| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ルドガーinD×D (改)

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

五十一話: 選択する時

 
前書き
大幅に書き直した部分があります。
先に読んでくださった方は申し訳ございません。 

 
物音一つしない戦場でルドガーと黒歌達は黙って対峙し続ける。ルドガーは黒歌達に問いかけた、お前達はどう選択するのかと。ルドガーとしては自分を諦めるという選択をして欲しかった。これ以上、自分の大切な人間が失うのを見たくないという思いから彼は自分から仲間を引き離そうとした。尚且つ、こんな大量殺人者が彼等と一緒に居る資格はないとも心の奥底では思っている。そんな時、イッセーが口を開いた。


「……正直、お前の記憶を見てどっちも救うっていうのは無理なんじゃないかって考えたし。何かを守る為には必ず何かを犠牲にしなければならないんじゃないかってのも思った……」

「そうだ。何かを守る為には必ず何かを犠牲にする必要がある。だから、お前達は俺を犠牲にして幸せになってくれ」


俯きながらに話すイッセーに対してルドガーは上手くいきそうだと内心ホッとしながら自分を犠牲にしろと冷淡に告げる。こうすれば、彼等が傷つくことはもうないと思っていた。しかし、イッセーはそこで顔を上げて力強い目でルドガーを見つめ、言葉を続ける。


「だとしても、俺はみんなが幸せになれる道を選ぶ! そんな道がないならお前みたいに新しい選択を創り出す! 俺は絶対に―――お前を犠牲にしないっ!!」


そんな言葉にルドガーの表情は歪み、彼にとっては本当に珍しいことに怒りで顔を歪ませて、ただ、感情のままにイッセーを怒鳴りつける。


「ふざけるな! あれを見て、まだ、諦めなければ何でもできるなんて子供みたいな考えを持っているのか!?」


「あきらめなければ、なんでもできる。……本当は、そうじゃないことがあるってのもわかってる。でも……だからってやる前からあきらめたら何にも始まんねえだろ!」


ルドガーの怒鳴り声に負けることなく、イッセーは叫び返す。その言葉にルドガーは思わず、言い返す言葉を失う。諦めなければ何でもできるという事はこの世に存在しない。それはルドガー自身がその身をもって体験してきたことだ。

“ミラ”の手を離さないように諦めなかったが結局は彼女を失った。だが、イッセーの言うように、だからといってやる前から諦めれば出来た事すら出来ないのもまた事実だ。だとしても、彼は大切な者を失う事を認めない。彼は呼吸を整えてハッキリとした口調で相手の言葉を拒絶する。


「だとしても、傷つくのは俺一人で十分だ。俺の問題なんだから、俺一人が諦めずに立ち向かえばいいだけだ」

「なんでお前だけ辛い思いするんだよ! なんでお前だけ傷だらけになるんだよ! 友達ってのは苦しい時に助け合うもんなんだぞ…! 一緒に傷ついてやるもんなんだぞ!」


だが、ルドガーの拒絶の言葉はすぐに返されてしまう。かつての仲間達も恐らくは同じような言葉を自分にかけるだろうと思うとルドガーの心は揺らいでしまう。同時に、こわくても、つらくてもいっしょにがんばっていくというアイボーの言葉も思い出す。エルなら今の自分を見たらどうするだろうかと考える。やはり、彼と同じように自分と助け合おうとするだろうなとルドガーは確信する。


「……兄様。兄様は幸せになってくれといいましたよね?
 ……逆に兄様に聞きます、兄様は今―――幸せですか?」


小猫の言葉にルドガーは言葉が出なかった。ルドガーが今を幸せに感じているかどうか答えは否だ。かつてジュードに拳で語られたように大切な人と離ればなれになって平気なはずなどなかった。自分が今―――幸せなはずなどなかった。


「……自分を幸せに出来ない人が、誰かを幸せに出来るなんてことはないです。……兄様も分かっているんじゃないですか?」

「くっ……」


何も言い返せなかった。ルドガーもその考えには至っていた。ミラに教えて貰っていた。それにもかかわらず、自分の幸せを疎かにしていた。黒歌の幸せこそが自分の幸せだと言って自分を疎かにしていた。確かに彼にとっては黒歌の幸せこそが自分にとっての幸せであることには間違いがなかった。

