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魔法少女リリカルなのは ―全てを変えることができるなら―

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第九話

《マスター……あなたには失望しました》

「待て待て、ちょっと待て、誤解だ!」

《ではこれは一体なんですか》

 まるで浮気の証拠を晒され、それに対して言い訳をしている夫のような様子の彼/朝我 零は浮気されて激情している妻のような様子の愛機/クロス・ネクサスに対して必死に弁解をしていた。

 朝、いつのも部屋のベッドで起床した朝我に、ネクサスはこの態度で接してきた。

 その理由は――――本日の午後から機動六課の多くの職員は休暇をもらい、自由に過ごせることになり、朝我には朝から多くの人からのお誘いメールが届いていたのだ。

 データの管理はネクサスも行っているため、起床する朝我よりも速く知ることができた。

 お誘いの相手のほとんどは女性で、中にはそっちのけがありそうな男性からも来ていたが、それにはネクサスが速攻でお断りメールを入れた。

《マスターがここまで女(時々男)たらしだと思いませんでしたよ》

「時々男って所が特に意義有りだが、取り敢えず俺は女たらしになった覚えはない!」

 それに……と、朝我は表情を鋭くして続けた。

「今日は、俺にとって重要な日でもあるんだ。
皆には悪いけど、断らないとな」

 一巡目通りであるのなら、今日と言う日はある出来事が発生する日。

 そして今日をきっかけに“彼ら”も動き出す。

《……せっかくのお休みと言いますのに、男一人で街に出るとは……》

 その気になれば彼女の一人くらい……と呟くネクサスの声は朝我に届かず、彼は外に出ても怪しまれない程度に服を着替えだした。
 
 ショート丈のPコートに長袖のカーディガンに白のYシャツ、ツイルチノパンツ姿と、外に出ても怪しまれない服装にすると、洗面所に向かって鏡で自分の姿を確認する。

「……似合ってるのかな」

 実を言えば、彼はファッションに一切の興味がない。

 男物の服で、奇抜すぎなければ別に何でも良いと言えるような性格だった。

 だが、それでは許さないと言わんばかりに彼を服屋に連れて行ったのが、一巡目のなのは達だった。

『零くんは基がいいんだから、もっと服装にもこだわらなきゃ!』

 なのはにそう言われたが、朝我はあまり自分を評価できないため、なのはの言葉を否定した。

『俺は、そう言うの興味もてないからさ』

『でも、やっぱり男性なんだし、こういうのに興味を持ってみてもいいんじゃないかな?』

 フェイトがそう言って、落ち着いた雰囲気の服を持って彼の体に照らし合わせる。

 彼女の言うとおり、興味は多い方がよく、趣味は増えた方が尚良いに決まっている。

 その上、“当時の朝我”は普通の人ほど趣味も何も持ってなかったため、何かに手を付ける機会があってもいいだろうと思えた。

『零君、零君!
ちょぉ、これ被ってみぃ?』

 そう言ってはやてに渡されたものを、朝我は言われるがままに頭につけてみた。

 ――――それは何故か白とピンクの兎耳だった。

『って、これもファッションの内に入るのか!?』

『あっはは~!
当たり前や、冗談や!』

『人が無知だからってこれはどうかと思うんだけど!?』

 はやての悪ふざけに、朝我が怒ると言う構図は、一巡目からのことだった。

 彼女は決して、本気で朝我を深いにさせるようなことはしないが、緊張感を解くような、楽しむためにそういったことをしており、朝我もそれを理解した上で付き合っていた。

 そんな二人の姿をなのはとフェイトが笑いながら見つめ、程よいタイミングで止めに入るのがお決まりの流れ。

 そして色々な服を試着して、何着も購入したのが、機動六課に入隊して丁度今頃の思い出。

「……」

 あの頃は外出の際など、彼女達が服を選んで、いつもいつも『キマってるよ』とか『今日もカッコイイよ』などと頬を赤らめて褒めてくれた。

「お世辞なのは、分かってるんだけどな……」

