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竜のもうひとつの瞳

作者:夜霧
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第五章~二人仲良く攫われた先で~
  第二十三話

 ぼんやりと目を開くと、私は見覚えの無い一室に転がっていることに気付いた。
一体ここが何処なのか、何でここにいるのか、全く分からない。
幽かに覚えているのは誰かに後ろから抱きすくめられて、無理矢理意識を落とされたことだけ。

 「姉上、気が付かれましたか」

 身体を起こして振り向けば、小十郎がほっとした表情で私を見ていた。
縛られている様子は無いが、小十郎が逃げられないように片足に鎖が付けられており、部屋の一角に括りつけられている。
一体誰がこんな事を、などと思えば自分の足にも括りつけられていて、どうなってるのと半ばパニックになりかかってしまった。

 「小十郎、これどういうこと? ってか、ここ何処?」

 「何者かに捕らえられた、としか。……姉上を攫おうとした忍の足に掴まって、この城にまで来たのですが……
不覚にも蹴落とされてしまい、意識を失ってこの様です。ここが何処かは……小十郎にも」

 蹴落とされてって……大丈夫なの? 小十郎にも分からないのはともかくとして、平気なわけ?

 「どっから落とされたの。怪我してたりしない?」

 大丈夫、と言いかけた小十郎の身体を確かめようとした時、ふと着ているものが互いに出発時に来ていたものとは全然違うことに気が付いた。
私が来ていたのは茶色の小袖に小豆色の袴で、小十郎は戦装束を身に着けていたはずだ。

 「……小十郎、いつ着替えたの?」

 訝しがってそう尋ねてみると、小十郎もまた渋い顔をして首を振る。

 「気付いたらこの格好でした」

 藍色に染められた着物を纏い、同色の袴を身に着けている。私も小十郎と全く同じ格好をさせられており、
意識の無いうちに誰かに身体を見られたと思うと嫌な感じがした。
一体何処まで脱がされたのかは知らないけど、誰かに身体を触られたんだもん。いい気はしないよ。

 どうしてこんなところに、と悩んでいるところで何者かの気配を感じた。

 「……誰」

 静かに開けられた戸の先にいたのは白い長髪の男だった。
痩身で端整な顔立ちをしているものの、目は獣のようにギラギラとしており、どう見ても真っ当な人間とは思えない。

 「おや、気が付かれましたか」

 「テメェ、何者だ。こんなところに連れて来てどういうつもりだ」

 小十郎の凄みにも動じることなく、ただ口元に歪な笑みを浮かべている。
狂っているわけではなさそうだけど、それでも正気だとは思えない。

 「大した理由ではありませんよ。私の正室を選びたいと思いまして、各地から私に相応しい方を探してもらっていたのです」

 「正室、だと?」

 正室ってことはそれなりの身分の男だってことじゃない。一体この男は何者なわけ?

 「おっと、申し遅れました。私は魔王の配下、明智光秀と申します」

 明智光秀……だと?
明智光秀と言えば織田信長の家臣で、信長が後一歩で天下が取れるってところで謀反を起こして討ち取っちゃうんだよね。
まぁ、BASARAの中ではどうなってるのか知らないけど……なんていうか、こうなっちゃうのね。

 「正室を選ぶのに各地から女を攫って来るってのか……魔王の配下って奴ぁ、相当の外道なようだな」

 小十郎が睨みつけてそう言えば、明智はにやりと笑って私達の前へと歩いてくる。
小十郎が私を自分の背に回して守るように塞いだわけだけど、明智は私ではなく小十郎の顎を掴んでじっとその顔を見つめている。

 一体何だ、と小十郎が言いかけた瞬間、明智は小十郎の頬の傷に合わせてべろりと顔を舐めていた。
舐められた瞬間、小十郎が震え上がっていたのは言うまでも無い。

 「ちょっ……小十郎! 離れて!」

 襟首を掴んで引き倒すようにして離れさせると、小十郎は完全に何が起こったのか把握出来ずに硬直している。
しかし身体の方は素直なもので、明智の行動に鳥肌が立っている。そりゃそうだ、いきなり頬を舐められたら鳥肌が立つよ。

 「男は余計だと思っていましたが……これほど気が強いのであれば、側室に据えてもいいかもしれませんねぇ」

 小十郎を側室、だと!? そんな政宗様を差し置いて側室にだなんて……って、違うか。

 「ちょっと待って! 何で側室!?」

 どう考えてもおかしいでしょうが。側室に、って、小十郎を抱きたいわけ? 小十郎とそういうことしたいわけ?

 「男では子は産めませんからねぇ。貴女ならば正室になれるでしょうが」

 冗談じゃない、何でこの男の正室になんぞならなきゃならんのか。だったらまだ慶次を夫にした方が良いような気がする。
慶次は無職だから対象外だけど、この明智に関しては違う。生理的に受け付けない。

 「私も子供は産めませんから!……じゃなくて、普通家臣でしょ! 何で側室にしようって」

 「それは私が男でも女でも拘りがないからです」

 「んなこと堂々と言うなぁああああ!!」

 ヤバイ、私の小十郎が穢される。
今度は小十郎を庇うようにして私が前に出れば、私の長い髪を掴んで歪な笑みを浮かべる口に入れた。

 「いやああああああ!!!」

 本当に気持ち悪い、一体何を考えて口に入れてるんだ。気持ち悪いったらありゃしない。冗談抜きで止めてよ、本当に。

 「素敵な髪ですね……しかも艶やかでとても美味しい。
しかし残念なことに二人とも子が産めないとなれば、側室に据えるしかありませんねぇ」

 「嫌だ! 誰がアンタの側室になんか!! 変態の愛人になるくらいなら、まだ馬鹿主の側室の方がいい!!」

 構うことなく私の髪を舐めている明智に本気で鳥肌が立つ。
そんなに髪の毛が気に入ったんなら切ってプレゼントするから。だから舐めるのやめてー!!

