SAO ––TS少女のデスゲーム攻略
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第2話
前書き
更新何カ月ぶりだろw
SAOのベータテスト期間の2ヶ月は、あっという間に過ぎ去った。
俺は毎日、学校から帰ってくるとすぐにナーヴギアを起動し、夜遅くまでダイブし続けた。それだけ、俺はこのゲームにどっぷりハマっていたのだ。本来なら怒られてもおかしくない生活スタイルだったのだが、母はいつもニコニコしながら、俺の仮想世界での体験談を聞いてくれた。弟も、俺が何かに興味を持ったということに、かなり驚いているようだ。そりゃあ、中学生って思えないぐらい冷めてたからなぁ……。今までの俺は。
それに 、ゲームの世界の中でだが、男の親友が出来た。現実世界の友達は全員女の子だったし、俺も女の子として振舞っていたので、本来の今の自分をさらけ出すことができなかった。だが彼は、俺の本来の性別を知らないので、アバターの外見通り男として接してくれた。ある意味俺は、現実の顔も名前も知らない人達と接することができる仮想世界の方が「本来の自分」になれたのだ。
彼と出会ったのは、SAOβテスト初日の事だった。
初めて仮想世界に来て右も左もわからなかった俺は、慣れているような、迷いのない動きをしている一人の少年(の姿をしたアバター)を見かけた。俺は彼の後を追いかけて、自分は初心者だから、色々と教えて欲しいと頼んだ。最初は彼は渋っていたが、頭を下げて何度も頼んでいると、しょうがないといった感じで俺の頼みを引き受けてくれた。
最初の俺はというと、酷いもんだった。このゲームのシステムに《ソードスキル》というものがあり、プレイヤーの動きをシステムが検出し、自動的にシステムが技を使ってくれるというものなのだが、なかなかコツを掴むことができなかった俺は、幾ら剣を振ってもソードスキルが発動できず、敵にやられては死に戻りを繰り返していた。
初めてソードスキルを使えたときにはもう夕方になっていて、彼を大いに呆れさせたものだ。初日はほとんど俺の特訓で終わってしまった。あの時には彼に悪いことをしたと思う。まあ、彼はぶつぶつ文句らしいことを言っていたものの、まんざらでもないような顔をしていたので、俺も安心した。
俺たちは次の日もその次の日もパーティーを組んで協力して––––というか、俺が一方的に足を引っ張って、ゲームを進めた。初めは最低限のことしか話さなかった彼とも、長い間パーティを組んでいるうちに、家族のことや学校のことなど、色々なことを話すようになり、あまり笑わなかった彼も、少しずつ笑顔を浮かべるようになった。短い付き合いだが、彼とは親友と言える仲にまでなっていた。
だが、そんな今世で一番楽しかったかもしれないβテストも、とうとう終わりが来た。
「また、会えるよな……?」
別れの前、彼は泣きそうな顔をしながらそう言った。
「ああ、もちろん!次は製品版で会おうな!」
俺は精一杯の笑顔を浮かべてそう答えた。それを聞いた彼は安心したようにフッと微笑み、笑顔でログアウトしたのだった。
それからしばらく経って今日、11月6日、日曜日。ついに製品版が発売された。サービス開始は午後1時から。きっと彼も来るだろう。現在12:50分。俺のテンションは既に最高潮だ。
ゲームが始まったらあれをしようとか、今度は彼とあそこへ行こうとか、まるで恋する乙女のような事を考えていると、あっという間に10分が経過した。俺は既に装着していたナーヴギアのスイッチを入れて一言、
「リンク・スタート」
と唱えた。
俺の周りから光が消え、意識が深く、深く沈んでいくような感覚。
やがて、暗闇の中に薄っすらと虹色の光の輪が見えてくる。
その光の輪は次第にはっきりと、大きくなりながら俺の方へと近づく。
その輪をくぐった瞬間、俺の視界に光が溢れ、ゆっくりと周りの物の輪郭が見え始める。
そこは、『異世界』と呼ぶのにふさわしい空間。
自分を含めた全ての物が、元素ではなく、0と1の数字だけで構築されている世界。
そこにいる人々は、当たり前のように武器や防具を装備していて、それを売っている人もまた当たり前のように存在する。
世界の姿も自分の姿も別物の、完全なる別世界。
俺は自分の手を見つめ、感覚を確かめるようにグーとパーを繰り返す。そこにはしっかりと感覚があった。
––––––夢じゃない。帰ってきたんだ。
βテストが終わった時から毎日のように夢を見てきた。この世界の事、親友の少年の事。それがついに今日叶うんだ……!
