美しき異形達
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第四十三話 街道での死闘その十二
「もう日本語じゃない位に」
「かなり独特でした」
「今も独特だけれど」
「西郷隆盛さんや大久保利通さんはそうした言葉を使われていました」
「それで明治政府にも入って」
「政府にその言葉が残ったりしています」
例えば『おい』や『こら』という表現だ。これは鹿児島では普通の掛け合いの言葉であるが彼等が政府に入り普通に使ってから強く怒ったり上の立場の者が下の者を呼ぶ言葉として使われる様になったのである。
「これは長州もですが」
「長州弁は薩摩程じゃないにしても」
「そうです」
それで、というのだ。
「あちらの言葉も入っています」
「そうなのね」
「とかく。昔の鹿児島の言葉はです」
「独特だったのね」
「密偵に話している言葉をわからせない様にしたとか」
その為に独特の言葉になったというのだ。
「そう言われています」
「今の鹿児島弁とはまた違う」
「そうでした、それと津軽の言葉は」
桜はこちらの方言の話もした。
「東北の中でもです」
「かなり濁音強いわよね」
「あの太宰治さんも使っていました」
走れメロスや人間失格で知られるあの作家である。
「津軽出身でしたので」
「じゃああの人の言葉は」
「かなり独特で東京の人は最初聞きにくかったそうです」
「そのことでもコンプレックスあったのよね」
「その様ですね」
「関西でも津軽弁はわかりにくいわね」
距離がかなり離れているからだ。
「濁音が凄くて」
「東北の言葉も特徴がありますね」
「うん、特にね」
「津軽の言葉はですね」
「青森のね」
寮には東北各県からも来ていて青森、その津軽から来ている娘もいる。裕香は彼女を知っているから言えるのだ。
「あの娘の言葉は」
「その津軽の肩のですね」
「うん、今はわかるけれど」
最初話した時はというのだ。
「鹿児島の娘と同じでかなりびっくりしたわ」
「そしてあちらもですね」
「関西弁に驚いていたわ」
つまりお互いにそうだったというのだ。
「本当に」
「そうなりますね」
「これが本当の関西弁かって」
「関西弁も独特ですから」
「ええ、ただね」
ここでだ、裕香は首を傾げさせてこう言った。
「私から見れば」
「津軽の言葉の方が」
「鹿児島弁もね」
「どちらもですね」
「中々わからなかったから」
最初の方は、というのだ。付き合いはじめて。
「物凄く独特だったから」
「むしろ裕香さんの方がですね」
「驚いたわ」
そうだったというのだ。
「どちらもね」
「日本は北と南で方言が全く違うんだな」
薊はここでしみじみとして言った。
「それに北に行けば行く程」
「南は南でね」
「そうなる程訛りが強くなるよな」
方言のそれが、というのだ。
「何かさ」
「そうした傾向あるのかしら」
「同じ九州でも福岡は普通じゃねえか」
寮には福岡から来ている娘もいるからこその言葉だ。
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