だが、その中でも大切な人と一緒に居たいと、平穏な生活が送りたいと思わないということは無かった。己の兄も自分の幸せの為に全てを投げ捨ててくれたが、それでもルドガーと一緒に平穏な生活を送りたいという願いは持っていた。


「……兄様と一緒に居ることが私達の幸せです。……だから、帰ってきてください! 帰ってこないなら無理やりにでもついて行きます。一人になんてさせません!」


滅多に張り上げることのない声を張り上げて小猫が叫ぶ。その言葉にルドガーは悩んだ。彼等の幸せを優先するなら小猫の言うように自分が帰らなければならない。しかし、それでもなお、大切な者を失うという恐怖がルドガーを素直に動かさない。ルドガーはさらに自分が拒絶されるように叫ぶ。


「俺は! 俺は…っ! 百万もの世界を壊したんだぞ!? それでもいいのか!」


ルドガーは動揺の為にそんなことを叫ぶがその程度の言葉ではイッセー達の決意を止めることは出来なかった。アーシアが優しい声でルドガーに声を掛ける。


「全ては許されないかもしれません。でも償うことは出来ます。私は、ルドガーさんが幸せになることこそが償いだと思っています。それは、ルドガーさんも理解しているはずです」


ルドガーは理解していた、ミラの言葉を忘れてなどいない。アーシアの言う通りだということも分かっている。だが、素直になれない。ミラが握っていた手の暖かさや、ユリウスを殺した時の肉を貫く感触を忘れることのできない彼は素直になれない。


「私達にあなたの過去の罪を一緒に背負ってあげる事はできないわ。でも、今のあなたと一緒に悲しんだり、怒ったり、喜んだり、楽しんだりすることは出来る。もう、あなた一人に辛い思いはさせない。幸せになるなら全員で幸せになって、辛い思いをするなら全員で辛い思いをしましょう」


そう言ってリアスはルドガーに笑いかける。その言葉は暗に全員で生き残るか全員で死ぬかのどちらかにしようと言っているようなものだった。ルドガーはその言葉に声を返すことも出来ずに黙ってうつむく。そこに彼の愛する人の声が聞こえてくる。


「ねえ、ルドガーは私と一緒に居たくないのかにゃ?」

「そんなわけないだろ! 俺だって君とずっと一緒に居たい! 君を抱きしめたい……でも、君だけは失いたくないんだ! 君のいない世界なんて俺には耐えられないっ!!」


黒歌の問いかけに堰を切ったように叫び始めるルドガー。もし、黒歌を失えばルドガーは間違いなくその命を絶つだろう。異常とも言える愛こそがルドガー・ウィル・クルスニクの本質なのだ。そんなルドガーに黒歌は分かっていたとばかりに優しく笑いかけて言葉を続ける。



「うん、私もルドガーのいない世界なんて耐えられない。だから―――死ぬ時は一緒に死の」



その言葉にルドガーは言葉を失う。二人が二人共、片方を失えば耐えられない。だから、死ぬ時は一緒に死のうというのだ。それは逆に言えばお互いがお互いを生かすために守り合うということにもなる。ルドガーは今まで彼女を守るという事ばかりに固執して守り合うという事を考えていなかった。彼は今まで見返りを一切求めず、自分が守って貰うことや、自分が愛して貰う事など考えていなかったのだ。


「ルドガーが私との約束をかってに破るから、私もかってに約束するにゃ。ルドガーがいくら破っても私が本当にするから無駄にゃ」


そう言って、黒歌は真っ直ぐルドガーの瞳を見つめる。それは長きにわたり受け継がれてきた大切な約束の結び方。



「あなたに尽くしたい、あなたが望む全てを叶えることを約束します。
 あなたを守りたい、あなたを傷つけるもの全てを撃ち滅ぼすことを約束します。
 あなたを支えたい、苦しんでいるときも悩んでいるときも傍に居続けることを約束します。
 あなたを愛したい、この血肉も、意思も、魂の一欠片に至る全てを捧げることを約束します。
 だから、生きている間も死んだ後も―――私の傍にずっと居てください」



その言葉はかつて彼が彼女に約束した内容とほぼ同じもの。それは愛の告白、プロポーズ。傍から聞いている者達によってはその愛がいささか重すぎる様に感じられるかもしれないが二人にとってはちょうどいい位の愛だった。ルドガーは少しの間、茫然とした顔をしていたがやがて掠れた声を出す。


