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転生とらぶる

作者:青竹
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番外編036話 if 真・恋姫無双編 06話

『……』

 黄巾党と一当てする為に集まった部隊。その部隊の指揮官の顔合わせが行われたのだが、早速その場は険悪な雰囲気になりつつあった。
 その理由は、やはり曹操軍から派遣されてきた人物が人物だったからだろう。
 黒髪のその女の名前は、夏侯惇。その名前を聞いてもピンと来ないアクセルだったが、他の部隊には曹操の片腕として有名であった為に、大きなざわめきをもって迎えられた。
 夏侯惇が挨拶を終えた後でアクセルを睨み付けているのだ。
 勿論これには理由がある。アクセルとの件で自らの主君である曹操の評判を酷く落としたというのを知った夏侯惇が、それを挽回するべく自ら申し出たのだが……意気揚々と向かった先には、その曹操が評判を落とした原因でもあるアクセルがいたのだから、無理もないだろう。
 更にそれだけでは終わらない。自らの戦力が少なかった為に曹操と行動を共にしていた劉備軍から派遣されてきた部隊。その部隊を任されていたのが関羽だったのだから、ここでも周囲の空気は悪くなる。
 劉備自体は曹操のようにアクセルと関わったせいで評判を落とした訳ではなかったが、それでもやはり関羽は以前アクセルと初めて会った時の態度で色々と言われており、その原因となった相手を見て不機嫌になるなという方が無理だった。
 しかも自らが劉備と同じくらいに敬愛している存在である人物が、アクセルの話を劉備から聞いた時に是非会ってみたいと口にしていたのも関羽の機嫌が悪くなっている原因だった。

(全く、ご主人様もご主人様だ。こんな素性の知れぬ者と会ってみたいなどと……)

 そんな風に内心で考えている関羽だったが、その様子を見ていた祭がどこか呆れた様にアクセルへと小声で話し掛ける。

「のう、アクセルよ。策殿から軍議での件は聞かされていたが、あちらの女には何をしたのじゃ?」
「道を聞こうとしてあの女の上役らしい女に声を掛けようとしたら刃を向けられた」

 アクセルの視線の先にあるのは、関羽の持っている長大な刃。青龍偃月刀だ。

「あれを……か。じゃが、そんな状態で何故お主ではなく向こうが……」

 そこまで告げた、その時。周囲に声が響き渡る。

「待たせて済まんな。ちょっと準備に時間が掛かった。私が今回指揮を任された華雄だ。よろしく頼む」

 そう告げたのは背の高い女だった。特徴的なのは、白髪に近い灰色の髪に手に持っているポールアックスのような斧だろう。

「指揮を任されはしたが、このように大勢の軍から派遣された部隊の集まりでは統一した指揮の下で動くというのは不可能だろう。それに、どのみち自分達の主君に黄巾党の情報を持っていく必要がある以上、それぞれが自己の判断で動く事とする」

 華雄の言葉に、その場にいた殆どの者が目を見開く。
 それぞれがバラバラに戦うのでは、烏合の衆でしかないのだから。

「それでは集まった意味がないのではないか?」

 派遣された部隊の中で30代程の男がそう告げるが、華雄は全く気にした様子も無く頷く。

「意味はある。ここにいる以上、ここにいるのはそれぞれの軍から派遣された一角の武将だろう。であれば、その武の力を持ってすれば黄巾党如き有象無象でしかない」

 そう告げる華雄の言葉に、一切の曇りは存在しない。真実、心の底からそう思っているのだろう。
 自らの武の力があれば、黄巾党如き何程のものでもないと。

「では、各々出陣の準備をせよ! 時間はないぞ、すぐにでも黄巾党を叩くのだ! 以上、解散!」

 その言葉と共に、その場にいた者達が去って行く。
 華雄の言葉に従うのは色々と不安があったが、それでも官軍としてこの場にやって来た以上、それに従わざるを得なかった。
 もっとも、その言葉全てが間違っている訳ではない。ここに派遣された部隊の者達は、皆それぞれ精鋭であり、そこには当然相応の流儀がある。その流儀が他の部隊と同じ筈もなく、各個に行動するというのは、自らの力をより十全に発揮させるという意味ではあるいはベストの選択であったのかもしれない。
 ……その精鋭をきちんと纏め上げる事が出来れば、より強力になっていたというのもまた事実ではあったのだろうが。

「アクセル、儂等も行くぞ」
「ああ。……いや、ちょっと待った」

 祭の言葉に頷きそうになったアクセルだったが、何故か華雄が自分達の方へと向かって近づいてくるのに気が付くと、立ち去ろうという動きを止める。
 祭もまた同じ事に気が付いたのだろう。その場で華雄がやってくるのを待つ。

「お主等が呉から派遣された部隊か?」
「は! この部隊の将を任された黄蓋と申します。こちらは補佐のアクセル」
「ふむ。……呉、か」
「華雄殿?」
「いや、何でもない。お主等も準備を怠る事のないようにな」

