大蝦蟇対決
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5部分:第五章
第五章
「間違っても邪な者ではない」
「確かに。褒美もいらぬと言いますし」
「欲もありませんな」
「その徳兵衛は毒ではない」
それでだ。薬だというのだ。
「児雷也という悪戯者を懲らしめてくれる薬じゃ」
綱吉はこう言ってだ。徳兵衛を見送ったのだ。そしてだ。
日本橋ではだ。その児雷也がだ。
濁った黄色の蝦蟇に乗り徳兵衛と同じ様な、こちらは白ではなく黒が多い派手な服を着てだ。そのうえでこんなことを言っていた。
「はっはっは、どうじゃわしの術とこの蝦蟇は!」
「くっ、こ奴!」
「相変わらず何という強さじゃ!」
その蝦蟇の舌で吹き飛ばされた与力達が何とか起き上がりながら言う。
「好き勝手しおって!」
「何処まで暴れれば気が済むのじゃ!」
「暴れることがわしの楽しみじゃ」
それだとだ。彼は笑いながら言うのであった。
「それには江戸はおあつらえ向きの場所ぞ」
「この栄えている江戸がか」
「そうだというのか」
「左様、暴れるには人の多い場所に限る」
また笑って言う児雷也だった。
「それだけ人が騒いでわしを見るからのう」
「何と、子供ではないか」
「その様な理由で暴れているのか」
「何という奴じゃ」
「はっはっは、童心じゃ」
自分ではこんなことを言う始末である。
「わしはいつもそれを持っておるのじゃ。それだけよ」
「それで暴れ回り悪さの限りを尽くすか」
「悪童ではないか」
「間違っても盗んだものをそのままにしたり人と殺めたりはせぬ」
確かにそれはしていない。彼は暴れているだけだ。ただそれだけだ。
「この天下の悪童、果たして止められるか」
「おう、止められるわ」
ここでだ。児雷也に応える声がした。
「御主のその悪さ、わしが止めてみせようぞ」
「何奴じゃ、一体」
児雷也はその声を聞いてだ。声の方を見た。そこは丁度日本橋のだ。欄干の頂上であった。
そこに腕を組みすくっと立つ彼を見てだ。児雷也は問うた。
「御主は何じゃ」
「天竺徳兵衛」
彼は笑ってだ。己の名を名乗った。
「聞いたことはあるか」
「うむ、南蛮でわしと同じ様な蝦蟇の術を身に着けた男じゃな」
「そうじゃ」
まさにその通りだとだ。徳兵衛は名乗った。
「わしがその天竺徳兵衛よ」
「そうじゃな。それでわしに何の用じゃ」
「天下を乱す貴様を成敗する」
不敵な笑みと共の言葉だった。
「これよりじゃ」
「ははは、面白いことを言う」
児雷也は徳兵衛のその言葉に口を大きく開いて笑って言ってみせた。
「このわしを成敗するか」
「そうじゃ。そうさせてもらうぞ」
「このわしを倒せる者なぞ天下にはおらぬわ」
児雷也はこう言って憚らない。
「一人もな」
「しかしここに一人おる」
「それが御主だというのか」
「左様、この天竺徳兵衛」
己の名を誇らしげに言ってみせる。
「御主を成敗してしんぜよう」
「ではそうしてみせるがよい」
児雷也は不敵な笑みで徳兵衛に告げる。
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