笛の魔力
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5部分:第五章
第五章
「ですが私のするべきことは」
「わかった」
ここまで聞いてだ。遂に彼も頷くのだった。
「それではだ。君の望むようにするといい」
「有り難うございます」
「わかった」
こう言ってであった。彼は神父になりそのうえで世界を回った。まずはソマリアに向かった。内戦がまだ続いているその国にである。
神父として向かいだ。難民となりあてもなく集まっているだけの人々の前に来てだ。その笛を吹くのだった。
その笛の声を聴くとだ。まずは子供達が顔をあげた。
そして彼の前に集まり。笛の音を聴くのだった。
「ねえ、この笛って」
「そうだよね」
「聴いているとそれだけで」
「楽しくなってくるよ」
こう言いながら少しずつ笑顔になっていくのだった。
「ねえ、皆来てよ」
「この人の笛凄いよ」
「物凄いよ」
彼等は口々に同じ子供達を呼ぶ。やがて難民の中の子供達が全て集まってである、彼のその笛の音を聴いて楽しい顔になっていった。
暫くは笛の声を聴いているだけだった。しかしであった。
やがてそれでは飽き足らず。彼等はそれぞれ身体を動かし。踊りはじめた。
「楽しいね」
「そうだよね」
「とてもね」
こう言いながら踊っていく。皆楽しく踊りはじめた。
やがて子供達だけでなく大人達もやって来てである。やはり踊りはじめた。
難民達が楽しく踊りはじめた。それは今までになかったことだ。
フリッツと共に来た神父達はそれを見て。思わず言った。
「これは一体」
「スターマン神父の笛の声を聴いて」
「それで難民の人達が皆踊りはじめるなんて」
「まさにこれは」
「そうです、あれです」
彼等は口々に言っていき。そして。
あの笛のことを話に出すのであった。
「魔笛だ」
「それだ」
「それに他なりません」
モーツァルトのその笛だというのである。あのオペラのだ。
「あの笛そのままです」
「これはまさに」
「ええ、あの魔笛がここに」
あると。今わかったのである。
そして次に難民達を見る。その楽しく踊っている姿をだ。
踊っているのは人間達だけではなかった。空を飛ぶ鳥達も彼の上を舞い痩せた犬達も来て踊っている。まさに魔笛そのものであった。
「今までこんな笑顔はここには」
「ええ、ありませんでした」
「ましてや踊るということなぞ」
「全く」
そうしたこともなかったのである。沈みきったそのままだったのである。
だが今は違っていた。誰もが明るい笑顔で踊っている。まるで別世界にいるように・
「スターマン神父の笛で」
「本当に何もかもが変わりました」
そうなのだった。彼は全てを変えたのである。
その日から難民達の顔に希望が戻った。これまで何もする気力もなくなり絶望に沈んでいた彼等の目にだ。それが確かに戻ったのである。
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