 そう告げ、去って行く華雄。
 何か言いたげではあったが、それを口に出す事が出来ない。……いや、したくない。
 そんな雰囲気を出していたのに首を傾げながらも、アクセルは祭の方へと視線を向ける。
 それに気が付いたのだろう。祭は苦笑を浮かべて口を開く。

「あの者と堅殿……策殿の母親の間にはちょっとした因縁があってな。恐らくその事に関してだろうよ。さぁ、それよりも準備を開始するからボケッとするでないぞ。お主も儂の護衛としてではあるが、きちんと働いて貰うのじゃからな」

 口元に笑みを浮かべ、バンバンとアクセルの背を幾度となく叩くのだった。





「曹操軍、敵部隊の中央を突破しました! その義勇兵である劉備軍もまた、その後に続いています!」

 兵士の報告に、獰猛な笑みを浮かべる祭。
 その2部隊の動きはここからでも見えており、実際その動きは見事と言う他ない。
 曹操軍の動きが若干無謀なようにも見えるが、劉備軍がそこを上手くフォローしているのだ。
 劉備軍は義勇軍であり、曹操軍の旗下で戦場を共にしてきた影響だろう。その連携は他の部隊とは違ってそれなりに様になっていた。
 そんな中、祭の部隊も迎撃をしようと出撃してきた黄巾党の横腹を突くかのような形で攻撃し、自分達の被害は最小限に抑えつつ黄巾党には大きなダメージを与えている。
 ……もっとも、弓を得意とする祭が前線で指揮を執りながら戦うという関係上、護衛であるアクセルも同様に最前線で戦う事となっていたのだが。
 尚、現在のアクセルの武器は鉄の棍が握られている。
 当初はアクセルが持っていた剣や、あるいは呉軍で使用されていた槍や矛といったものを使っていたのだが、この時代の武器だけあって冶金技術の類も未熟であり、非常に刃が壊れやすかったのだ。
 ……まぁ、その理由として、アクセルが剣や槍といった武器の扱いに慣れていないというのもあったのだが。
 そもそも、アクセルの本領はあくまでも人型機動兵器を使っての戦闘だ。生身の戦闘に関してもネギま世界で経験済みだが、その時は魔法を主として徒手空拳での戦いだった。
 それ故、剣や槍といった代物は殆ど使った覚えがなく、かなりの本数を訓練で破壊してしまったのだ。
 ただでさえ現在の孫呉は勢力的に弱小であり、壊れた武具の補修や買い換えに掛かる費用も馬鹿にならない。その結果、壊れやすい刃がついているのではなく、ただひたすら頑丈に鉄だけで作った棍がアクセルの武器となっていた。
 重さだけで50kgはあるような鉄の棍をアクセルの筋力で振り回すのだ。例え相手が鎧を着ていようともそんなのは全く意味がない。
 いや、そもそも黄巾党というのは農民が多く集まっている集団だけに、立派な防具を身につけている者自体が少ないという理由もあって、鉄の塊とも言える棍を振り回しているアクセルに触れるやいなや、吹き飛ばされているのだが。

(脆い……いっそこのまま、俺達だけでどうにか出来るんじゃないか?)

 ふとそんな風に思ったアクセルだったが、あるいはそれがフラグだったのだろう。アクセルの隣で弓を構えては矢を放っていた祭が舌打ちをする音が聞こえてきた。

「ええい、あの猪めが! 確かに敵は無象無象じゃが、今の状況で誰の援護もなく突っ込んではそうなるのは目に見えておるじゃろうに!」

 罵声のような声が聞こえ、祭の視線を追うと……そこでは、黄巾党が唯一勝っている数を利用して、一人だけ突っ込んできている華雄を包囲せんと動いているのが見える。
 せめて、曹操軍を率いる夏侯惇と同じ方へと攻めているのであれば、関羽もその動きをフォロー出来ただろう。だが、この部隊の指揮官としてのプライドか、取りあえず目の前にいる敵に攻撃を仕掛けていただけの為か、はたまた自分の実力に絶対的な自信を持っているからか。ともあれ、華雄の部隊は夏侯惇とは全く違う方にいる黄巾党の部隊へと向かって突出していたのだ。
 幾ら黄巾党が農民や食い詰め者、あるいは盗賊の集まりだからといっても、これだけの人数がいれば、多少は頭が回る者もいるのだろう。華雄の猪突猛進ぶりを見て懐に引き込み、数で鏖殺しようとしているのが見て取れた。

(恐らく最後、自分の力に対して過剰なほどの自信を持っていたんだろうな)

 内心で考えつつ、アクセルは祭の方へと視線を向ける。
 見捨てるのか、あるいは助けるのか。その判断を求める視線に、祭は一瞬で判断を下す。
 この辺りの判断の早さは、さすがに呉の宿将と言われているだけあるのだろう。
 ……もっとも、本人にそれを言えば年寄り扱いするなとむくれるのだが。