 それでも嬉しいと思い、気づけば色んな服を着ていた。

 だが、どうも自分にはセンスと言えるものがないらしく、自分で選んだ組み合わせの評価は良くなかった。

 ……だからだろうか。

「この服装、合ってるのかな……」

 鏡に写る自分の顔は、いつだって自分の想像よりも不細工だ。

 イヤホンで聴く自分の声は、いつだって自分の想像よりも汚い。

 何かを通して知る自分とは、いつだって想像よりもひどく、醜い。

 だから今、鏡に写る自分の服装が、姿が、進んでいる道が正しいのか、分からなかった――――。


*****


 ミッドチルダ首都/クラナガン。

 近代都市と言えば大方の町並みを想像できるだろう。

 高層の建築物が多く、最先端医療が取り入れられた病院施設や、流行に乗った老若男女に合わせたものを販売する店があったりするような街。

 場所によってはデートスポットと言われるものもあり、多くの人々が利用している。

 別世界からの観光客も多い街に朝我は繰り出し、目的地に向かって歩いていた。

「こうして街に出るのも久しぶりか……」

《半年ぶりですね》

 最後に訪れたのは、機動六課へ入隊する際に荷物を届けた帰りにスバルとティアナの三人でのことだった。

 ほとんどの時間をスバルの食べ歩きに費やした印象が強く、あとはショッピングかゲームセンターの二つほどしか覚えていないような、そんな一時だった。

 しかし、それでも彼にとっては充分に楽しかった思い出であり、街を歩けばそういった思い出が鮮明に蘇っていった。

「……ほんと、懐かしいな」

 一巡目では、なのはとフェイトとはやての四人デートだった。

 三人寄れば姦しいと言うように、街に出ると三人は目立った。

 容姿端麗の美少女三人が並んで歩いているのだから当然と言えるだろう。

 朝我は自分が脇役以下の、友人Aのような存在に感じ、一緒にいることがどこか苦しかった。

 そんなこともお構いなしに三人は彼の手を引き、強引に引っ張っていった。

「そう言えばあの時の俺、街に行くこと自体を嫌がってたな……」

 無関心、面倒、無気力。

 色んな言い訳が出てくるが、とにかくあの頃の朝我は意味のない外出を嫌い、休みの日は基本的に引き篭っていた。

 見かねた三人に強引に引っ張り出されたことを思い出し、彼は苦笑する。

《全てが終わったら、またお三方を連れて行きましょう。
FWの皆様で向かうのも賑やかでいいのではないかと思いますが?》

「ははっ……流石にそれは多くて賑やかそうだ」

 ネクサスの提案は冗談なのか、本気なのか、朝我には分からなかった。

 しかし、それでも想像した。

 自分がいて、彼女達がいて、皆がいて――――。

 同じ場所を笑顔で歩く、そんな当たり前の平和を感じる瞬間を――――。

「――――そのためにも、頑張らないとな」

 気を引き締めると、朝我は狭い路地を曲がって行き止まりに到着する。

 足元を見るとマンホールがあり、朝我はボーリング玉のような穴に指をさし込み、力任せに蓋を引き上げた。

「ネクサス、見つけたか?」

《はい。
現在地から少々離れますが、発見には成功しましたので誘導します》

「よし、行くぞ」

 朝我は思考を振り払い、地下水路へと飛び降りた――――。


*****


「う~ん……」

「フェイトちゃん、落ち着いて……ね?」

「なんや、執務官試験前日みたいな光景やな」

 新人たちが外出し、部隊長兼幼馴染のなのは、フェイト、はやての三名は食堂の白い丸型テーブルを囲うように座ってお茶をしていた。

 機動六課は人員が多くなく、さらに多くの人物が若い職員なため、様々な書類関係の問題が多い。

 設立当初はその整理に追われてこういった落ち着いた日を迎えることができなかった。

 ようやくとれた休みにほっと一息しつつ、幼馴染同士で久しぶりに会話をしようと言うことになって集まってみて数分が経過し、様子に変化が訪れたのはフェイトだった。

 紅茶の入ったティーカップを両手で抑え、小さく揺らしながら水面を見つめていた。

 二人の話しに一切耳を貸さず、ただ一点を見つめる姿は落ち着いていない証拠なのを、幼馴染の二人は知っていた。

