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ファフナー

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6部分:第六章


第六章

「俺を。竜である俺を起こしてどうなるかわかっているのだろうな」
「御前が倒されるだけだ」
「馬鹿を言え。貴様は神々か、それともニーベルングか」
「人間だ」
 声は言ってきた入り口に向かっている彼に。
「人間の子供だ。さあ出て来い」
「人間に何ができる」
 ローゲの言葉は覚えていた。だが、だった。
 彼は人間をあくまで無力な存在と認識していた。だからだ。
 一捻りで倒せると考えていた。それ故にだった。
 彼はゆっくりと洞窟から出た。姿を見せればそれだけで怖気づき逃げるだろうとさえ思っていた。だが目の前の荒々しい服を着た金髪に碧眼の少年は剣を手にして。
 ファフナーに果敢に向かってきた。竜は炎を吹き焼き尽くそうとした。それを見て。
 だがそれより前にだ。人間の少年は彼の喉元に入り剣で一気に突いてきた。その突きは喉を深々と貫いた。そこはまさに急所だった。
 急所を貫かれた竜はそれでもんどり打って倒れた。巨体が揺らぎ重いものが落ちる音がした。
 そうしながら崩れ落ちてだ。巨人の本来の姿に戻りながら。彼は少年に対して言った。
「人間と言っていたが」
「それがどうかしたか」
「人間が俺を倒したのか」
 このことをだ。彼に言ったのだった。
「まさかな」
「まさかと言うがこの通りだ」
「そうだな。俺は人間に倒された」
 自分でもだ。このことは認めるしかなかった。
「紛れもなくな。言われた通りだ」
「誰に言われた、それは」
「御前の知ることではない」
 己の足元に立つ少年を見上げながら。彼は何とか言葉を出した。
 血は地面を満たしていく。それはそのまま彼の命が消えていく証だった。その中でだ。
 巨人はさらにだ。こう言ったのだった。
「とにかく。俺は死ぬのだな」
「そうだな。御前は僕に倒されたからな」
「人間に倒されたか、巨人が」
 そしてさらにだった。
「竜が。倒されたのか」
「それがどうかしたのか?」
「竜は誰にも倒されないと思っていた」
 確信していた。まさに。
「どんな武器でも魔術でも。竜は倒されないと思っていた」
「しかし御前は僕に倒された」
「そうだな。俺は人間に倒された」
 顔から血の気が失われていく。死期が近付いていた。
「紛れもなくな。竜にも敵がいたか。そして」
「そして?」
「御前は俺が恐ろしくないか」
「恐ろしい?何だそれは」
 恐怖、それについてはだった。
 少年は全く知らないという感じでだ。ファフナーに問い返してきた。己の足元に横たわる彼に対して。
「そんなことは知らないが」
「そうか。そもそも恐怖もないか」
「だから何だそれは」
「そのこともわからないならいい」
 それならばだとだ。巨人はこのこともいいとした。
「とにかくだ。俺は倒された」
 指輪の呪いのことも思い出した。だがそれ以上にだ。
 彼は自分が今まで相手にならないと思っていた人間に倒されたことを思いだ。そしてだった。 
 達観した顔になりだ。こう言った。
 死ぬその時は間近に迫っていた。その中での言葉だった。
「倒されない者なぞいないか」
「それで御前は財宝と指輪を持っていたな」
「持っていけ」
 もうだ。それへの執着はなかった。死を前にしては。
「好きにしろ」
「そうしていいんだな」
「俺はもう死ぬ。ならいい」
 最早だ。執着はないというのだ。少年にもそれを告げた。
「持っていけ。だが最後にだ」
「最後に?」
「名前は何という」
 彼の名前はだ。自分から聞いた。
「人間の少年よ、御前の名前は何という」
「ジークフリートだ」
 少年はすぐにだ。巨人に対して名乗った。
「それが僕の名前だ」
「ジークフリートか」
「そうだ。御前は死ぬが覚えておいたら有り難い」
「忘れるものか。ではさらばだ」
 別れの言葉を告げた。その時になったがだ。
 彼は自分を倒した人間の少年、ジークフリートに対して恨みは感じなかった。彼が感じていたのはこの世に敵がいないという現実、このことだった。
 このことを深く感じながらだ。ジークフリートに別れを告げた。
 そうして意識が薄れていくのを感じ取った。そしてそのまま目を閉じて巨人は死んだ。誰にも倒されなかった筈の彼が今死んだのだった。人間の少年に倒されて。


ファフナー   完


                  2012・4・22
 
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