俺は走り出したい衝動をぐっと抑え込んだ。彼とは午後6時に、はじまりの街の中央広場で会う約束をしている。焦っても仕方がない。落ち着け俺。
俺は、とりあえず必要な物を購入し、ついでに街を見て回ることにした。
***
「うわっ!もうこんな時間かよ!」
買い物とかにこんなに時間を掛けるとは。まるで女の子じゃないか。……あ、俺女の子だっけ。
まあいいか。約束の時間までもうちょっとだし、ベンチにでも座って時間を潰そう。
そう思って近くのベンチ腰掛けた瞬間、
––––リーンゴーン、リーンゴーン
大音量のサウンドが鳴り響く。
何が何だかわからない内に、俺の体は鮮やかなブルーの光の柱に包まれた。
周りの物の輪郭が薄れ、やがて何も見えなくなる。
次に見えたものは、黒光りすると宮殿、周りを見回すと、中世風の街が広がっている。
間違いなくそこは、ゲームのスタート地点であり、俺と親友との待ち合わせ場所でもあった、はじまりの街の中央広場だった。
そして、ここにいるのは俺だけではない。周りを見回すと色とりどりの装備、髪の色、整った顔立ち、そんな人が沢山いて、みんな訳がわからないといった顔をしている。きっとここにいるのは1万人の全SAOプレイヤーなのだろう。
「何なんだよ……。一体」
俺はそう呟いた。
ざわざわという声が徐々に苛立ちの色合いを増し、喚き出す者も少なくはなかった。
やがて誰かが、
「あ……上を見ろ!!」
と叫んだ。
俺を含めた沢山のプレイヤーが、反射的に視線をその方向に向ける。するとそこには、
【Warning】
【System Announcement】
と、表示された真紅の市松模様が広がっていた。
「何だ……?アナウンス?不具合か何かか……?」
俺がそう呟いた瞬間、空を埋め尽くす真紅のパターンの中央部分が、どろりと垂れ下がった。
それはまるで巨大な雫のように落下した、と思いきや、徐々に形を変えていき、出現したのは、身長20メートルもありそうな、真紅のフード付きのローブを纏った人の姿だった。いや、少し違うな。人の姿なら当然そこにあるべき物––––––顔がなかった。
「あれ、GM?」
「なんでで顔ないの?」
そういった声が周りの人たちから聞き取れる。
やがて、巨大ローブの右袖、左袖が順に掲げられた。そして、
『プレイヤー諸君、私の世界へようこそ』
低く落ち着いた、よく通る男の声。だが問題は、その声の内容だ。
《私の世界》……男はそう言った。どういう意味だろう。いや、そもそも意味なんて存在するのか?彼が運営のゲームマスターなら、確かに「私の世界」というのは間違っていない。これは何かのイベント、もしくは演出なのか?
俺が思考していると、男の声が再び響いた。
『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ。』
……茅場晶彦?それって確かナーヴギアの基礎設計者であり、ソードアート・オンラインを作った本人だったよな。その彼が一体何を考えているんだ。
『プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、《ソードアート・オンライン》本来の仕様である』
え……?ログアウトボタンが消えてるって……?
どうやら気付いていなかったのは俺だけようだ。俺は慌ててメインメニューを確認する。確かに。そこにあるはずのログアウトというボタンだけがごっそりと消えている。
そんな重要なことに気付かなかったのかよ。どんだけ間抜けなんだ俺。……まあいい、それよりも、どうしてログアウトボタンが消えているのかが問題だ。俺は茅場の方に耳を傾けると、それに答えるかのように、丁寧に説明をしてくれた。
––––––曰く、俺たちはゲームから自発的にログアウトできない。
––––––曰く、外部からのナーヴギア停止あるいは解除も有り得ない。
––––––曰く、ログアウトする方法は一つだけ。このゲームをクリアすること。
そして、俺たちのヒットポイントが0になったその瞬間––––––
『諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』
その言葉を聞いた俺は、ただその場に立ち尽くすしかなかった。
「ははっ……冗談キツイぜ」
有り得ない。認めたくない。
そんな考えが頭の中をぐるぐると循環
していた。その後の茅場の話はよく覚えていない。
––––––デスゲーム。
つまり、そういうことだった。
『それでは、最後に、諸君にとって世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれ給え』
その声の後、俺は無意識にメインメニューからアイテム欄のタブを開いた。
そこにあったものは、《手鏡》。
「何だこれ……?」
疑問に思いながらもその名前をタップし、オブジェクト化を選択する。
