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戦国異伝

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第二百二話 関東入りその二

「だからじゃ」
「守り、ですか」
「そのうえで」
「そのうえで織田家に多くのものを持ったうえで降るのじゃ」
 そうして家を守るというのだ。
「わしは元就殿と同じじゃ、天下を望んではおらぬ」
「家ですな」
「求めておられるのは」
「関東を手中に収めるつもりじゃったがそれが出来ぬのならばじゃ」
 それならというのだ。
「家を守る」
「その為の戦ですか」
「この度の戦は」
「そうじゃ、それに反対するならば去ってよい」
 氏康はあっさりとこうも言ってのけた。
「織田家につくなりせよ」
「家の為に戦い、ですか」
「兵を失うのなら」
「織田信長は民には手を出さぬ」
 あくまで戦うのは武士とだけだ、一向宗の時も降る門徒達にはあくまで手を出すことはしなかった。だから元就も武士だけを従えて戦ったのだ。民の安全が確かだからだ。
「それならばな」
「降り、ですか」
「織田家で生きよと」
「北条から離れてな」
 そうして、というのだ。
「最初からな」
「いえ、我等は北条の臣」
「答えは他にありませぬ」
 これが彼等の返事だった。
「ですから」
「我等もです」
「殿と共にです」
「織田家と戦い」
「北条の家を守ります」
「そうします」
「わかった、しかしじゃ」
 氏康は家臣達の言葉を聞いて満足した、だがだった。
 彼はそのうえでだ、こうも言ったのだった。
「若しもじゃ」
「若しも?」
「若しもといいますと」
「御主達の結束が僅かでも綻べばじゃ」
 その時はというのだ。
「わしは戦を止める」
「負けたと認め、ですか」
「織田家に降るおつもりですか」
「そうじゃ」
 まさにその通りだというのだ。
「そうする、よいな」
「我等の結束が乱れるなぞ」
「その様なことは」
「幾ら何でもです」
「ありませぬ」
「人の心は脆いものじゃ」
 己の言葉を信じようとしない家臣達にだ、氏康は強く告げた。
「だからじゃ」
「我等が殿を裏切ると」
「そう仰るのですか」
「どうかな、まあわしは裏切らぬであろうが」
 己の前にいる彼等の忠義はわかっている、それでこう言ったのである。
「しかしじゃ」
「しかしですか」
「それでもと仰るのですか」
「わし以外にはどうか、それがじゃ」
「わからぬと」
「そう仰るのですか」
「また言うが若しもじゃ」
 実際にまた言った氏康だった。
「結束が僅かでも乱れればな」
「その時は織田家に降る」
「そうされますか」
「若しくは一戦交えてじゃ」
 そのうえで、というのだ。
「敗れればな」
「降ると」
「そうされるのですか」
「そうする、わかったな」
「はい、それでは」
「その様に」
 家臣達はまさかと思いつつ主の言葉に応えた、誰もまさかその様なことはないと思いつつそうした。だがだった。 
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