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ウイングマン ウインドプラス編

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■2■ ラッキガールアオイ


1.
バルドは新しいプラス怪人に指示を出した。
「とにかくウイングマンという存在の情報がほしい。何人かのプラス怪人がやられてしまった。お前ならきっと倒せるだろう」
ライエルの基地の会議室、バルドの前に跪いていたその怪人はその指示に不満そうだ。
「当たり前だろ、オレを誰だと思ってるんだ?」
好戦的なその態度にバルドは少しあきれた。

「どうしてこんな口の悪いやつを作ったんだ?」
内心、そう思って後ろで傍観しているヴィムをちらと見た。
しかし、確かにこのウインドプラスには実力があった。
「ウイングマンには女の仲間もいる。どうだ、やる気になれる情報だろ?」
そう言われたウインドプラスは立ち上がり、バルドの胸をドンと叩いた。
「そいつはちょっとやりがいがありそうな、仕事だな」
そう言うとニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「それじゃあ、行ってくるわ」
そして、ウインドプラスはバルドたちの前から姿を消した。



神社の前から、久美子も健太たちの一行に加わった。
鳥居をくぐり、5人は初詣をするために境内に向かった。
まずは神社にお参りから。
「夕島高校合格、よろしくお願いします!」
健太は今の切実な思いをお祈りした。
その切実さを表すように、お賽銭も定番の5円ではなく100円を投じた。
「広野君と一緒に夕島高校に行けますように」
美紅も健太の受験を心配していた。
健太の受験の成功が、今の美紅にとっての一番の願いだった。
「リーダーが私の気持ちに気づいてくれますように」
桃子は自分の気持ちが健太に伝わればそれで十分だった。
桃子は美紅のことも友達だと思っているし、略奪したいとまでは考えていない。
ただ小学校の頃からのこの思いだけはちゃんと伝えたいと思っていた。
「ライエルたちを倒せる力を私にください」
アオイは自分の実力アップを願い、¥この世界を守ることを誓った。
最近、健太に頼りっぱなしで不甲斐ないと思っていたのだ。
どこかでそれを払拭したいという気持ちを強く持っていた。
そして、久美子は――
「私を裏切らない彼氏! それからスクープ!それからそれから……」
欲張っていろいろ神頼みをしていた。
4人はすでにお参りを済ませているのに、久美子だけはなかなか神前から離れようとはしなかった。
「布沢さん、いつまでお祈りしてんのよ!」
後ろで順番待ちの人も増えてきたので、実力行使だ。
アオイは久美子の手を引いて、境内の前から連れ出した。

次はおみくじ。
まずは健太が引いた。
「末吉ぃ~っ!?」
微妙な結果に微妙な顔をした。
次に久美子。
久美子はおみくじの振り方も真剣そのもので異常なほどに念を込めていた。
今日は図らずも幸せなカップルをたくさん見せられてしまったので、ストレスをため込んでしまっていたので、必死だった。
そして、引いたおみくじは吉。
今の久美子にとっては、吉というのは意外にも素直に喜べる結果だった。
「私、吉だよ吉! いいじゃん。吉って大吉の次にいいんだよ。やっぱお祈りを真剣にしたからね!」
そんな久美子を冷やかに見ていたアオイが、次におみくじをひいた。
大吉だった。
「見て見て! やったあ! 今年の私はツイてるんじゃない?」
大喜びのアオイを健太は羨望のまなざしで見ていた。
「アオイさん、いいなあ……」
受験に対して藁をもすがりたいのだ。心の底からアオイのおみくじを羨んだ。
「地球の平和を守ったり、結構、いい行いをしてると思うんだけどなあ……」