現れたのは、間違いなく手鏡。そこに映っているのは、長い時間を掛けて作りあげた俺の前世の顔。なんなんだ一体、と首を傾げていると、突如俺の––––––否、全てのプレイヤーの体が光に包まれ、俺の視界は白に染まった。
そして、すぐに元の風景が目に入る。
「なんだってんだよ……っ!?」
違和感。
それは、自分の口から発せられた声にあった。
さっきまでの男の声とは違い、まるで鈴のように高く、澄んだ声。
俺にとって聞きなれた声。だからこそ、聞きなれているからこそ、俺は違和感を感じた。
まさかと思い、慌てて手鏡を覗き込んむと、こっちを見返していたのは––––––少女。
女の子として生まれ変わった、今世の俺––––––黒崎美雪の顔だった。
***
「ふざけんな!出せ!ここから出せよ!」
「嫌ああ!帰して!帰してよおお!」
大音量で聞こえてきた多数の声で、俺はふと我に返った。どうやらショックで放心状態になっていたらしい。周りを見回してみると、多くのプレイヤーが悲鳴をあげたり、頭を抱えたりしている。『茅場晶彦』と名乗ったローブ姿は既にいなくなっていた。
俺は自分の手を見た。男の時のものとは違い、細く長い指。
……現実。
そこはもう夢の別世界ではない。俺たちが生きていかなければならない世界––––––現実世界そのものだった。
「と、とりあえず………、あいつを探さないと!」
俺は親友の少年を探すために動き始めた。
蹲る者、罵り合う者、抱き合うものを避けて進み––––––そこで俺は、ぴたりと歩を止めた。
––––––この姿であいつに会ったら、俺の本当の性別がばれちまう……!
俺はβテスト時代に彼と一緒にいる時、ひとつだけ後ろめたいと思うことがあった。それは、自分の本当の性別を––––––つまり、俺は女だと明かすことができなかったことだ。
彼ならきっと受け入れてくれると思いながらも、心のどこかで「嫌われるかもしれない」「距離を置かれるかもしれない」と恐れていて、結局最後まで言えなかった。サービスが正式に始まったら打ち明けようと考えたものの、まだその決断ができていなかったのだ。
俺はこんな状況なのに––––––否、こんな状況だからこそ、より彼に嫌われたくない、軽蔑されたくないと思った。思ってしまった。
「……あ……っ」
俺の口から弱々しい声が漏れた。心臓の鼓動が速くなるのがわかる。
もしかしたら、あいつも俺のことを探しているかもしれない。俺の名前を叫んで走り回っているかもしれない。そんな姿を見たくなかった。もし見てしまったら、恐怖と罪悪感に押し潰されてしまうだろうから。
俺は逃げるようにその場を後にした。彼に見つからないような場所をひたすら探し続けた。
やがて、人目に付かないところに辿り着いた俺は、近くの壁に背を預けた。恐怖や悲しみなどの感情が複雑に絡み合い、へたりこみそうになるのをなんとか堪えた。
心臓の鼓動が収まらない。
目頭が熱い。
俺はしばらくその場から動けなかった。
「ようお嬢ちゃん。君すげー可愛いじゃん!どう?俺らとパーティ組まない?」
場違いな程に軽い口調。
声の出どころを確認すると、下衆い顔をした男が3人ほどいた。こんな状況だというのに、一体何を考えているんだ。
「すみません。先約があるので」
嘘は言っていない。約束は確かにしている。
「そんなこと言わずにさぁ」
男の一人が俺の腕を掴んだ。俺の視界にはハラスメント防止コードを発動する為のメッセージが出ている。
「こんな状況なのに何を言っているんですか!少し冷静になって––––––」
「これが冷静でいられるわけねえだろ!!」
俺の声は男の声によって遮られた。男たちの目に浮かんでいたのは、憎悪。それが、こんな状況を作り出した茅場晶彦に対してのものなのか、それともこの世界そのものへ向けてのものなのかはわからない。
だが、これだけは言える。
男たちの目には、過去も現在も未来も、何も映し出されてはいなかった。
怖かった。
男たちの目から早く逃れたかった。
視界に表示されているOKボタンを押せば、男たちは一瞬にして黒鉄宮の監獄エリアへ転送されるだろう。だが俺は、男たちから逃れることしか考えていなかった。
俺は男の手を振り払い、駆け出した。彼らが俺を追ってきたかどうかはわからなかったが、決して後ろ振り返らず走り続けた。
どれくらい走っただろう。
ヘトヘトになった俺は、今度こそへたりこんだ。
体の震えが止まらない。男たちはどこにも見えなかったが、彼らの目の恐怖から解放されることはなかった。
自分から逃げ出したくせに、こんな時にだけ助けを求めるのは間違っている。だけど、今の俺はそうするしかなかった。
「助けて……。キリト……」
俺は、今何をしているかわからない、もしかしたら自分のことを探しているかもしれない親友の名前を呟いた。
後書き
文章量だけ無駄に多いです。
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