「君は……俺なんかの為に、すべてを捧げてくれるのか?」

「そんなこと言わないで―――あなただから全てを捧げられる」

「そうか……」



黒歌の強い意志の籠った言葉にルドガーは観念したように息を吐き紫色の空を見上げる。そして、ルドガーも何事かを決めて黒歌達の方に向き直る。そして、骸殻に変身する。その事に黒歌達は驚くものの誰一人として退くものはいなかった。その事が、黒歌達のどんなことがあってもルドガーと一緒に居るという意志をあらわしていた。


「君の想いはわかった。後は―――覚悟を示せ!」


鋭い目で黒歌を射抜き、そう宣言する。ルドガーは言っているのだ。
俺と一緒に居たいなら俺を認めさせてみろと。


「もう、二度とあなたを離さない!」


黒歌がルドガーの前へとゆっくりと進み出る。ルドガーはここで自分が負ければ文句は言わずに彼女と運命を共にする選択をするつもりだ。しかし、自分が勝った場合は彼女にはその覚悟がないと判断して再び離れるつもりである。一方の黒歌は負けることなど考えずに、ただ、彼に抱きしめられる温もりだけを考えモチベーションを高める。

黒歌達は誰かを犠牲にして確実に幸せをつかむのではなく、誰も犠牲にせずに危険な賭けをしてでも全員で幸せを掴むことを決めたのである。その過程で全員が死ぬとしてもそれはそれで構わない。仲間の犠牲の上になりたった幸せなど自分達は認めない。それがどれだけ青臭い理想だとしてもそれを貫き通してみせると心に決めていた。


「俺は君を守る!」

「守られるだけなんてもう、嫌にゃ!」


黒歌は仙術、妖術、さらには魔力を混ぜた禍々しいまでの巨大な球体を創り出す。そしてルドガーは黙ってそれが放たれるのを待つ。そして黒歌が放ったと同時に動き始める。小さい槍を無数に投げつけていき、止めに巨大な槍を携え、一直線に突っ込む。


「マター・デストラクトオオオオッ!」


放たれた一つの弾丸のように黒歌の攻撃を貫き、黒歌本人へと突き進んでいく。その過程でルドガーは殺してしまわないように手加減をしようと考えるが、それは完全なる油断であった。様々なエネルギーが胡散したことにより、発生した靄を抜けた先に見えたのは―――さらにもう一撃の用意をしている黒歌だった。


「誰も、一つしか作ってないとは言ってないにゃ」

「しまっ―――」


若干、悪戯っぽい笑みを浮かべた黒歌に慌てたルドガーはすぐに次の一手を考える。まずは、回避することだが、マター・デストラクトはその性質上横にそれるという事は難しい。無理やり止まるという手もあるが、それでは結局のところ直撃するだけだ。そうなると、このまま突っ込むしかない。さらに威力を上げて進めば二撃目と言えど貫けるだろう。しかし、そうなると―――


「もう、逃がさないにゃ!」


自分の愛するこの人を殺してしまうかもしれない。そう思うと、迫って来る球体を目の前にしても威力を上げることが出来なかった。そして、ルドガーの体は禍々しい光の中に消えていく。


「弱いな……俺は」


黒歌の攻撃を受け、骸殻も解けてボロボロになった状態でルドガーは膝をつき寂しそうにポツリと呟く。傷つけてでも守ろうとしていたにもかかわらず、彼は守れなかった。結局、彼女の心を傷つけただけで終わってしまった。その事に思わず自嘲してでた言葉だった。


「弱くても大丈夫」


不意に黒歌に抱きしめられて、ルドガーはその目を閉じる。どうしようもない落ち着きに自分が戻りたかった事を悟り、そのままルドガーの意識は闇へと落ちていった。





目を開けると以前に見たことがあるような天井があった。その事に自分がどうしてベッドの上に居るのかと思ったがズキズキと痛む体が考えるのを拒むのと同時に唐突に理解する。ああ……負けたのか、俺。結局、俺が一人でみんなを傷つけただけで終わったな。

情けないな……俺。そんなことを考えながら体を起こそうとすると自分の体が何かによって、しっかりと拘束されていることに気づく。その何かに目を向けると俺を責めるような金色の目と思いっきり目が合った。


