「剣も魔法も通じなかったのに」
「歌にも魔力があります」
 そのラディゲがだ。驚く村人達に対して飄々と話してきた。ここでもそうだった。
「そう、私は氷の歌を歌い奏でていたのです」
「氷の歌ですか」
「聴くと凍るあの技ですか」
「あれは本来はゆっくりと聴くもので短い戦いにしなければならない時は駄目ですが」
「それでもですね」
「この化け物には」
「使えました。そして実際に使いました」
 こう村人達に話すのである。
「それで、です」
「それで化け物を退治したと」
「何と」
「驚かれることはありません」
 ここでもであった。飄々とした言葉はそのままであった。
 
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