「う、うん……わかってるんだけど……」

 何に対して落ち着きを失っているのか、ここ最近の彼女の言動を知っている二人はすぐに悟った。

「朝我くん、今日は一人で出かけたみたいだね」

 なのはの言葉に、フェイトは全身を大きく震わせ、無言で頷いた。

 図星を突かれたフェイトはため息を漏らした。

「なんで一人で出かけんだろうとか、どこに行くのかとか、どうしても気になっちゃって……」

 本音を漏らすと、なのはとはやては彼女の心配性に呆れ混じりの苦笑を漏らした。

「まぁ気持ちは分からんでもないんやけど」

「そうなんだよね~」

 紅茶を口に含みながら、なのはとはやては深く頷く。

 フェイトほどではないが二人も朝我のことが気になっていた。

 思考の片隅に彼がふと現れ、そして氷のようにすっと消えていく。

 それ故になぜ登場してきたのか気になり、一度気にしたら最後、心の奥がモヤモヤするような感覚に囚われた。

 それだけの強い存在感は、出会った最初の頃からあった。

 ――――八年前、高町 なのはは任務中の事故で長期の入院生活を送った。

 当初は魔導師として空を飛ぶこともできない恐れがあるほどの重症で、周囲には気にしていないと言う笑を浮かべつつも、心の中では叫びたいほどの絶望感を味わっていた。

 そんなある日、隣の病室に一人の少年が運ばれてきた。

 それが朝我 零だった。

 自分とほぼ同年代の人と言うこともあり、気になって病室を覗いてみたなのはは、彼の姿を一目見た時から衝撃を受けた。

 心臓を鷲掴みにされ、全身を鎖で縛られたような痛み、苦しみ、束縛感。

 恐怖に近い衝撃と、そしてどこか懐かしい感覚を、なのはは感じた。

 声をかけたのはきっと、その感覚の正体を知りたかったから。

 彼は自分が記憶喪失なのだと語り、独り身の彼とは親身に付き合った。

 そうすることでなのはは、自分の置かれた状況に対する不安や恐怖を和らげたのだ。

 効果は思った以上に出た。

 それは彼が、なのはの心情や思考を読んでいるのではないか思うほど気が利いた言動を取るからだった。

 色んなことを質問してきても、デリケートな所には触れないようにし、逆に気にして欲しいと思った所は積極的に手を出してきた。

 自動販売機に向かおうとすれば必ず車椅子を押してくれ、飲みたいものが届かない位置にあればすぐに押してくれた。

 それは後になのはとの繋がりの中で出会ったフェイトとはやて達にも起こったことだった。

 現在では普通に立って歩いている八神 はやてだが、十年ほど前までは生まれてからずっと車椅子に乗らないと移動ができない生活を送っていた。

 そのこともあり、歩幅が普通の人より短く、速度も少し遅い。

 初対面の人は気づくかず、はやてが少し小走りにしないと追いつけないのが小さなコンプレックスでもあった。

 だが朝我は、最初からはやてに合わせた速度で歩くことができた。

 別に話したわけではない。

 本人も気づかないほど自然に、ごく当たり前のように彼ははやてのペースに合わせていた。

 なのは達の影で、なのはの事故のショックで執務官試験に落ちたフェイトのことを気にかけたのも朝我だった。

 当時、なのは達ですら気付けなかったほど、フェイトは自身のショックを周囲に隠していた。

 なのはに負担をかけたくなかったと言う意思が何より強かったからだ。

 だが、朝我はフェイトが何かを隠していることに気づき、そっと寄り添ってくれた。

 彼から何かを聞いてくることはなかった。

 ただ、傍に居た。

 一人にはしても、孤独にはさせなかった。

 それが当時のフェイトにとってどれほどの支えになったか、それは現在のフェイトの様子を思い浮かべれば言わずもがなといったところだ。

「朝我……どこに行ったんだろ……」

 そんな彼だからこそ、いやでも気になってしまう。

 なのはとはやては強く、フェイトはもっと強く。

 彼は、自分のことを話してくれないから。

 いつも他人のことを知り、他人の中に支えとして存在する。

 だが、では彼には誰が居るだろうか?
 
 そもそも、彼には誰か居ただろうか?

 本当の意味で独りなのは、彼なのではないだろうか?

