| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

クズノハ提督録

作者:KUJO
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

クズノハ提督来訪

 
前書き

 

 



鎮守府での騒動から数日後、葛葉は大本営のある地へと向かう新幹線に乗っていた。

駅のホームに発車メロディーが流れる。
「葛葉、次で降りるよ」
「……んぁ?」
向かい合って座る男の声で起きた葛葉は、寝ぼけ眼で窓の外を見た。
「司令官、ヨダレが垂れてる」
横に座る銀髪の少女がハンカチを差し出した。
「おぉ、ありがとな」
「……ん」
少女がほんの少しだけ頬を赤らめる。
「すっかり君に懐いてるみたいだね。その娘」
目の前の男は眼鏡を整えつつ微笑ましそうに言った。
「素直で人懐っこい奴なんだよ」
「……ん」
少女はほんの少しだけ苦笑いを浮かべた。
「あー……そっか。うん、仕方ないね葛葉だから」
メガネの男は何かを悟った様に嘆息し、呟いた。
「ん? まぁいいや。しかしお前まで一緒に呼ばれるとは思わなかったなぁ……」
葛葉は目を擦り、改めて目の前に座る男の顔を見た。
「……芝田」
「僕も呼ばれたんだよ。長門たちの現状について教えてくれるってさ」
安藤は長門型戦艦達のことは葛葉と芝田にしか話していないらしく、また二人も他人に教えたりはしていない。そこで大本営はこの二人を安藤と同様、大本営関係者として長門型戦艦捜索作戦に参加させると決定したのである。無論、全て安藤の意見によるものだが。
「あの安藤がそんなに偉い人の娘だったなんてね。世の中何があるか分からないね」
「そこまで言ってやるなよ……多分……きっと真面目な奴なんだから」
「でも駆逐艦娘を追いかけてる姿を見てると……何だかなぁ」
これには葛葉も何も言わなかった。すると、彼の隣に座る少女が袖を引っ張った。
「どうした?」
「安藤って……もしかしてこの前メールを送った人かい?」
青い瞳を丸くして、少女は尋ねた。
「そういえば一切話してなかったな……あいつは俺らの友人だ」
「それと、君みたいな駆逐艦娘は……気をつけた方がいいよ」
少女は一瞬意味が理解できなかった様に芝田の顔を見た。しかし、すぐ様白い顔をさらに青白くして葛葉を見つめた。
「あ、安心しろ。一応……女だからな。節度は、多分ある……と信じたい」
「歯切れが悪いよ司令官?」
「まぁ、流石にいざという時は何とかするから……」
「司令官……」
目の前で震える少女とその司令官を見ながら、芝田は口元を緩めた。
「しかし……まさか葛葉が、噂のВерный(ヴェールヌイ)の指揮を執ることになるなんてね」
窓の景色に目を移し、呟く。
「このまま四人目も……まさかね」








ーー大本営とある部屋にて。
「今日は出撃の予定は無い。だが、緊急時に備えて警戒は常に怠るな。以上」
男が淡々と言葉を発し、部屋を出る。それと同時に一人の少女がうんざりした様に溜息をついた。
「……相変わらず面白く無い人デース」
近くのソファに深く腰掛ける。白くほっそりとした手でティーポットから紅茶を注ぐと、たちまち紅茶の芳醇な香りが立った。
「やっぱり、ティータイムは大事にしないとネー」
上機嫌にカップとソーサーを手に取り、口元へ運ぶ。
「今はこの時間だけが楽しみデスから……」
カップが空くと同時に香りも徐々に薄まっていく。
「Oh!! そういえばスコーンのストックがもうアリマセーン!」
怪しげな口調で叫びつつ、少女が席を立ち財布を手に取る。
「手作りもGood! デスが、最近駅前に美味しいスコーンのお店を見つけたのデース!」
誰にするともない説明をしながら、少女は部屋を後にした。






