笛の魔力
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3部分:第三章
第三章
「小鳥まで来たし」
「嘘みたい」
「けれどこれって」
「そうよね」
ここで皆あることを思い出した。それは。
「魔笛よね」
「ええ、それよね」
「本当にね」
モーツァルトのそのオペラを彼等も話に出したのである。そのオペラをである。
「動物達も集まって」
「それでこうして静かに聴くなんて」
「凄いよね」
皆驚きを隠せなかった。しかしそれ以上にである。彼等はさらに言うのであった。
「聴いていたらそれだけで静かになって」
「そうよね、穏やかになって」
「心が安らいで」
「落ち着くよね」
彼の笛を聴いているとそうなるのだった。落ち着くのである。心は昂ぶらずに落ち着く。彼等はそれを感じて静かな気持ちになっていくのであった。
それは猫達や小鳥達もであった。彼等もまた同じだった。
彼の笛は聴いていると誰もが落ち着き平和になれた。それを聴いた母も言うのだった。
「貴方の笛はね」
「うん」
「人を平和にさせる笛よ」
まさにそれだというのである。
「その心をね」
「僕の笛が」
「もっと吹くのよ」
そしてこうも言うのであった。
「いいわね、もっとね」
「うん、それじゃあ」
「これは考えなかったわ」
母は少し驚いた顔で述べた。
「まさか。貴方の笛こそがね」
「僕の笛がどうしたの?」
「魔笛だったのよ」
まさにそれだというのである。
「それだったのよ」
「あのオペラの笛だったの」
「魔笛はね、聴いた相手の心を楽しいものにさせるわね」
「うん」
それがオペラに出て来る魔笛である。この笛の魔力にはモーツァルトがフリーメイソンの思想を入れたという説もある。どちらにしろかなりの魔力がある笛なのは確かだ。
「貴方の笛はそれと同じなのよ」
「あの魔笛と同じで」
「きっとその笛は」
「何か人の役に立てるの」
「ええ、間違いないわ」
確かな声で我が子に告げた。
「だから頑張ってね、笛を」
「うん、わかったよ」
母にも言われてであった。彼は笛を学び吹き続けた。そうして幼い日も子供の日も続けてそのうえで時間を過ごした。やがて音楽大学にも進んだ。そしてそこでも。
「あれがフリッツ=スターマンか」
「ああ、そうだな」
「噂以上だな」
皆その笛の声を聴いて唸るのだった。これは彼の笛を聴いたことのある他の者も同じであった。誰もがそう思ったがそれは彼等も同じだったのだ。
「あの笛の音があれば何でもできるな」
「そうだよな、本当に」
「音楽史に名前が残るな」
こうまで言われるのであった。音楽大学に入ったその時点でだ。彼はそれだけの技量をもう身に着けていてそれ以上のものも備えていたのである。
誰もがその将来を渇望していた。そして。
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