 そう思ってしまうような彼が一人、又は独りで、どこかに向かった。

 知る限り……いや、“思いつく”限り、彼がショッピングに興味があるとは思えない。

 様々な服を持っており、それが三人の好みに合うが、それでも彼が積極的にファッションに興味がある人間だと思うこともできない。

 散歩を理由に彼が出て行くとも思えない。

 ――――何か目的がある。

 三人の思考は合致した。

「……ちょっと動いてみる?」

 なのはの提案に、フェイトとはやては真剣な表情で強く頷いた。


*****


 デバイスを起動させ、BJを身にまとった朝我は、地下水路の中を走っていた。

 同じような景色が続き、途中に分かれ道がある、まるで迷路のような場所を彼は迷いなく駆け抜けていく。

 常に彼にはネクサスから送られてくるルートを通っているためである。

 そしてしばらく答えの分かっている迷路をくぐり抜け、朝我は遂に見つけた。

「何とか見つけられたな」

《ええ、一巡目通りですね》

 朝我とネクサスは、目の前で倒れている少女を見つめながらそう言った。

 金髪の長めの髪に、幼い身体。

 雑巾のような汚い布一枚で首から下を包み、鎖を左手に巻かれ、その先には幼い子供には重たすぎる荷物が付いていた。

 彼女の足跡が続いていることから、彼女はここまでずっと一人で歩いてきたのだろう。

「……一度見たからって耐えられるものじゃないな、この怒りは」

 右こぶしを強く握り締め、爆発しそうな怒りを押さえ込む。

 一巡目でも見た光景だった。

 彼女/ヴィヴィオは一人でレリックを運んで地下水路を彷徨い、俺達に救助された。

 その時の朝我は、こんな幼い子まで巻き込んでしまうスカリエッティのやり方に激情を覚えた。

 覚悟はしていた。

 また、同じものを見ることになることくらい、最初から。

 だけど、だからって慣れることはない。

 誰かが傷つく姿を想像できても、例え命が救われる未来を知っていたとしても、結局、今は今で未来は未来なのだ。

 今、目の前で傷ついている人がいれば心配になるし、怒りも覚える。

 なぜなら彼らは――――“人間”なのだから。

「さて、早くこの子を六課に運ぶぞ」

《了解です……っ!?》

 彼女の左手から鎖を外し、起こさないようにおんぶした朝我に、ネクサスは驚いたような反応を示す。

「ネクサス、どうした?」

《そんな……なぜ、こんな……!?》

 明らかな動揺が、ネクサスから伺えた。

 デバイスは機械であるが、感情もある。

 故に想定外の事態に対して動揺することもあるが、それは人間に比べれば少なく小さい。

 だが、今回のネクサスの反応は明らかな動揺だった。

「ネクサス、落ち着いて答えろ。
何がどうしたんだ?」

 主である朝我の鋭い声に、ネクサスは我を取り戻して冷静に話す。

《現在地から200mほどの距離からガジェット・ドローンのⅠからⅢ機体が複数体接近中。
更に、――――人造魔導師素体も複数人》

「っ……まさか、ナンバーズか!?」

 ネクサスに続いて朝我も動揺した。

 ヴィヴィオの登場までは、大凡一巡目通りの展開だった。

 朝我 零一人の行動は些細な変化しか起こしておらず、今後もそうなのだと確信しかけていた。

 そこに現れた、ガジェットと人造魔導師素体……通称、ナンバーズ。

 確かに一巡目にて登場はしたが、それはあと数時間後の話であって今ではなかった。

 朝我が来なければヴィヴィオは一巡目と違い、スカリエッティの手に渡っていたところだった。

「……遂に、大きな変化を起こしたか」

 覚悟していた時が、遂にやってきたのだ。

 予測不可能の事態。

 一巡目の記憶は、少ししか参考にならない時が、ついに来たのだ。

「……なら、こっちも動くしかないな」

《戦いますか?》

「そうするつもりだけど、まずはヴィヴィオを外に出そう。
一巡目通りなら、スバル達が近くにいるはずだ」

《了解しました。
では私は現在地からFWの皆様に連絡を入れます》

「ああ。
だけど、俺がガジェットと戦ってることと、俺のいる現在地は教えないでくれ」

《……お一人で戦うつもりですか?》

 朝我の指示に、ネクサスの声は鋭く怒りを帯びる。

「……ガジェットはともかく、ナンバーズの相手は俺がやらないといけない――――そんな気がするんだ」

 その言葉からは確かな決意が込められ、その言葉に至るまでに様々なことを考えたのだとネクサスは察した。

 一人で多数の敵を相手することの無謀さ、危険さも十二分に理解した上での決意。

 それは正論や理屈では覆せないものだと思い、ネクサスはため息混じりに納得した。

《……マスターのお望み通りに》

「悪いな、いつも」

《何を今更》

 不貞腐れながらも、一人と一機は笑いあった。