「じーー」

「えっと……その、だ」

「じーー」

「ごめん……」


わざわざ、自分で効果音をつけながら俺をこれでもかとばかりにジト目で睨んでくる黒歌によって俺は抱き着かれていたのだ。豊満な胸が俺に押し当てられているが、俺は申し訳なさでそれどころじゃない。取りあえず、一言だけ謝るが黒歌の方は未だにジト目で俺を見つめてくるだけで許してくれる気配はない。


「取りあえず、動けないから離してくれると助かる」

「離したら、またどこかに行くかもしれないからダメにゃ」


放してくれと頼むが即答で返される。今更、どこかに逃げる気はないけど、前科があるからそう言っても信じてくれないか。俺はそう思って軽く息を吐いて別の願いを言う。


「じゃあ、腕だけでも動かせるようにしてくれないか?」

「……どうして?」

「君を抱きしめられない」


そう言うと黒歌は渋々といった感じで俺の腕だけを離してくれる。しかし、その耳はピコピコとせわしなく動いているため、喜んでいるのがまる分かりであった。俺はそのことに微笑みを浮かべながら黒歌を抱きしめる。そして、優しく口づけをする。


「……ずっと、黙っててごめん」

「それはいいにゃ。あんな過去……誰だって話したくないにゃ」

「それでも、ごめん」


直も謝り続ける俺に、寝ている状態では話しづらいと思ったのか黒歌が俺から離れて、ベッドの端に座る。俺も体を起き上がらせて黒歌と見つめ合う。色々と言いたいことはあるけど言葉が上手く出て来ない。


「私はルドガーが居なくなって凄く悲しくて毎日泣いてたにゃ。どうして、私がこんなに悲しい想いをしないといけなんだってあなたを恨んだりもした」

「……ごめん」

「でも―――一番辛いのはあなただった」


そう言って黒歌は俺を胸に抱きかかえる。その事に一瞬恥ずかしくなってしまうがすぐに記憶に残ってもいない母親に抱かれているみたいな気分になって体の力を抜いてその身を黒歌にゆだねる。


「でも、あなたはどんなに辛いことがあってもそれを隠して最後まで進み続けた」

「ただの……自己満足だよ」

「あなたは、どんなに悲しいことがあっても決して―――涙を流さなかったにゃ」


子どもを撫でる様に優しく俺の髪を黒歌が撫でてくれる。甘い香りが俺の鼻をくすぐり不思議な気分になる。誰かにこうして甘える事なんて兄さん以外にはしなかった。黒歌といる時だって、黒歌が甘えてくるばかりで俺は甘えたりなんてしなかった。


「私は強いあなたしか知らなかったにゃ。私を守ってくれる強いあなたが弱かった時なんて知らなかった。受け入れて貰うだけであなたを受け入れていなかった」

「……………」

「でも……これからは弱いあなたもちゃんと受け入れるにゃ。喜びも、悲しみも、怒りも、憎しみも、全部受け止めるから。だから―――私の前でぐらい泣いて欲しいにゃ」


そう言って、先程より強く、だけど優しく抱きしめられる。エルと出会ってから、俺は泣かなかった。強い人は弱い人の前では泣いたらいけないから泣かなかった。弱い人が安心して泣けるように強くなった俺は泣かなかった。ミラを失った時も、兄さんを殺した時も、エルと別れる時も俺は泣かなかった。なのに―――どうして涙が止まらないんだ。



「我慢しなくていいにゃ。声を上げて泣いて。弱いあなたは―――私が守るから」



その言葉で俺は限界になった。声にならない声を張り上げて泣き叫んだ。こんなに泣くのは兄さんと暮らし始めてからもなかったかもしれない。ボンヤリと銀髪の綺麗な女性が脳裏に浮かぶがそれが誰かもわからないままに黒歌の胸の中で泣き続ける。

そんな俺の背中を黒歌が優しく撫でてくれる。その優しさにただ甘えて俺は声が枯れるまで泣き叫び続けた。ああ……この人に愛して貰えて―――俺は本当によかった。

 
 

 
後書き
最近、ヴィクトルさんの余りのチートっぷりと過去の為にラスボスをヴィクトルにしてしまおうかと思っている作者です。しかし、ビズリーさんというトラウマも欠かせない。さらには……。ふーむ、色々と考えないとな。

次回から次章に入ります。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