大蝦蟇対決
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1部分:第一章
第一章
大蝦蟇対決
近頃だ。江戸を騒がせる不埒な輩がいた。
その者の名をだ。児雷也という。
その氏素性が全くわからない。異様に大きな髪にやたら派手な服を着ておりとにかく目立つ。その者がだ。江戸で暴れ回っているのだ。
そしてその暴れ方がだ。尋常なものではなかった。
将軍である徳川綱吉もだ。老中達からその話を聞いて呆れていた。
「何と、蝦蟇を使ってか」
「はい、大蝦蟇に乗って暴れ回りです」
「豪家に入り蔵を破り千両箱をまとめて持ち去り」
「奉行所の追っ手を蹴散らしてです」
「堀を埋めてみせたり空を飛びです」
「縦横無尽に暴れ回っております」
「ううむ、何という奴だ」
綱吉は話を聞いてだ。顔を顰めさせて言った。
「天下を騒がす不届き者。放ってはおけんぞ」
「それで伊賀者と甲賀者を向かわせていますが」
「あ奴、おそらく忍の者か妖術使い」
「それならばと思いまして」
それで彼等を差し向けたというのだ。忍の者達をだ。
しかしだ。老中達はだ。綱吉に顔を曇らせて話すのだった。
「ですが。あの者異様に手強くです」
「忍の者達も蹴散らしてしまいます」
「何人向けようか一蹴しております」
「そうして暴れ回り続けております」
「許せん。江戸を騒がし悪さの限りを尽くす」
綱吉はその顔を思いきり顰めさせて言う。
「捕らえて首を刎ねなければならんぞ」
「はい、盗みもしておりますし」
「ただ。盗んでもその金には興味はないようで」
それはないというのだ。金自体にはだ。
「翌朝には相手に返しております」
「まるで盗むこと自体を楽しんでいる様で」
「人を殺めることはありませんし」
「ただ暴れ回っておるだけではあります」
「ふむ。どうやら只の悪戯者であるな」
綱吉は彼等の話を聞いて児雷也はそうした者だと考えた。
「それでもかなりタチが悪いのう」
「ですから何とかせねばなりません」
「しかしあまりにも強くです」
「蝦蟇が暴れ回りどうにもなりません」
「江戸を騒がし続けております」
「ではじゃ」
その話を聞いてだ。綱吉はだ。
考える顔になりだ。そしてこう老中に話した。
「ここは毒を以て毒を制すじゃな」
「毒をですか」
「そう仰いますか」
「うむ、それはどうか」
こうだ。老中達に話すのだった。
「蝦蟇使いには蝦蟇使いじゃ」
「別の蝦蟇使いをぶつけてですか」
「それで退治するというのですな」
「そうじゃ。それでどうか」
老中達の顔を見ながら尋ねる。
「普通にやってはどうにもならんようじゃからな」
「それではです」
老中達の中でとりわけ目の光が強く思慮深げな顔の男が言ってきた。柳沢吉保である。切れ者であり綱吉の懐刀として評判の男だ。
その彼がだ。こう綱吉に言うのであった。
「それがしが一人知っております」
「それは誰じゃ?」
「天竺徳兵衛といいます」
この男の名を出すのだった。
「この者、実は仙人か何かの類の様で」
「仙人と申すか」
「はい、幕府開闢から暫くして南蛮か何処かに赴きまして」
それでだというのだ。
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