雲は遠くて
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79章 利奈の夢の中の、ロバート・ジョンソン
79章 利奈の夢の中の、ロバート・ジョンソン
4月19日、日曜日。くもり空であるが、南からの風が吹いている。
朝、ベッドで微睡む川口利奈は、夢を見ていた。
目覚めた利奈は、楽しかったその夢を、忘れないように、ベッドの中で思い出している。
夢の中では、早瀬田大学で知りあったばかりの1年生の菊田晴樹と、
その菊田が敬愛しているという、伝説のブルースマン、ロバート・ジョンソンが、
利奈に会いに来ていた。
場所は、どこであったか、よくわからなかったが、利奈は気持ちが晴々としていて、楽しかった。
「Nice to meet you!(はじめまして!)」
ロバート・ジョンソンは、利奈に、英語でそういった。
利奈も同じように、英語で、「Nice to meet you!(はじめまして!)」といって、笑顔で挨拶をした。
「晴ちゃんからは、利奈ちゃんのことを、話してもらっているんですよ。あっはは。
利奈ちゃんは、歌が大変に上手で、それに、かわいいお嬢さんで、
今度、ミュージック・ファン・クラブ(MFC)で、ギターを教えてあげることになったんだって、
ぼくに自慢するんです。あっはっは。
それで、ぜひ、ぼくも利奈さんにお会いしたですって言ったら、
じゃあ、今から会いに行こうって、はるくんが言って、こうしてやって来たんですよ。
きょうは、お天気でよかったです。ぼくは、ほんとうに、利奈さんにお会いできて、誠に光栄です!」
ロバート・ジョンソンは、利奈に、日本語でそういったのだった。
・・・ああ、ロバート・ジョンソンが、日本語で話してくれて、よかったわ。英語じゃあ、
きっと、わからなかったもん・・・
利奈は、そう思って、ほっとした。実際に会ってみると、ロバート・ジョンソンは、黒人なのに、
それほど、黒っぽくなくて、写真で知っている彼は、なんとなく恐そうなイメージがあったが、
やさしい目元の紳士である。
利奈の166センチの身長よりも、ロバート・ジョンソンも、菊田晴樹も、背は高かった。
二人とも、177センチくらいで、同じくらいの背丈であった。
「わたしも、ロバートさんにお会いできるなんて、夢のようですわ!
たくさんのブルースマンがいるのに、あなたは、その中でも、天才中の天才なんですもの。
晴ちゃんと同じように、わたしも、あなたのことを尊敬しています!」
「ありがとうございます。歌も音楽も、楽しみながら続ける、自分の魂の表現ですからね。
それが、なんとかして、成功すれば、自分以外の人の魂にも、届くかのなって思って、
ぼくは、ブルースを歌い続けているんです。
少しでもぼくの音楽で楽しんでもらえたら、ぼくも幸せです。あっはは
利奈さんにも、はる(晴)くんにも、これからも、音楽、楽しんでもらいたいです!」
「ロバートさんに、こんなふうに、応援してもらえるなんて、ぼくたちも、幸福ですよね。
ぼくたちの目指している、音楽スタイルというか、演奏方法は、
ロバートさんと同じような、弾き語りだからね。利奈ちゃん、音楽がんばろうね!
利奈ちゃんは、ピアノは上手なんだし、歌もうまいし、音楽のセンスはいいんだから、
ギターの弾き語りだって、すぐできるようになるよ、だいじょうぶ、だいじょうぶ!」
先日、岡昇から、ギターのインストラクター役として紹介してもらった、
早瀬田大学1年生の菊田晴樹が、夢の中でそういって、利奈に微笑んだ。
菊田晴樹が、敬愛している、ロバート・ジョンソンは、1911年から1938年の、
28歳という短い生涯であった。彼は、アコースティック・ギター、1本で、ブルースを弾き語りして、
アメリカ大陸中を渡り歩いた。その音楽は、現在もロックやポップスに多大な影響を与え続けている。
最高のブルースであるばかりではなく、
音楽とは何かを、誰にでも考えさせずにはおかない、といわれている。
≪つづく≫ --- 79章 ---
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