美しき異形達
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第四十一話 夜の熱気その十一
「同じ大阪と神戸を通っていても阪急と阪神では違うし」
「同じ系列会社だよな」
「そうなったのよ」
ただし阪急は大阪と京都も通っている、その分阪神よりも路線が長い。
「阪急と京阪でも違っていて」
「大阪と京都でもだな」
「違うし。そして近鉄と南海でも」
「また違うんだな」
「それと一緒なの」
「大阪っていってもか」
「それぞれ違うの」
私鉄のカラーにそれが出ている様にというのだ。
「大阪でもね」
「そういえば南海も独特だな」
薊は菖蒲の話から南海電鉄について述べた。
「あそこも」
「そうでしょ、独自のカラーがあるわね」
「ああ、はっきりとな」
「それぞれの私鉄も同じで」
「大阪にもカラーがあるか、そういえば」
ここで薊はあることに気付いてだ、はっとした顔になって言った。
「難波でもな」
「違うでしょ」
「道頓堀の辺りと船場とかで」
「そういうことよ」
「大阪はそれぞれの場所で色が違うな」
「そうなのよ」
「そうなんだな、一つの色じゃない街なんだな」
しみじみとして言う薊だった。
「そういうことか」
「そうよ」
「同じ難波でもか」
「住吉と天下茶屋も少し違うから」
同じ様でいて、というのだ。
「そういうところを見てもね」
「面白いよな」
こうした話をして一行は住吉大社から地下鉄で天下茶屋に向かった、そして天下茶屋の商店街に行った。
商店街は道はあまり広くないが見事なアーケードで店が左右に長く連なり人が行き交っている。その中に入ってだった。
薊は目を瞠ってだ、菖蒲にこう言った。
「おい、ここってさ」
「いい場所でしょ」
「何でもあるな」
その左右に連なる店達にだ。
「食いもの屋もあればな」
「他のお店もね」
「ここはいい場所だよ」
「元々は闇市からはじまったのよ」
この天下茶屋の商店街はというのだ。
「古い場所よ」
「終戦直後からか」
つまり六十五年以上の歴史があるのだ、それだけの歴史があればもうそれはひとかどのものだと言っていいだろう。
「それはまた凄いな」
「そしてその歴史の分だけ」
「こうして色々なお店があってか」
「面白い場所になっているのよ」
「とにかく美味そうなものが多いな」
「何から食べるか迷うわね」
「ああ、それにな」
迷うだけでなく、と返す薊だった。
「全部食えるか心配だよ」
「ここでも食い倒れってことね」
「そうだよ、あたしにはわかるよ」
その直感で、だ。薊の直感はここでも生きている。
「ここは美味いものばかりだよ」
「大阪は下町もそうだから」
「本当に何処も美味いものばかりなんだな」
「しかもね」
これで終わりではないのが大阪だ、それで菖蒲も言うのだった。
「安くてサービスもいいわ」
「そうそう、接客いいよな」
「大阪はね」
「やっぱり五月蝿いんだな、その辺り」
「関西全域がそうだけれど大阪はね」
特に、というのだ。
ページ上へ戻る