 「姉上!」

 私の声に我に返った小十郎にしっかりと抱きしめられて、弄んでいた髪をようやく離してくれた。
今すぐ洗い流したいところだけど、ここには水も何も無い。だから洗いに行くことも出来ない。

 「また来ます。私の可愛い側室達」

 「誰がテメェの側室になんかなるか!!」

 声を揃えてそう叫んでやったものの、明智は動じることなく笑って部屋を出て行ってしまった。
震えが止まらない私を、小十郎が心配そうに背を擦ってくれる。

 「姉上、大丈夫ですか!?」

 「小十郎、平気? ここから逃げ出したら消毒しようね?
他に触られたりしてない? いかがわしいことされたりしてない?」

 「え、ええ……」

 私の勢いに押されてしどろもどろに答える小十郎に、ただ私は安心して溜息を吐いていた。

 本当にどうしよう……変態に誘拐されてしまった。
逃げられないように鎖で繋がれてるし、私の力じゃ鎖は切れないし、小十郎の雷でも意味ないし……つか、下手したら感電するし。

 あんな変態に比べたら、利家さんなんて全然可愛いもんじゃない。今なら全裸くらい見たって良いわよ。
何も身に付けずに歩いてたって文句言わないわ。

 「姉上、この小十郎……姉上の貞操だけは絶対に守りますゆえ、御心配召されるな」

 こんな小十郎の発言に私は思わず噴いてしまった。この馬鹿、それってどういう意味か分かってるわけ?

 「ちょ、アンタ何言ってんのか分かってんの?」

 「無論。あのような男に穢されるくらいならば……代わりにこの小十郎が」

 そう言った弟の頭に拳骨を食らわせてやる。やめて、そんなBL的な展開。持ってかせる気は全然ないから!
じゃなくて、軽々しくそういうもんを捨てるなっての。

 「輝宗様の小姓やってた時だって何とか貞操守りきったじゃないの。
駄目だよ、こんなところで軽々しく捨てちゃ……しかも初体験があんな男って」

 絶対傷つくと思うよ。いや、間違いなく傷つく。腹切って死にたくなるのが目に見えてるもの。

 「姉上があのような男に穢されでもすれば、政宗様に申し開きが出来ませぬ。それこそ腹を切って詫びねばなりません」

 「……おい、ちょっと待て。どうしてそこで政宗様が出てくるの」

 政宗様の右目だから、なんて理由は止めてよ。
いくら政宗様にもうひとつの右目だと言われてるとはいえ、私は小十郎のスペアみたいなもんなんだから。

 すると小十郎はきょとんとした顔をして、

 「先程、まだ政宗様の側室の方がいい、と叫ばれたではありませんか」

 なんて答えてくれた。

 ……馬鹿主イコール政宗様ってのは分かってんのか。
じゃなくて、比較すればの話で政宗様の側室になる気は全然ないってば。

 「……もしかして、小十郎は腹の底では政宗様とくっ付いちゃえば良いとか思ってるんじゃない?
戻ってまた手篭めにされそうになっても、今度はこれも役目とか思うことにして止めてくれないんじゃ」

 「そんなことはございません。姉上が嫌がるのを無理強いするなどと……本当に好いた方がおられるというのであれば、
この小十郎、いくら相手が政宗様とはいえ姉上の幸せを後押ししたいと考えております」

 本当かよ……政宗様命の忠臣が。何か今度は売りそうな気がするけど。悪いけど信用出来ないなぁ……。

 「ねぇ、代わりに小十郎が政宗様の側室になってくれない?」

 「死んでも嫌です」

 「相手は政宗様だよ? おはようからおやすみのその先まで一緒にいられるんだよ?」

 一瞬小十郎は何かを考えて、それも悪くないといった顔をした。
が、すぐに首を振って嫌です、と今度は強く言う。

 「何で、いいじゃない。政宗様大好きでしょ?」

 「そういう意味でお慕いしているのではございません。
小姓であった時でさえ何とか伽の相手を免れて来たというのに、今になってそれをするのは嫌です!」

 大好きな政宗様でもそれは駄目なわけ? あらまぁ、政宗様ってば小十郎にも拒否られちゃって。
っていうか、あの人も小十郎は範疇外か? 結構好みは煩いもんねぇ……。その煩い人のお眼鏡に適う私って一体……。

 「でもあの男にならいいの?」

 そう尋ねて鳥肌を立てる小十郎は、どう見ても由と思っているとは思わない。
寧ろ忌み嫌っていると考えた方が良さそうだ。

 「小十郎一人であれば返り討ちにするか、舌を噛み切って自害しております!
……ですが、姉上がおられる以上、そういうわけにも参りますまい。
小十郎がいなくなれば、誰が姉上の身を御守りするのか」

 ……気持ちは嬉しいんだけどねぇ。でも身代わりに弟差し出して無事に、ってのも……。

 とりあえず、明智の野郎が来たら力使って近寄れないようにするか……。 
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