そこにある美
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
4部分:第四章
第四章
人間側もケンタウロス側も傷を負った者が出た。それでだ。
切られて傷つけられた面々がだ。切れたのだった。
「おい、やったな!」
「手前!折角止めに入ったのに!」
「なら容赦しないからな!」
「覚悟しろ!」
彼等もそれぞれ剣を出してだ。そのうえで。
暴れだした。二人が大勢になりさらに巻き込んでだ。式は滅茶苦茶になろうとしていた。
それを見てだ。新郎が己の背に新婦を庇いながら言うのだった。
「これはまずいな」
「え、ええ」
新婦も彼のその言葉に頷く。
「折角の婚礼の場なのに」
「一体どうしようか」
「このままだと。場が滅茶苦茶になるだけじゃなくて」
さらに悪くなるというのだ。
「人が死ぬわよ」
「今にもね」
何しろめいめいが剣を抜いているのだ。それではだった。
「どうしよう、困ったな」
「どうしたらいいのかしら」
二人は途方に暮れていた。騒ぎに参加していない人間やケンタウロス達もあまりにも酷い暴れ方なので止められない。皆おろおろとしていた。
だがここで、だった。
オルフェウスは竪琴を出した。それでだ。
奏で歌を歌いはじめた。すると。
これまで暴れていた人間もケンタウロス達もだ。急にだ。
暴れるのを止めて静かになりだ。そうしてだった。
自然と戦いを終わらせていた。それを見てだ。
彼は満足した顔でだ。こう新郎と新婦に話した。
「収まりましたね」
「君の音楽でかい」
「はい。私は確かに剣も槍も使えません」
そして弓もだ。彼は武器は一切使えないのだ。
だがそれでもだと。彼は話すのである。
「しかしそれでもです」
「その歌と竪琴で」
「戦いを収められるのですね」
「音楽、芸術は」
それは何かというのだ。
「美です」
「そうだね。素晴しい芸術はね」
「まさにそれですね」
「それはあらゆる方の心を魅了します」
だからだというのだ。
「この争いもです」
「収められたんだね」
「そうなのですね」
「その通りです。芸術、美は全てを魅了し」
そしてだった。まさに。
「無益な争いも収められます」
「馬鹿なことをした」
「全くだ」
実際にだ。これまで争っていた者達もだ。
気恥ずかしい顔になってだ。それぞれ言うのだった。
「酒に酔って。こんなことをして」
「場を乱してしまった」
「では皆さん」
だがオルフェウスはその彼等を咎めることなくだ。微笑みを向けてだ。
彼等にだ。こう話すのだった。
「また。楽しみましょう」
「この婚礼の場を」
「そうせよと」
「争いは終わりました。ですから」
だからだというのだ。
「あらためてそうしましょう」
「そうですか。それなら」
「もう一度」
人間達もケンタウロス達もお互いを見やりそのうえでだ。
握手をして和解をした。これで再びだ。
仲良く婚礼の場を楽しむのだった。オルフェウスは竪琴を奏で歌を歌い宴を盛り上げた。これが彼がこの場でしたことであった。
オルフェウスは確かに武器を持たない。だが彼は紛れもなく争いを収め人を助けられる英雄だった。英雄だからこそである。
彼はアルゴー号にも迎えられたのだった。英雄達を集めた冒険の船に。そしてそこでも竪琴と歌でだ。他の英雄達を魅了したのである。それがオルフェウスという英雄だった。
そこにある美 完
2011・7・1
ページ上へ戻る