次に桃子がひいたおみくじは――
桃子は引いたおみくじを見て表情を曇らせた。
「嫌な予感……」
結果は凶だった。
せっかく健太に着物を褒められたというのに……
そんな落ち込んでいる桃子に美紅が声をかけた。
「ちょっと、そのおみくじを貸して」
桃子が引いたおみくじを受け取ると境内の枝に指差した。
「そういう悪運のおみくじは結んで神社に置いていけば厄払いになるのよ」
そう言って、手ごろな枝に結び付けようとした。
「あ、自分のおみくじだから私がやるわ。美紅ちゃんは自分のおみくじをひきなよ」
桃子に促されて美紅はおみくじを引いた。
引いたおみくじは、さらに悪い大凶だった。
こういったことでは動じなさそうな美紅の表情も軽く引きつった。
「私、大凶ひいちゃった」
そして、軽く微笑んだがどう見ても苦笑いだった。
「美紅ちゃん、大丈夫! 悪運は置いていこう!」
そう言って健太もおみくじを結んだ。
美紅も境内の木に大凶のおみくじを結びつけた。
「これで私は厄払いできたはずだから、逆にラッキーかもね」
桃子もその言葉にうなずいた。
「きっとそうだよ!」



2.
5人は出店で焼きそばや焼きとうもろこしを買って食べたりして楽しんだ。
基本的には健太と美紅が、アオイと桃子がカップリング。
残った久美子はファインダーをのぞきながら美紅と桃子を中心に、写真を撮影した。
「今日は、風が強いわね」
風が撮影の邪魔になるが、さすがに振袖だ。強風でも裾が軽く乱れるだけで、パンチラの心配はなさそうだった。
健太はもちろん、アオイも美紅も桃子も気にしている様子はなかった。

ひとしきり出店を楽しんで、神社を出ると、強い風が吹いてきた。
それを久美子が指摘をした。
「天気、大丈夫かしら?」
さっきから撮影に邪魔で、風が気になっていた。
時折、撮影の邪魔になるのだ。
空を見ると雲が早く流れている。
しかし、青空が広がっていた。
「でも、天気はいいよね」
健太は久美子の言葉をまったく気にしていないようだった。
それよりもこの楽しい時間を終わらせたくないという気持ちの方が強かった。
「せっかくだからさ、このまま駅前に行ってみようよ」
元旦と言えど結構営業しているお店も多い。
別に何か買いたいものがあるわけではないが、貴重な受験勉強の合間の束の間の休日なのだ。
「そうですよね!」
桃子も健太に褒められたこの恰好で、健太と少しでも長くいたいと思っていた。
「確か、天気予報でも雨が降るって話もなかったと思います」
美紅は少しばかり健太の受験勉強のことが心配ではあったが、やはりせっかくの休日を健太と過ごしたいという思いは変わらなかった。
「そうよね。せっかくだし……行こっか」



5人が駅前に向けて歩いていくと、だんだん風が強くなってきた。
「なんかだんだん風が強くなっているけど……」
久美子は少し心配そうな顔つきで呟いた。
さすがにもう撮影にも飽きてきたので、本当は天気が気になるわけではなかった。
しかし、健太が美紅と、アオイが桃子とカップリングされているのでどうしても久美子だけが浮いてしまう。
今までは写真を撮ることで誤魔化していたが、それも飽きてた今となっては手持無沙汰になっていた。
だからと言ってカップリングがされている中に割って入るのはなかなか難しい。
そこでとりあえず、天気の話題をすれば誰かが乗ってくれるのではないかと思ったのだ。
しかし、誰も乗ってはくれない。
ただ、確かに久美子の言うように風がだんだんと強くなっていることは確かだった。
雲も風に合わせ早く流れていくが、空は相変わらず晴れ渡っていて天候が悪くなる様子はまったくなかった。
「ねえねえったら! なんか風がキツイよね?」
天気のことよりも相手をされないことで自尊心が傷つき、久美子は強く訴えた。
仕方ないのでアオイがその発言に応えた。
「じゃあ、違う道にしようか?」
アオイにとっては正直どうでもよかったが、久美子が退屈するのもわかる。
駅前に行くのは大通りをまっすぐいくのが一番の近道だ。
しかし、どうでもいいのなら別に違う道を進んでも問題はない。
それに何より、このまままっすぐ進めば久美子が騒ぐのは目に見えていた。
それは面倒だ。
横道にそれてみると、確かに風は収まった。
しかし、建物が壁になっているに過ぎない。駅前に向かうにはどうしても縦の通りに出なくてはいけない。
試しに曲がって縦の通りに出てみると、やはり結構風がきつかった。
「確かに……これはちょっと……」
普段の格好ならいざ知らず、アオイ、美紅、桃子の3人は着物なので踏
ん張りがきかない。
この風だとまともに縦には進めない。
「なんか天気も崩れてきたし、今日はお開きにする?」
アオイがそう言うと健太は悲しそうな顔をした。
「え~っ!?」
お開きになれば、健太につらい受験勉強が待っているのだ。
まだ外は明るい。それなのにお開きにするのは健太がかわいそうだと思った。

