大蝦蟇対決
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7部分:第七章
第七章
夜は更け朝になった。その朝になった時にだ。両者は共にだった。
一呼吸置いてからだ。こう言ったのだった。
「朝じゃな」
「腹が減ったぞ」
闘いを続けていて飯のことを忘れていたがだ。朝になってそのことに気付いたのだ。
それで二人共に言った。お互いに聞いてだ。
それぞれ笑ってだ。こう言い合った。
「おお、御主もか」
「御主も腹が減ったか」
その腹の話だった。
「腹が減るのは同じか」
「そしてそれは」
「うむ、蝦蟇もじゃ」
「こ奴等もな」
見れば蝦蟇達も動きを止めていた。それも見てだ。二人は話すのだった。
「ではじゃな」
「少し休みそして」
「飯を食ってからまた」
「はじめるとしよう」
こう話してだった。彼等はそれぞれ大きな握り飯を出してだ。
自分達で頬張り蝦蟇達にも食わせてだ。それからだった。
彼等はだ。あらためて闘う。そして丸一日闘った。
だがそれでも決着はつかない。夕刻になり辺りが赤くなった時にだ。
またしてもだ。二人同時に言うのであった。
「どうやら力は同じじゃな」
「何処までもな」
「このまま闘ってもよいが」
「どうも他のことがしたくなったな」
こうだ。二人で話すのだった。
「ではじゃ」
「闘いを止めそしてじゃな」
それからどうするかというのだった。
徳兵衛がだ。こう児雷也に言った。
「ところで何時までも江戸にいたいか」
「いや、実はそろそろ飽きてきたところじゃった」
児雷也は徳兵衛に答えた。
「そろそろ何処かに移ろうかと思っておった」
「そうか。それではじゃ」
「それではか」
「うむ、この国を出てじゃ」
それでだというのだ。
「海の外を回ってみんか」
「清や和蘭をか」
「他の国もじゃ」
そうした国以外もだというのだ。
「世界は広いぞ。どうじゃ」
「世界か」
「この国だけで暴れてそれで満足か」
「暴れるなら広い方がよい」
児雷也もだ。こう答えるのだった。
「広い場所で思う存分暴れてみたいわ」
「では来るのだな」
徳兵衛は楽しげに笑って話した。
「わしと共にな」
「そうさせてもらおう」
こうしてだった。徳兵衛と児雷也はだ。
それぞれの蝦蟇に乗ったまま空を飛びだ。日本を出たのだった。そしてそのうえで海の外でだ。思う存分暴れ回りに出たのだった。
彼等が江戸を出て他の国、日本の外に出たことを見てだ。綱吉は言うのであった。
「確かに厄介者は去ってくれたがのう」
「それでもですか」
「そうじゃ。いなくなればそれはそれでじゃ」
こうだ。寂しさを感じている顔で話すのだった。
「何かのう」
「そうですな。確かに児雷也はとんでもない厄介者でした」
「悪さの限りを尽くしてくれました」
「騒ぎばかり起こしてくれました」
「しかしですな」
「その騒がしい厄介者がいなくなればそれでじゃ」
やはりだ。寂しいというのだ。
「困ったことじゃな」
「真に」
そのことはだ。綱吉の周りも感じずにはいられなかった。そして綱吉はだ。
周りの者達にだ。こう言うのだった。
「これは予の我儘じゃがな」
「何でしょうか」
「清なり和蘭なりからじゃ」
出島で交流のあるその二つの国の名を挙げて話すのだった。
「あの二人の話を仕入れてくれるか」
「外に出たあの二人の」
「それをですか」
「どうなったか知りたくなった」
それでだというのだ。
「そうしてよいか」
「わかりました。それでは」
「清と和蘭にはその様に」
「そして予だけで知っても何かよくない」
綱吉はこうも言った。
「そのわかったことを瓦版なり何なりで天下万民に教えねばな」
「それはよいことです」
柳沢が綱吉のその言葉に笑顔で頷いた。
「天下の者達もあの二人の痛快な話に喜ぶでしょう」
「そうしたことは皆で知らねば面白くない」
少なくともだ。綱吉はそうしたことに吝嗇ではなかった。それで言うのだった。
「では。そうせよ」
「はい、それでは」
柳沢が応えてであった。こうしてだった。
徳兵衛と児雷也の海の外での暴れる話はその都度伝わりだ。天下の民達を喜ばせた。その痛快な話はだ。何時までも語り継がれることになったのである。江戸時代のだ。数多い物語の一つである。
大蝦蟇対決 完
2011・5・27
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