「アクセル、あ奴を助けるぞ! このまま見捨てて討ち取られれば、向こうの士気が天井知らずに上がりかねん!」

 素人の集まりだからこそ、士気の上昇により高い能力を発揮する。それを避けるべき、と判断した祭の言葉に、アクセルもまた頷く。

「分かった。なら俺が先頭になって突っ込む」

 鉄の棍を振りながら、黄巾党の者達を吹き飛ばしなが告げる言葉に、祭が言葉を返す。

「よいのか? 儂の護衛じゃろうに」
「構わない。そもそも、その護衛対象が先頭に立っているんだしな。……いくぞ!」

 そう告げ、そのまま鉄の棍を振り回しながらアクセルは地を駆ける。

「皆の者、アクセルに続けぇっ! 孫呉の精兵ここにありと周囲に示すのじゃ!」
『おおおおおおおおおお』

 皆が一丸となってアクセルの後に続く。
 この辺の団結力の強さは、孫呉に魅力を感じていたり、あるいはそれを率いている雪蓮や冥琳、祭の人望だろう。
 もっとも、兵の中にはそんな者達と仲のいいアクセルを羨んでいる者も多いのだが。

「どけえぇっ!」

 縦横無尽に鉄の棍を振るいながら、黄巾党の者達を文字通りの意味で掻き分けながら進んでいくアクセル。
 華雄の部隊を完全に包囲しようとしていた時だった故に、背後からのアクセルの攻撃を黄巾党が防ぐ事は出来なかった。
 手や足、胴体、あるいは頭部を破壊されながらピンボールのように吹き飛び、黄巾党の者達を吹き飛ばす武器の如き扱いをされる。
 そんな状態で突き進み、やがて包囲を抜け……華雄のいる場所へと到着した。

「華雄、一端退け!」
「ふざけるな! 我が武をもってすればこの程度!」
「それこそふざけるな! 猪として死ぬのなら、せめてお前一人で死ね! 兵士を巻き込まないでな!」

 怒声に返すのも怒声。
 その声に華雄は息を呑み、周囲を見回し……やがて不承不承と手に持っていた巨大な斧、金剛爆斧を天に向けて掲げ、叫ぶ。

「一端退く! 呉軍と共に行動せよ!」

 その言葉と共に引き上げ、同時にそれを契機にしたのだろう。黄巾党の方でも引き上げていく。
 あくまでもこの一戦は向こうの出方を見る為のものである以上、追撃は行わずに他の部隊もあっさりと退く。
 ……唯一、夏侯惇の部隊のみは追撃を行おうとしていたが、協力関係にある関羽に止められ、渋々ながら引き上げていた。





「その、華雄さんを助けて下さってありがとうございます」

 そう告げ、ペコリと頭を下げる少女。
 一見すると気弱で優しそうな少女にしか見えず、アクセルは本気で目の前にいるこの少女が董卓なのかと、首を傾げる。
 黄巾党との最初の一戦を終え、それぞれが自軍に戻ったところで官軍の使いに呼び出され、祭とアクセルがやって来た場所にいたのが、目の前にいる少女。その名乗りを信じれば董卓だった。
 董卓というのがどのような人物なのかは、三國志に詳しくないアクセルでも知っていた。
 勿論詳細に全てを知っている訳ではないが、悪逆非道の武将だという事くらいは知っている。
 その董卓の正体が目の前にいる気弱そうな人物。
 あるいは自分の三國志の知識が間違っているのか? とアクセルが思ってしまうのはしょうがないだろう。

「いやいや、主力である官軍に倒れられてはこちらも困る。それならこちらで救助を送った方がいいでしょうからな」
「へぅ……ありがとうございます」

 祭の言葉にペコリ、と頭を下げた董卓だったが、そこで天幕の中に飛び込んでくる人影が1つ。

「ちょっと月! あんたが表に出てきちゃ駄目じゃない! ただでさえ恋も霞も今はいないんだから……」
「へぅ……でも、詠ちゃん。華雄さんを助けてくれたんだからお礼は言わないと」
「いいのよ、そういうのは僕がやっておくから。……悪いわね、あんた達。今回の件の礼は後でするから、今日は帰ってくれないかしら?」

 そう告げてくる賈クに、祭にしてもアクセルにしてもこれ以上はここにいても邪魔になるだけだと知り、天幕を出て行く。
 背後で董卓を叱りつける賈クの声を聞きながら。





「何だか、色々とありそうな奴等じゃったな」

 自分達の天幕へと戻る途中で、祭が呟く。

「ああ」

 それに頷いたアクセルだったが、すぐに首を振る。

「いや、色々とあるのは俺達もらしいな」
「む?」

 その言葉に、アクセルの視線の先を追う祭。
 視線の先にいたのは、数人の人影。
 関羽に桃香と呼ばれていた少女、そして白い学生服を着た男だった。 
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