「ふー、着いた着いた。やっぱり新幹線は快適だったねぇ、高いだけあるね、うん」
「交通費かかってないけどね、これも」
葛葉、芝田、そして銀髪蒼眼の艦娘 (ひびき)は駅の改札口前にて休憩を取っていた。
「そういえば葛葉。その娘の名前なんだけど……」
地図を広げながら芝田が尋ねた。
「一応、彼女の意思を尊重するならだけど……Верный(ヴェールヌイ)じゃないの?」
芝田の疑問を聞き、青く澄んだ瞳に葛葉が映る。
「まぁ呼びづらいからな。それに響の方がいいだろ? 響きが」
葛葉は得意げな顔で親指を立てて答えた。
「……そーだね」
「……そうだね」
当の青い瞳までもが逸らされた。
「葛葉はこんな風にどうしようも無いときがあるからね……頼んだよ、響」
「了解」
「……」
葛葉は得意げな顔をしたまま固まった。
「そろそろ行こう。万一遅刻なんてしたら怒られるからね」
芝田が地図を仕舞いながら二人に呼びかけた。
「……早く行くよ司令官」
響が葛葉の手を引き、歩き出す。
「こらそんな引っ張るな……っとと」
よろめきながら葛葉も手を繋いで歩き出した。








「ありがとうございましたー」
ーー大本営から徒歩十分程のカフェにて。
「今日も相変わらず賑わってマシタが、無事買えて良かったデース!」
周りからの視線も気にせず、やたらと目立つ少女は目当ての品を手に店を出た。
「勝手に出て来てしまいマシタが……すぐに戻れば問題Nothing♪」
意気揚々と走り出そうとしたその時、少女の肩が軽く叩かれた。
「ねぇキミ、今暇? 良かったら僕達とお茶でもしない?」
少女が振り返るとそこには三人の青年がいた。
「Ah……えーと……」
「しかしキミ可愛いね! 服もオシャレだし肌も白くて綺麗だし」
肩を叩いたと思われる青年が捲し立てるように褒めちぎる。
「あ、ありがとうございマース?」
少女は困ったように笑いつつ、半歩後ろに下がった。
(うー、早く帰らないと怒られてしまいマース……)
少女が悩んでいる間も、青年はひたすら褒め続けている。
「あ、そうだ。キミ彼氏とかっているの?」
「彼氏……boyfriend……ハッ!」
すると少女はおもむろに辺りを見回し始めた。









くぅ……
「!」
突然、小さく唸るような音が葛葉の隣から鳴った。
「ん?」
「……」
葛葉の隣に寄り添う少女は、ほんのりと耳まで赤く染まっていた。
「……俺、腹減ったなぁ」
「!」
葛葉がふと零した。
「そういえばもう12時だね。お昼でも食べる?」
「時間もまだまだあるし、そうだな。じゃ、店探そうか」
葛葉が辺りを見回す。
「どこで何を食べるかとか……考えてるわけないか」
「何だよ、まるで俺が無計画な無鉄砲野郎みたいに……知らない場所、知らない店との一期一会の出会いってのも旅の醍醐味だろ?」
「一期一会ね……まぁそういうのも悪くはないと思うけどね……」
やれやれと言った具合に芝田がポケットからスマートフォンを取り出し、インターネットで店を探し始める。葛葉と響もその画面を覗き込んだ。
「お、流石頼りになるぜ! お前に任せれば大体なんとかーー」


『どぅうううぁあああああありぃいいいいいいん!!』
ぼふぅっ!!


「ごふぅっ!!」

突如、奇声と鈍い音と共に葛葉の身体が後方へと飛んだ。
「ここなんてどうかな? 美味しそうなラーメン店なんだけど……って葛葉!?」
「大丈夫かい、司令官!?」
慌てて、路上で倒れる葛葉の元へ駆けつける。

「えっへへ〜、ダーリンとこんな所で会えるなんて奇遇デース!」
その腰にはやたらと騒がしい少女が抱きついていた。

 
 

 
後書き


「ワシはまだ、死なんぞ……」

はい……どうもKUJOです。何ヶ月ぶりくらいでしょうか……読んでくださった方に心から感謝の言葉を贈りたいです。
「更新大分遅れたなぁ? オイ」とか、「間随分空いたくせに新キャラ(?)出すのかよ」とか「もっと文章力(ry」とか色々ご意見ご不満も有ることでしょう……。大変申し訳ありませんでした。
最近多忙が重なりまして、小説を書く暇もなければ練習することもできないという苦しい状況になってしまいまして……ご迷惑おかけしました。

このクズノハ提督録は何としてでも頑張って納得できる最終話を書いて終わらせます。いつになるかは分かりませんが。
その時まで、よろしければお付き合い頂けるとありがたいです。

それでは、皆様ご機嫌よろしゅう。 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