「この天気も実は、ライエルの刺客の仕業だったりして」
アオイはそう言うと少し微笑んだ。そして、空を仰ぎ見た。
しかし、やはり快晴とまではいかないけれど嵐の予感は微塵も感じさせないなかなかの快晴だった。
「そんなことあるわけないじゃん。さすがに天候を操る敵なんて……」
久美子も笑って否定した。
天候を操る敵……
アオイはその言葉がひっかかった。
頭に浮かんだのはスノープラスのことだった。
自分で言った冗談だったが、そう言う可能性もあるかもしれないと思い直した。
「そうね。確かにその可能性もあるわね……」
アオイは少し考えただけで、次の行動を決めた。
「じゃあ、私が見てくるわ」
そう言うと変身して、飛び上がった。

「あ、私も行きます!」
桃子も続いて変身した。
美紅も続いた。
「広野君はここで待ってて」
美紅は戦える時間が限られているのを気遣って健太にここにいるように言ったつもりだった
ただ、今の健太としては個人的に戦いたい気分ではなかった。
せっかく受験勉強の合間の休みを楽しんでいる最中なのに、みんなしていかなくても……健太はそう思ったのだ。
普段なら一番に戦いに出向くところだが、敵かどうかすら定かではないのだ。
さすがに今はそういう気分にはなれなかった。
ただ、もし敵だったら早く倒した方がいいのは確かだ。
とりあえずここは3人に任せて、この強風が単なる自然現象であることを祈った。
しかし、よくよく考えれば、自分だけ取り残されてしまったこのに気づいた。
健太が少しがっかりしたことは確かだった。

「あれ? あれ?」
健太は何かを忘れているような気がした。
隣に目をやると何か落ち着かなくてソワソワしている久美子の姿があった。
今日は久美子も一緒にいたのだった。
「布沢さんは変身しないの?」
そう言われると、久美子は引きつった笑いを見せた。
「ハハハハハ、バッジを家に忘れたみたい……」
久美子は舌を出してごまかした。
ポケットやカバンなど必死に探し回ってみたのだけれど、結局見つからなかった。
気持ちとしてはみんなが変身した際に一緒に自分も変身するつもりだったのだが、バッジを忘れていてそれができなかったのだ。
奇しくもウイングガールズとしての意識が低くいことを証明してしまう結果になってしまった。
「まあ、今日は私はカメラマンということで」。ハハハ……
笑って誤魔化そうとしたが完全にひきつっていた。
「みんなの活躍を写真に記録させてもらうわ!」