 そして朝我はフリューゲル・ブリッツを発動させて走り出し、ネクサスはスバル達に緊急連絡を送った。


*****


「二人とも、遅れてごめんね!」

「いえ、大丈夫です!」

 スバルはティアナを連れ、路地裏でエリオに声をかけた。

 朝我 零のデバイス/ネクサスから届いた緊急連絡によって、休暇のために外出していたスバル、ティアナ、エリオ、キャロの四人は連絡があった路地裏で合流した。

 すでにエリオとキャロが到着し、そこにいた一人の少女をキャロが治療をしていた。

 ネクサスの連絡では、路地裏にて一名の少女がレリックを所持しながら倒れているので保護を要請。

 レリックを狙ってガジェットが出現する可能性が高いため、合流次第機動六課に連絡を入れるように、と言うものだった。

 ネクサスの連絡通り、少女は路地裏で仰向けになり眠っていた。

 硬い地面に寝かせないように地面に男性の上着が敷かれており、少女はそこに背をあずけていた。

 それが彼/朝我のものだと証明するように、少女の右手首にロングチェーンの状態で待機しているネクサスがあった。

「ネクサス、トモはどこにいるの?」

 スバルの問いにネクサスは先ほどの朝我の頼みを思い出し、嘘をつこうとしたが、言いそうになったところで踏みとどまった。

 ここで彼が戦っていることを黙っているのは、彼のためになるのだろうか。

 彼がなぜ、ナンバーズとの戦いを一人で望むのか、その理由を知らないわけではない。

 それを考えれば、彼の選択は間違いではない。

 ……だが、それでもだ。

 何でも一人ですることが、果たして正しいことなのだろうか。

 どんなことも、結局最後は一人で行うべきことだ。

 スジを通す、ケジメをつけると言った事に関してがまさにそうだ。

 彼が今、ナンバーズと戦うことも、彼なりのケジメだったりスジを通すことなのだろう。

 それを一人ですると言うことが、男としての意地なのだろう。

 そしてそれを尊重するのが他人のすべき事なのだろう。

 そこまで考えて、ネクサスは思った。

 ――――ふざけるな、と。

 何が意地だ。

 何がケジメだ。

 男だからなんだ。

 ふざけるな。

 目の前の彼女たちに何も話さず、一人で何でも抱え込むのは意地なのか?

 目の前の彼女たちに何も言わず、一人で何でも解決させようとするのはケジメなのか?

 男だからなんだ、意地だからなんだ、ケジメだからなんだ。

 ふざけるな。

 そんなのはただの自己満足だ。

 一人で駆けつけて、一人で解決させて、一人で去る。
 
 そんなの、正義のヒーローぶっているに過ぎないじゃないか。

 誰にも言わないんじゃない、言うのが怖いんだ。

 話すことが未来にどれだけ悪影響を与えてしまうのか、怖くて仕方ないんだ。

 そのくせしてお節介で、人の苦悩には平気で首を突っ込む。

 いい加減、他人を頼ったらどうだ。

 いい加減、他人を信じたらどうだ。

 仲間を、愛する人を、もっと自分に近づけたらどうだ。

 彼はそうするべきだ。

 本人が嫌なら、そうされるべきだ。

《……皆様、現在マスターは地下水路にてガジェットとの戦闘に入っています。
急いで救援に向かうべきかと》

 ネクサスの発言に、四人は一斉に驚きの表情になる。

 彼は今、デバイスを持っていない。

 故に身を守るBJもなく、魔法の出力を安定させることもできない。

 彼がどれだけ速く動けようと、一撃でも受ければ重症は免れない。

 更に地下水路は一方通行の狭い洞窟だ。

 どれだけ速く動けようとも、回避できる範囲は狭い。

 下手をすれば蜂の巣にされる。

 彼の持つ能力の全てを知らない彼女達の思考は、彼が傷だらけにされる光景しか浮かばなかった。

「トモ……」

「ったく、アイツはこういう時はいっつも無茶するんだから!」

「急ぎましょう!」

「でも、この子のこともあるし……」

 四人は彼の身を案じた。

 そう、彼にはこんなにも想ってくれる仲間がいるのだ。

 状況に応じて、頼れる仲間がいる。

 一人も頼らずに生きるなんて、本当はできないのだ。

 なぜなら彼は、そして彼らは、繋がりを持って生きる存在なのだから。

 こんな時は、誰かに助けを求めればいい、手伝ってもらえばいい。

 それで誰が彼を叱るだろうか?

 一人で耐え続けてきた彼に、『誰かを頼れ』と強く叱ることができるだろうか?

 彼の強さを、否定することができるだろうか?

 むしろ逆だろう。

 この場にいる皆は、そして朝我と言う人間に関わった誰もが、彼の今までを受け入れてくれるだろう。

 だから――――ネクサスは願う。

 もっと、仲間を信じて欲しいと。

 彼のために必死に悩む四人を見つめながら、ネクサスは何度も願った――――。 
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