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トールと従者

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1部分:第一章


第一章

                     トールと従者
 雷神トールと炎の神ロキはだ。互いに全く違う個性なのにそれでもだ。
 よく行動を共にしていた。それは今もだ。
 二人で巨人征伐の為に人間の世界を旅している。その征伐を終えて神の国に帰るその中だ。
 二人はトールが操る二頭の山羊が引く車に乗っている。そこでロキがトールに言って来た。
「前から思っていたのだがね」
「何だ?」
「トール、あんたは従者がいないな」
 ロキが今トールに言うのはこのことだった。
「そうだな」
「そういえばそうだな」
 ロキに言われてだ。トールもそのことに気付いた。
「俺にはそうした存在はいない」
「オーディンにはいるがな」
「あの男にはな」
 実はトールとオーディンの仲はよくない。性格的に合わないし彼の妹のフリッカはオーディンの正妻である。その関係がまた二人の仲を微妙にさせていた。
 それでだ。トールは今はその赤茶色の髭だらけの顔を顰めさせたのだ。
「いるがな」
「しかしあんたにはいないな」
「だから従者を持てというのか」
「ああ。それはどうだい?」
 ロキはいささか陰があるがそれでも整ったその顔でだ。トールに対して言う。見ればロキは見事な長い金髪に碧眼だ。トールの紅い髪と髭、黒い燃え上がる目とは対象的だ。
 ただし二人共その身なりは同じだ。旅をするに相応しい質素な上着とズボン、それにマントとブーツだ。毛皮さえその身にまとっている。
 その格好で共に車に乗りながらだ。ロキはトールに話すのだった。
「あんたもな。何かと役に立つだろう」
「そうだな。しかしだ」
「然るべき相手がいないのかい?」
「今まで考えたこともなかったからな」
 微妙な顔になり首を捻りながらだ。トールはロキに答えた。
「だからな」
「そうか。しかし今私の話を聞いたな」
「ああ、確かにな」
「なら考えておくことだな。何ならだ」
 ロキはここで悪戯っぽい笑みになった。
 そしてそのうえでだ。こうトールに言ったのだった。
「私が探してやろうか」
「御前がか」
「そうだ。二人程いい相手を見繕ってくるが」
「いや、それはいい」
 それには及ばないとだ。トールはロキにすぐに返した。
「特にだ。それはいい」
「おや、いいのか」
「探すのなら自分で探す」
 こう言うのだった。
「御前の知恵や目を借りるまでもない」
「おやおや、遠慮する仲かい?」
「そうだ。俺のことは俺でやる」
 トールは少し憮然とした顔になり前を見ながらロキに答える。今は一面雪原だ。白いばかりだ。
「御前の考えることではない」
「そうかい。じゃあ然るべき相手がいればだな」
「その時に俺が決める」
 こんな話をだ。旅の途中でしたのだ。そうしてだ。
 その日の夕方、白夜でまだ日は高い。しかしその白夜の中でだ。
 ロキはトールにだ。こう言ったのだった。
「さて、そろそろな」
「休むべきだな」
「ああ。丁度いいことに民家があるぞ」
 村がだ。二人の目の前に現われてきていた。小さいがそれでも民家が幾つもあった。
「人間の村だな。あそこに泊めてもらうか」
「そうするか。ではだ」
 車を曳く山羊達を見た。トールに仕える獣達だ。
「この連中にはまた仕事をしてもらうか」
「馳走になってもらうか」
「そうなってもらう。今日もな」
 この山羊達は食べられても翌朝には生まれ変わる。そうした便利な獣達なのだ。
 その彼等を見ながらだ。そのうえでだった。
 トールは車を停めてそのうえでだ。ロキを伴い民家の一つに入った。するとだ。 
 
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