アオイに続いて美紅と桃子が飛び立ったとき強風で2人のスカートがめくれた。
強風のせいでいつもより豪快にめくれてしまった。
美紅も桃子も戦いの際にパンチラをしてしまうのは日常茶飯事だった。だから、今日に限って特に気にする、ということはなかった。
健太も久美子のことが気になって飛び立つ2人を見てはいなかった。
久美子も状況をごまかすためにカメラの用意を始めていたので、その瞬間を見逃していたのだ。
美紅と桃子は、スカートの下に何も履いてはいなかった。
いつもより豪快にめくれてしまったせいで一瞬ではあったが2人のお尻が完全に晒されていた。
しかし、幸か不幸かそのことを知る者はいなかった。



3.
アオイを先頭に美紅と桃子が並んで後を追った。
3人は風の吹く方にどんどんどんどん向かっていく。
当然のように吹く風はだんだん強くなっていった。
「きゃあっ!!!?」
桃子がちょっと体勢を崩して飛ばされそうになった。
「大丈夫? 桃子ちゃん」
美紅がフォローするがアオイは声をかけなかった。
桃子の悲鳴よりも気になるものがあったのだ。
アオイは、その先に敵の姿を見つけたのだった。
「この強風の原因は、あいつか……」
ビルの上にプラス怪人が立っていた。

怪人の容姿は何か表紙抜けだった。
ガリガリのナナフシのような姿だ。
見かけで判断するのは危険だが、アオイには正直、強そうには見えなかった。
サンタクロースのような大きな袋を持っている。そこから強風を出していた。
そして、顔は風車のように回転している。
「バランスは悪いけど、まるで風神ね」
アオイは敵の様子を見て考えた。
とりあえず強風の現況はわかった。
しかし、これからなにをするか考えなくてはいけない。
プラス怪人の動きが確認できる場所で一旦、体制を整えることにした。
「みんな、こっちに来て」

アオイの指示に従い、3人は近くのビルに降り立った。
ここなら強風を避けることができる。
安心して作戦が組み立てられる。
「アイツがこの強風の原因なのは確かね」
アオイの言葉に美紅は頷くと考察を加えた。
「あの大きな袋から風を出しているみたい……だったら、あの袋を押さえればこの強風は止むんじゃあ……」
アオイはその言葉にニヤリとした。
「それだ!」
言葉と同時にズバッと指差した。
指差された美紅はちょっとびっくりした。
桃子も一緒に驚いた。
「あいつを私たちだけでなんとかしたいとは思わない?」
アオイは2人に顔を近づけ、提案をした。
予想外の提案に美紅と桃子は一瞬固まった。
でも、アオイからすればその提案は唐突なわけではなかった。
先日のイルミネーションプラスとの戦いでは結局、勝負を決めたのは健太だった。
そこに不甲斐なさを感じていたのだ。
アオイは以前よりも強く自分の力で敵を倒したいと考えるようになっていた。
ウイングマン頼みではない自分にならなければいけない、と。
そして、今日、健太に先んじて敵に遭遇できた。
おみくじも大吉だ。
今日はツイている。
きっと、いい結果が出せるに違いない。
それに――
「アイツ、弱そうにじゃん!」
いきなりそう振られた桃子は戸惑いながらも率直な感想を述べた。
「……そうですね。確かに弱そうは弱そうにみえますね……ガリガリだし」
「でも、見かけによらない場合もあるんじゃあ……」
美紅は慎重になるよう促した。
「強かったら逃げればいいのよ。私たちにはケン坊だっているんだし!」
アオイは完全に戦闘モードのスイッチが入っていた。
確かに自分たちでやっつけれるなら健太に無駄な力をかけさせないで済む。
美紅は今、健太には受験勉強に集中してほしかった。
「そうですね。それもいいかもしれない……」
桃子も乗り気だ。
「今日は気分もいいし、3人でやっつけちゃいましょう!」
ガッツポーズをした。
「うん。危なくなったら私がリーダーを呼びに行きます!」
桃子の表情にアオイは満足そうな顔をした。
「じゃあ、美紅ちゃんはあの袋を押さえて。怪人は私と桃子ちゃんでやっつけちゃうから!」
アオイの指示の元、作戦が開始された。
 
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