IS インフィニット・ストラトス
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インフィニット・ストラトス
「えーと……あれ? これ、どうやって二階に行きゃあいんだ?」
いかん、迷った。というか、なんて分かりにくい構造をしてんだ。設計は地域出身のデザイナーに頼んだらしいが、それもまた地域密着型なのだった。
「しかしこの、『常識的に作らない俺カッコイイ』的な感じはなんなんだ……。階段はどこにあんだよ……」
真剣に、迷路だよと言われれば騙されるレベルだ。なんでこんなに分かりにくい上に案内図がないのか。あの一面ガラス張りの廊下は空調効率落ちるだけじゃねぇのか?この意味なく壁に貼られたタイルは地震のとき危険じゃねぇのか?あの埋め込み型の照明はランニングコストかかるんじゃねぇのか?ていう交換しづらくね?無駄に天井たけぇし。うーん……。
「…………」
中学三年にもなって迷子。ーーダメだ、恥ずかしすぎる。
「ええい、次に見つけたドアを開けるぞ、俺は。それでだいたい正解なんだ」
おっと、いいとこにドアが。ちょっと入りますよ?
「あー、君、受験生だよね。はい、向こうで着替えて。時間押してるから急いでね。ここ、四時までしか借りれないからやりにくいったらないわ。まったく、何考えて……」
部屋に入った途端、神経質そうな三十代後半の女性教師に言われる。どうも相当忙しいのか、その忙しさで判断能力が鈍っているのかーーおそらくその両方ーー、俺の顔も見ずにぱっぱっと指示だけして出て行った。
(着替え?はて、今日日の受験は着替えまですんのか?あぁ、カンニング対策か。大変だなぁ、どこの学校も)
そう思ってカーテンを開けると、奇妙な物体が鎮座していた。
なんていうか、『お城に飾ってある中世の鎧』だ。しかも、忠誠を誓う騎士のようにひざまずいている。
厳密には細部が甲冑とは違うし、たぶん人によっては鎧という印象は受けないだろうけど。とにかく、それに似た印象の『何か』が置いてあった。
それは人型に近いカタチをしていて、使用されるときをただ黙って待っている。
ーーしっている、これは、『IS(アイエス)』だ。
正式名称『インフィニット・ストラトス』。宇宙空間での活動を想定して作られたマルチフォーム・スーツ。
しかし『製作者』の意図とは別に宇宙進出は一向に進まず、結果このスペックを持てあました機械は『兵器』へと変わり、しかしそれは各国の思惑から『スポーツ』にと落ち着いたーー所謂、飛行パワードスーツだ。
しかしこの『IS』には致命的な欠陥があって、そのことから俺にとっては何の意味もなさない。
「男には使えねぇんだよな、たしか」
そう、女にしか使えない。女以外には、この機械は反応しないのだ。
だから、今目の前にあるのはマネキンと同じだ。何もしない、できない、ただの物体だ。
ーーそう思って、触れた。
「⁉︎」
キンッと金属音の音が頭に響く。
そしてすぐ、意識に直接流れ込んでくるおびただしい情報の数々。数秒前まで知りもしなかった『IS』の基本動作、操縦方法、性能、特製、現在の装備、可能な活動時間、移動範囲、センサー精度、レーダーレベル、アーマー残量、出力限界、etc.……。
まるで長年熟知したもののように、修練した技術のように、すべてが理解、把握できる。
そして視覚野に接続されたセンサーが直接意識にパラメータを浮かび上がらせ、周囲の状況が数値で知覚できる。
「な、なんだ……?」
動く、動くのだ。『IS』が。それも自分の手足のように。
肌の上に直接何かが広がっていく感触ーー皮膜装甲展開、……完了。
突然体が軽くなる無重力感ーー推進機正常作動、……確認。
右手に重みを感じると、装備が発光して形成されていくーー近接ブレード、……展開。
世界の知覚精度が急激に高まる清涼感ーーハイパーセンサー最適化、……終了。
それらすべてがわかる。知りもしないのに、習ってもいないのに、わかる。
そして『IS』から送られてくる情報で見る世界は、まるでーー
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